145話:検証からハッキングが始まりそうです()
「蓮、本当に行かせて良かったの?」
戦いを終えた鈴は、現場を動かないまま漣に尋ねた。
「ドクターの言う通り、あのまま戦いに勝っても、こっちの被害が甚大になるだけだったからな」
少し悔しそうな表情ではあるが、彼は落ち着いていた。
「君が勝てる前提なんだねぇ」
ドクターが煽るように下から漣の顔を覗き込みながら口を開いた。
「当然だ、俺たちが負けたときは、この世界の終わりを意味する」
「ねぇ……“あの事”を銀髪に話してみたら?
私たちの事を助けてくれたし協力してくれるかも……」
鈴の言葉を聞いたドクターは、彼女の方に移動し下から覗き込み、また煽るような態度を見せた。
「無理無理!! あの銀髪は人間の味方だと思っていいだろう!!
だが!! だとしても!! 異世界から来た存在に違いは無い。
人間の味方だと言っても“自分たちの世界を犠牲にしてまで”味方してくれるとは思えない」
「言い方はともかく、ドクターの言うとおりだ。
恐らく銀髪は、あの事は知らない、伝えてどうなるかは未知数だ。
事故で知られてしまった場合は仕方ないが、こちらから話すのはリスクが大きい」
「……分かった、私は漣に従うわ」
そう口にはしたものの、鈴は納得していない表情をしていた。
「まぁ恩も出来てしまったし、銀髪を倒すのは最後にしようじゃないか?
危険度は低いのに強い奴を相手にするのはリスクが大きいからね」
「そうだな、今は私欲のために魔法を使っている能力者と、その出所を追う」
「了解」
ここで、ようやく鈴の表情は明るくなった。
「まぁその調査は大きな手掛かりも無いし下っ端に任せるとして……
今は、この貴重なデータを収集せねばぁ!!」
いつもに増してハイテンションになったドクター。
その理由は目の前の光景にあった。
「いつも思うけど30代のテンションじゃないわね」
「だが、これは確かに素人の俺から見ても異質だ」
「私も、それは分かってるけど……」
先の戦いで使った翔矢の鉄を操る力。
その能力はドクターの想定を超えていた。
彼は漣の斬撃によって切り刻まれた瓦礫など、全て戦闘前ぞ状態に修復してしまったのだ。
その上、今回の戦いより前の能力者により開けられた穴は、ドクターの要望により、修復はされていない。
「特定の物質を自在に操る能力というのは、まぁアニメでは見たことがあるが、とてつもない制度だ!!」
ドクターは大はしゃぎで現場を撮影している。
「修復された後なんて撮影して意味があるの?」
「鈴君は考えが甘いなぁ、これを見たまえ!!」
呆れてばかりの鈴にドクターは撮影した写真を見せた。
漣も一緒になってスマホをのぞき込むと、そこには同じような写真が2枚並んでいた。
「これは?」
「1枚目は能力者の事件が発生した後の調査で撮影した写真。
2枚目は、たった今撮影した写真だ。
この写真を重ねると……こうだ!!」
スマホを少し操作したドクターは再び2人にスマホを見せた。
「なるほど、完全に理解した」
「蓮……分かってないよね?
たぶん、全く同じ状態に復元されてるって言いたいんだよね?」
「エクセレント!! その通り!!
使ったリモコンとかを同じ場所に戻そうとしても1ミリもズレずに同じ場所と言うのは不可能!!
だが宮本翔矢の魔法は、それを可能にしている!!
能力の使い手が把握していない部分まで復元している訳だからね!!
やはり魔力は単に異世界のエネルギーという訳ではない!! そして……」
ドクターは長々と自分の説を語っているが蓮と鈴は聞いていない。
聞いた所で半分も理解できない事は分かっているからだ。
それでも話が止まらないので、蓮は無理やり話題を変えた。
「危険度の低い奴の討伐は後回し。
この方針転換に異論はない。
だが以前、六香穂支部での戦いで現れた黒猫に変化する種族。
あのクラスの存在が敵になれば、我々に勝ち目はない。
装備の強化が必要だ」
「今のシステムだと、それなりの戦闘訓練が必要なのも痛い。
私と蓮、あと……セクハラしか能がない健吾しか私たちに味方はいない」
2人の指摘に、ドクターはやれやれとカバンからゴツ目のノートパソコンを取り出す。
「我々人間には魔力を入れられる器のような物が存在するのは分かっている。
個人差も大きいが、少なくとも電力換算で首都圏1年分の計算だ。
だが、この世界の人間の器はカラの状態、無理やり魔力を注ぐとこうなる!!」
ノートパソコンには細々としたデータと共に写真が写されていた。
その写真には、昏睡状態で入院している3人の男が映っていた。
彼らは、翔矢達が北風エネルギー六香穂支部で戦闘した、鷹野・虎谷・八田だ。
あの事件から1か月も経っていないが、誰か分からないレベルで衰弱している。
何度も見ている写真だが、漣と鈴は揃って息を飲む。
「分かったら、今は人工魔力を武器として使う他ない。
まぁ、さらなる強化は目指すよ!!」
「いや、さっき鈴も言っていたが、現状、訓練を積まないと戦力にならないのが痛い。
誰でも、ある程度まで戦えるようになる方法はないのか?」
「実はもう設計図までは出来ている!!
まぁ最低限、本人の戦う意思は必要だけどね」
「なら、何故作らない?」
「1個作るのにも莫大な資金が必要でね。
私たちのプロジェクトは、会社の中でも一握りしか知らない。
ゆえに企業規模の割に予算は少ない“佐島会長”にでも頼めば開発できるだろうが……」
蓮は佐島会長という言葉に反応し眉間にシワを寄せた。
「ダメだ……奴は人類の害悪だ!!
異世界の存在が知られたら何をしでかすか分からん!!」
この蓮の希薄に、ドクターは珍しく後ずさりした。
「ま、まぁ……どの道量産するのは現実的でないね。
戦闘員の増強という目的は果たせないさ……
ん? ちょいちょいちょいちょい!!」
「どうした?」
話しながらノートパソコンを眺めていたドクターが、急にグルグルと回って焦り始める。
「かなり前に凍結して、今、久しぶりに開いたんだが……
何者かにハッキングされた形跡がある!!」
「なにっ?」
ドクターは大慌てでパソコンのデータを確認して、ものすごい勢いでキーボードをたたいている。
「うむ、ハッキングされたのは“デュアル・バングル”の設計図のみだ。
設計図だけあっても凡人には理解すらできないし支障ないね。
恐らく、ハッカーが腕試しにウチの会社に侵入して適当に盗んで行ったんだろう」
この言葉に蓮と鈴はホッと胸を撫で下ろした。
このれが数時間後に発生する大事件の一角だとも知らずに。
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