146話:本屋から大人向けが始まりそうです()
翔矢とペネムエは、蓮と鈴に教えられた道順通りにスカイタワーへと向かった。
すると10分程度で目的地に到着した。
「よし、着いたぁ!!」
「やはり地元の方に聞くのが一番ですね」
「それにしても……」
「聞いてはおりましたが……」
「すごいデカい!!」
「すごく大きいです!!」
目の前にそびえ立つスカイタワーを見上げながら2人は声をそろえて興奮していた。
周りの人からはクスクスと笑われたりもしたが、そんな事は気にならない、いや気が付かない程だった。
「さっそく中に……」
「と言いたい所ですが……」
入り口は目と鼻の先なのだが2人は何やら落ち着かない様子だ。
周りには、田舎県ではお目に掛かれないようなお店がズラリと並んでいる。
この誘惑に負けてしまったのだ。
「リールとの待ち合わせまで時間に余裕あるし、日が暮れたくらいの方が景色が綺麗かもな」
「となると時間を潰さなければ!!」
「だね!! 展望台って長時間いる場所ではないと思うし、せっかくだし店見て回ろうか?」
「はい!!」
「じゃぁ最初は……」
翔矢がキョロキョロとしながら、入る店を考えていると、ペネムエがスゥっと指を刺した。
その指は、先ほどの戦いで瓦礫を必死に寄せたときに出来た切り傷が痛いたしく残っていた。
「ぺネちゃん……ごめん」
今までのテンションが嘘のように翔矢は落ち込んでしまった。
「? あっ気にしないで下さい!!
わたくしの方こそ、お見苦しい物を見せてしまいすいません。
ちゃんと薬草を塗りましたし、人間とは体の構造が違いますので、明日の今頃は元通りです」
少しだけ気まずい空気になったのを気にしてか、ペネムエは手首をブルブルさせて、平気な事をアピールした。
「それは知識としては分かってるんだけどね……
やっぱり俺のせいで女の子がケガしたって考えると、気が重いや……
治るから良いって考えだと、いつか治らないケガをしちゃうかも……」
「その時は……翔矢様に責任取って頂きますかね?」
「嫌だって言うのも失礼と言うか違う……
なかなか難しい提案をしてくるね」
いまだにペネムエの気持ちに気が付かない翔矢は困惑する。
だが、さすがに責任を取るのが嫌と言うのは無礼すぎるだろう。
「えへへ、申し訳ないです」
ペネムエは甘えるように笑うだけなので、その真意はますます翔矢には理解できない。
「まっまぁ俺も気を付けるけどさ……
やっぱりケガされるのは俺もツラいから」
「分かってますよ!!
わたくしも、こんな方法で欲しい物を手に入れようとは思ってません」
「欲しい物? 分かったよ!! さっきのお礼に何でも欲しい物……
予算3000円で買ってあげる!!」
「欲しい……いえ買い物の話では……
でも、お言葉に甘えさせて頂きます!!」
「さっき指刺したのは……本屋か!!」
「イエスでございます!!」
テンションを取り戻した2人は駆け足で本屋へと向かった。
***
「これは、すごい数の書物……わたくしが今まで見た中で、天界図書館の次に蔵書がありそうです!!」
都会の本屋の品ぞろえに目を輝かせるペネムエ。
「あはは、選びごたえありそうだね。
俺もグルグル見てるから、選び終わったら、通信用の魔法石で教えて」
「かしこまりました!!」
こうして翔矢とペネムエは、一旦別行動をする事にした。
***
「えっと、ここはライトノベルのコーナーですね。
おぉ!! アニメでみた作品の原作が、こんなに沢山!!」
ジャンルを問わず本が好きなペネムエは、翔矢と別行動になっても変わらず目を輝かせていた。
「翔矢様に、使わなくなったタブレットを頂いて、サブスクと言われるサービスで本やアニメを見ていますが、やはり紙の本だと独特の安心感があります!!」
1冊1冊、本を指でなぞりタイトルを確認しながら移動していくペネムエ。
「異世界系のライトノベルはタイトルが長くて確認が大変です。
どれも創作物でありながら、どれも異世界の特徴をとらえているのは不思議ですね。
天使と交友のある人間が作者だったりするのでしょうか?」
そんな疑問を持ちながらタイトルを確認している内に、ライトノベルのコーナーは一周してしまった。
「知っている作品は、やはり巻数が多いですね。
集めてしまうとキリがありません……
ライトノベルはサブスクで楽しませて頂きますか」
ライトノベルのコーナーを後にしたペネムエは特に目的もなく本屋をグルグル物色しだした。
「ファッション雑誌ですか……
わたくしの場合は、服を購入する必要は皆無ですが、だからこそ為になりますかね?
