148話:脱出から再突入が始まりそうです()
「やっぱり、セカンドの能力は便利だなぁ」
「それはどうも」
一般人へ攻撃を加えた、フォースという男。
それを見かねたサヤは白装束の集団の前へと飛び出してしまった。
「んで? 私に何の用ですかね?」
「聞かなくても分かってるんだろ?
お前の配り歩いてる能力を、全部俺に渡せ」
「そう言われるのが分かってたので逃げてたんですがね。
ちなみに能力は1人1つしか得られませんよ?」
「後ろにいる、まだ能力を持たない信者たちの姿が見えないのか?」
フォースは20人ほどいる、後ろの集団を指差した。
全員が同じ白装束に不気味な仮面。
フォースとセカンドも仮面を被っているが、こうして話していなければ、性別の判断すらできないくらい体の隠れる装束だ。
「これで全員ですか?」
「おっ? やっぱ無関係な奴を傷付けたら気が変わったか?
信者で能力を得ていないのは、ちょうど200人だ」
「了解しました、私は平和主義なので無関係な人は巻き込みたくないのですよ」
サヤは会話しながら、魔法のカバンをガサガサと漁りだした。
「特別に、今なら200連ガチャ無料です!!」
サヤは、カバンの中から無数のガチャガチャのカプセルを放り投げた。
「イテェな!! まぁいい。
最初からおとなしく渡せばいいんだよ!!」
放り投げられたカプセルが何個かフォースの頭に当たったようで不満を漏らすが、彼は一目散にカプセルを拾い集めた。
自分が能力を得たときの経験で、こういうカプセルに能力が入っているのを彼は知っている。
「おい、セカンド手伝え」
「私に命令していいのはゼロ様だけよ」
「そのゼロ様の命令で、能力を集めてるんだから同じだろう」
「それもそうか、じゃあ信者のみなさん、よろしく。
200個だから、1人10個がノルマね」
「おい!! ……そっか別に幹部の俺らが動かなくてもいいのか」
セカンドは全く動こうとせず、後ろの信者に命令するのみだった。
一瞬だけ不満そうにしたフォースだったが、自ら動く必要は全くない事に気が付き立ち上がった。
その後、20人の信者はおとなしくカプセルを拾い集めた。
「セカンド様、これで全て拾い終わりました」
「ありがと」
信者の代表が、紙袋をセカンドに手渡した。
「ったく素顔は見せない決まりなのに、女のセカンドにみんな懐きやがる」
「イエスよ」
「今のには答えは出さなくていいんだよ。
声は若いが、実は、おばはんってオチがあるかもしれないのによぉ」
「14歳よ」
「マジ?」
「だから手を出したら捕まるよ?」
「出さねぇよ!! 俺は声優の天道ユリア様、一筋なんだ」
「私は詳しくないけど、この人?」
セカンドはフォースにキーホルダーを手渡した。
「ん? おぉ!! ユリア様のアクリルキーホルダーじゃないか!!
これ、俺にくれないか?」
「いいわよ、まだ199個くらいあるし」
「そんなに沢山?」
「うん、さっきのガチャのカプセル、全部それだから」
「はっ?」
フォースは、大慌てでセカンドから紙袋を取り上げて、中身を確認した。
彼女の言う通り、ガチャのカプセルの中身は、全て天道ユリアのアクリルキーホルダーだった。
「おっ、これは直筆サイン入り!! って言ってる場合か!!
あの占い師騙しやがった!! 気が付いてたんなら、なんで言わなかった?」
「どっちみち、これ以上追いかけてたら“転生の儀”に間に合わなくなるもの」
「ゼロ様の命令はどうなるんだよ?」
「まぁ転生する前に、この汚れた世界を浄化したいってだけだから。
サードとファイブ、あとセブンスがいれば大丈夫でしょ?」
「俺も数に入れろよ!!」
「戦闘向け能力のくせに、女一人捕まえれない奴が?」
「お前にも半分は責任があるんだよ!!」
「はいはい、こんな事を言っている間に、占い師どころか、観客も全員逃げたわ」
「だ・か・ら気が付いてるなら言えよ!!」
観客の消えた館内に、フォースの声が響くのだった。
***
「いやぁ腐っても天使ですねぇ。
この短時間で観客全員を逃がしてしまうとは」
「別に腐ってないわよ!!」
セカンドとフォース、そして信者たちが話し込んでいる間に、リールは係員に指示をして観客を逃がす事に成功していた。
それなりの人数はいたが、元々博物館内が静かだったのもあり、逃げ出しても気が付かれる事はなかった。
「なんか私が助けた気がしないでもないですが一応、お礼はいっておきます」
「一応って……まぁいいわ。
ってかあんたは、この世界の人間に能力を配ってたんじゃないの?
なんで能力渡さずに、あいつらから逃げてるのよ?」
「あなたは包丁職人さんが、人を斬ろうとしてる人に包丁を売ると思いますか?」
「そりゃそうだけど……実際に渡した能力で殺人事件は起こったじゃない?」
「渡した力を、どう使ってもその人の自由です、まぁ良い気持ちはしませんけど。
しかし最初から悪事が目的の人に渡すつもりはないですね」
「さっきの奴らの目的を知ってるのね!? 教えなさい!!」
「全部は知りませんよ? 彼らは“転生教”という宗教団体。
目的は、この世界を浄化して異世界に旅立つ事だそうです」
「世界の浄化って? それにあいつら何で異世界転生なんて知ってるのよ?」
「世界の浄化は意味不明ですが、そんな事を言う奴にロクなのはいません。
異世界転生は……ラノベの読みすぎですかね?」
「ラノベの読みすぎッて、本当にそれだけでしょうね?」
そこまで話したところで、ようやく博物館の出口が見えた。
「おっと、追っ手はいないようですね!!」
サヤは出口にも信者がいる事を警戒していたが、その姿は見えない。
先に脱出した人は恐怖で震えたりしている。
しかし、それで大きなパニックが起こっているという事もなかった。
「都会の無関心のせいか、日本人が出来過ぎているのか。
まぁ混乱が無くて良かったですね。」
「あんた他人事みたいに……」
サヤの、あっけらかんとした態度にリールは1発くらい殴ってやろうかと思ったがグッと堪えた。
「……ここまで来たら、あんた1人で逃げれるわよね?」
「まぁ、よっぽど強いのが隠れてない限りは。
リールちゃんは、どうするんです?」
「あんたにリールちゃん呼びされる筋合いはない!!
ってか何で私の名前知ってるの……まぁいいわ。
この状況で転生教が追って来ないのはおかしいわ。
引き上げるにしても、この博物館の出口は、ここだけだし。
逃げ遅れた人が酷い事をされてるかも」
「だったら私も!!」
逃げ遅れた人間がいる可能性を聞き、サヤは身を乗り出した。
「ダメよ!! これが、あんたをおびき出す作戦かもしれない!!
その配ってる能力を奪われない事だけを考えなさい!!」
「リールちゃんにしては冴えてますね」
「あんたが私の何を知ってるのよ!!」
「ペネムエちゃんよりは頭が悪いって事は」
「あの子より頭が良い天使なんて、そういないわよ!!
とにかく、中の奴らは私が何とかするわ」
「本当に1人で平気ですか?」
「見た所、まともに戦闘ができそうなのはフォースって奴だけだったからね。
それに私は戦いなら最強よ?」
「へぇ……すごいですね」
サヤは乾いた目でリールを見つめた。
「信じてないわね……」
「あはぁ……まぁどの道、私は逃げるのが正解みたいですね」
「そういう事!!」
そう言い残し、リールは博物館内に戻るのだった。
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