15話:おんぶからイチャイチャが始まりそうです
「先輩方。我はもう限界です。私に構わず先に言ってください」
瑠々は下を向き、肩で息をしながら弱々しい声で翔矢と悠菜に訴えかける。
「まだ大した距離歩いてないだろ?」
「一緒に頑張ろうよーーー」
2人で瑠々を励ましてみるが……
「もう本当に無理です」
説得は虚しく効果がなかったが翔矢には切り札があった
「お前は勇者の魂を持ってるんだろ?こんなことで負けていいのか……?」
いつも勇者の魂を持つと言うのは瑠々がしきりに言っていることだ。
恥ずかしいがこのネタを出せば少しはやる気になるだろうと考えた。
「翔矢先輩、高校生にもなって何言ってるんですか? こじらせてるんですか?」
「……よし置いていくぞーーー」
翔矢は完全に頭に来ていた。
これはもう置いて行こうと決断した。
「残念だけど、先生来たら限界ですって言ってね」
悠菜は瑠々を気に入っていただけに本当に残念そうにしている。
教師は、こういう場合に備えて、生徒のグループ何組かを挟んで登山している。
まだ登り始めたばかりだし少し待っていれば来るだろう。
「確か後ろは本郷先生だったな」
本郷先生は、体育教師で大柄な体格だ。瑠々の1人や2人簡単に抱えて下山できるだろう。
「ほっほほほほほほほ本ゴゴゴゴ」
しかし本郷先生の名前を聞いた途端に瑠々の体が震えだした。
「翔矢先輩、我をおぶって逃げてくれーーーーー」
「いや、無理だから」
瑠々が突拍子もない事を言うことは珍しいことではない。
むしろ言わないことの方が珍しいが、今回は様子が、さらにおかしい。
まるで何かにおびえているようだ。
「あの大魔王ベルゼブをデコピンで倒せるほどの力を持つ本郷先生と遭遇するのはまずい。
おぶって逃げてーーー」
「だから無理だって」
流石におぶって登山できるほどの体力はないので御免だが今ので翔矢は事情を察した。
本郷先生はバリバリの体育会系で暑苦しく面倒くさいところがあるので苦手なのだろう。
「そこをなんとかーーー」
と瑠々は引き続き駄々をこねるが、無理なものは無理だ。
「ひゃっひゃひゃーーー。瑠々ちゃん!!
そんなひ弱そうな男に頼まなくても俺がおぶってあげるよーーー」
いつの間にか、こっちに来ていたモヒカンが後ろから名乗りを上げた。
「いいんですか? お願いします」
瑠々は特に抵抗も警戒もなくモヒカンにおぶさる。
( 機会くれてサンキューな)
モヒカンが耳元で翔矢に礼を言ってきた。
そういえば瑠々か悠菜と仲良くなれるように工面すると強制的に約束させられていた。
勝手に恩を感じてくれるなら、ラッキーだと思ったししょう矢は何も言わずに頷いた。
「これで俺は登山中、瑠々ちゃんのあるかないか分からない胸の感触を堪能できる訳だ。
ひゃっはーーー!!」
しかしモヒカンは思った以上に馬鹿だった。
心の声が漏れまくっている。これでは下心がバレバレだ。
「うーーー。背に腹は代えられぬ……いや胸に本郷は代えられぬ。モヒカン先輩頼みます」
「うひゃーーー喜んでーーーー!!」
一瞬、瑠々の顔が嫌悪感を示したように見えたが、モヒカンにおぶさる事を選んだようだ。
「悠菜……女子から見てこういう状態どうなんだ?」
瑠々が色々特殊なのは理解しているが、普通はどうなのかと思って、無意識な感じで悠菜に聞いてしまった。
若干セクハラな気がして言った後で少し後悔したのは内緒だ。
「え? 男子なら、そう言うのしょうがないけど触らないでね? さすがに怒るよ?」
「触るか!!そういう意味で聞いたんじゃねーーーよ!!