……こっこれは!!」
雑誌をペラペラと捲ると1つの記事に目が留まった。
その特集は『人気声優、天道ユリアに独占インタビュー』というタイトルで5ページほどはある。
「知識としては分かっておりましたが、本当に人気なのですね。
……敵情視察です!!」
雑誌がファッション誌なのでインタビューも服装に関するのがほとんどだった。
「部屋着は、人様に見せられる格好ではありません……
少し動けば、下着が丸見え絵でしたからね、嘘は答えていないようです。
って、その自覚があるなら、男性の翔矢様の前でしないでくださいよ!!」
今日のユリアの部屋での出来事を思い出し、ついつい声が出てしまった。
ほんの少しは他の客の視線を浴びたが、店内のBGMなどにかき消されて気にするほどでは無かった。
「まぁ……この世界の服装は参考になりますし、これに決めますか」
なんだかユリアに負けた気はしたが、雑誌の内容は参考になりそうな記事が多かったので、これを買ってもらう事に決めた。
「思ったより時間が経っていませんね、決まったら通信用の魔法石で連絡と言われましたが、どうしましょう?」
雑誌を持ったまま、もう少し見て回るべきか考えていると、ちょうど棚の向こうに翔矢の頭が見えた。
「あっ!! 翔矢様!! お言葉に甘えて買って頂きたい本が決まったのですが……」
ほかの客の迷惑にならない程度の駆け足で翔矢に近づいた。
その翔矢のいたコーナーに気が付くと、ペネムエは顔を真っ赤にして、この場を離れようとした。
「あっペネちゃん、思ったより早かったね」
しかし翔矢はペネムエが立ち去る前に声を掛けた。
その様子に変なところはない。
(え? この状況を一応女の、わたくしに見られて平気?
男性なら見るのは普通と言いますが、表情一つ変えないレベルで平然としていられる物なのですか?)
「??? どうしたの? 赤くなって」
「だだって、わたくし、本は好きですが、こういう本を見て良い年齢には達していませんので……」
「はっ?」
ペネムエが何を言っているのか翔矢には理解ができなかった。
そこで思い立ったように後ろを見ると、そこには大人向けの本がズラリと並んでいた。
「あっわっ違う!! 正面がスポーツの本だったから!!」
「夜のスポーツ?」
「なんで、そういう際どい表現するの?
普通のスポーツ!! 別にこういうの欲しい訳じゃないから!!」
ようやく状況を理解した翔矢はパニック状態。
身の潔白を証明しようとしているのに、何故か、大人向けの本を手に取り指をさす。
「金髪……巨乳……わたくしと真逆で傷付きます」
「これは……うっかり……」
翔矢は青ざめながら本を棚に戻した。
「海では、胸は小さいのが良いと言って下さったのに……」
「だから誤解!! ん? 俺は何に対して怒られているんだ?」
「もう!! 翔矢様なんて嫌いです!!」
「きっきら……」
翔矢の心に何かがグサリと刺さった。
今まで自分に懐いていた妹が、中学になった途端に口を聞いてくれなくなった兄はこんな気持ちなのかもしれない。
「う・そ、でございます。
でも、傷ついたのは本当ですので、この雑誌に追加して、服か何かを買って頂きたいです」
ペネムエは笑顔で、さっき選んだファッション誌を翔矢に向けた。
「それで機嫌を直してくれるなら……」
「では会計に参りましょう」
「了解!!」
「さっき手に取られた大人向けの本はよろしいのですか?」
「だから、スポーツの本……
昨シーズンのメジャーリーグをまとめたのが出てたんだよ!!」
翔矢は必死に自分が選んだ本を必死にペネムエに見せた。
彼女が分かってくれたのかは、本人しか分からない。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
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