こんなこと聞いた俺も悪かったけどなー!!」
悠菜とは長い付き合いだが、からかっているのか本気で答えているのか未だに判断できないことは多い。
「翔矢せんぱーーーい。悠菜せんぱーーーい。
イチャイチャしてると置いてきますよーーーーー」
「イチャついてねーーーよ!」
「イチャついてないよ!」
悠菜と話している間に、モヒカンとおんぶされている瑠々は少し先を歩いていた。
瑠々の言葉に悠菜と二人で息ぴったりで否定してしまい恥ずかしくなった。
悠菜も少し恥ずかしそうな表情をしている気がする。
卓夫や真理にからかわれるのは慣れているが、普段からかってこない奴に言われると、すごく恥ずかしい。
というか瑠々は体力が限界と言っていたが、今の大きな声はとても体力限界の人の声とは思えない。
「今行くよーーー」
そう言って走り出した悠菜の後を翔矢も追った。
*****
ペネムエは、アテナ側の天使と話し合い異世界転生計画を阻止するため、岩が転がり始めたあたりを、徒歩で探索し天使を探していた。
「まだ遠くには行っていないと思うのですが……」
この辺りは登山コースなどではないようで足場が悪い。
周りも木々が生い茂っていて時々かけ訳なければ進めない場所もあった。
天使同士は、気配で近くにいるかいないか程度は分かるが、そこまでの精度はない。
人がたくさんいる場所に天使が紛れたりすれば、知り合いなどでない限り、触れないと人間か天使かも判断が難しかったりする。
手がかりも見つからないので、そのまま闇雲に進んでみたら広いスペースに出た。
100メートルほどの円系のスペースに地面は草が生えている。
山なのである程度の斜面にはなっているが、この円形の部分に木は生えておらず原っぱに近い印象を受ける。
「登山コースの休憩スポットにでも出てしまいましたかね?
後で翔矢様に作っていただいた、お昼のお弁当ここで頂くことにしましょう」
翔矢は登山用のお弁当をペネムエの分も作っていた。
今日は任務だからと一度は断ってみたが、押し切られる形で持たされた。
「今から楽しみです」
まだ昼まで2時間ほどあるが翔矢が今まで作ってくれた料理はどれも気に入っていたのでペネムエは、心待ちにしていた。
「……わたくしとした事が、今は任務に集中しなければ」
弁当箱をいったんポーチにしまった。
魔法のポーチに何かを収納すると収納した段階の状態が維持される。
食べ物を入れると半永久的に保存可能だ。
ただし魔法石や道具の魔力は、普通なら放置すれば自然に回復するが、このポーチにしまうと入れた状態のままで魔力が回復しないという欠点もある。
ペネムエは探索をしているとある事に気が付いた。
「……結界の魔法石?」
今いる円形の休憩所のような場所の外側の木の何本かに魔法石が埋め込まれている。
(しまった……この場所は罠!!)
この魔法石は人払いや、防音、さらに結界内での遠隔操作の道具が使用できない効果があったはずだ。
(これでは翔矢様に渡した通信用の魔法石が使えない……)
しかし、結界の外に出れないわけではない。
相手が何を考えているかは分からないが閉じ込められてる訳ではないので、ただこの場所を離れれば済むことだ。
ペネムエが早く結界の外へ出ようと、走り出そうとした瞬間、声が聞こえた。
「あの距離から補助魔法なしで狙撃できる地点で、アルマ側の天使はあなたしかいないと思っていたわよ……ペネムエ」
ペネムエが振り向くと、腰まで赤い髪が伸びた天使リールが立っていた。
「リール? なるほど……今まで姿が見えなかったはずです。」
リールが羽織っている赤いフード付きのマントは気配や声、立てた音まで完全に消すことができる上級の道具だ。
効果はフードを被っている間だけだが、ペネムエが姿を隠すのに使っているブレスレットと比べると性能はあちらが上だ。
「でもアテナ側の天使があなたでよかったです」
ペネムエはリールの姿を見た時から、ずっと笑みがこぼれていた。
ペネムエはリールが誰よりも徳と才能のある天使だと思っているからだ。
「リールが……人間を手にかけることを望むはずないですよね?
……お願いします。アテナ様を説得して異世界転生を白紙に戻すよう頼んで頂けませんか?
わたくしもアルマ様に、アテナ様と協力するようお願いしてみます。
あのお2人が協力すればベルゼブを倒すか……封印するなど他の方法が見つかるはずです」
リールからの返事がない。
しかしゆっくりとこちらに向かってくる。
「リール?」
ペネムエは自分の知ってるリールとは違う雰囲気を感じて不思議に思い首をかしげる。
ビュン!!
勢いよく風を切るような音が辺りに響く。
ペネムエは驚き反射的に後ろによけたが、尻もちをついてしまった。
「えっ……リール……どうして……?」
ペネムエはリールの行動に絶句し声が震えた。
リールの右手にはサーベルが握られていた。
「わたしも、アルマ側の天使があなたでよかったわ。『お人形さん』」
リールはペネムエの目の前にサーベルを突き出しその言葉を言った。
一番言われたくない『人形』という言葉を……
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