143話:ズッシリから謝罪が始まりそうです
「翔矢様!! 聞こえましたら返事をして下さい!!」
ペネムエは場所を変えながら必死に瓦礫をよせて、時より声を掛ける。
だが、翔矢からの生の声での返事は無い。
「はぁ……はぁ」
暑さ息が荒くなるが、それでも手を止める事はなかった。
「はっはっはー!! みんな無事かと思ったけれど、1人は無残な死を迎えてしまったかぁ!!」
陽気な声と共に向かって来たのはドクターだった。
心無い言葉にペネムエは彼を無言のまま鋭く睨みつけていた。
「おー怖い怖い凍り付けは勘弁だよぉ!!」
ドクターは人見知りの子供の真似をするように蓮の後ろに隠れた。
「お前が悪い、だが状況が分かっているのなら話は早い。
どうにかして宮本翔矢を探せないか?」
「彼の使っていた魔力を探れればと思ったんだけど無理だったね」
「無理と言いますと?」
少しだけ冷静さを取り戻し、怒りを抑え込んだペネムエが質問する。
「君はアニメでよくある『父さん!! 魔力を感じます!!』みたいなのは出来ないのかい?
この辺の鉄全てが、なぜか魔力でコーティングされたような状態になっている。
これでは1人の人間が纏っている魔力なんて絞り込めないね」
スマホの画面を見ながら説明するドクターにペネムエはハッとした。
必死になりすぎて気が付かなかったが、彼の言うとおり、辺り一帯が魔力に満ち溢れているような状態だ。
「ここに来たときは、このような状態ではなかったはずですが……
っと、そんな事を考えている暇はありません。
そうです!! わたくしなら翔矢様の魔力で探せます!!」
ペネムエは目に神経を集中させ、魔力を視認した。
すると、すぐ近くの瓦礫の山の中にサーモグラフィーを使っているように単色で人の形が見えた。
「あれ? 魔力の色がグレー?
ファイターの力を使っているのならば赤黒い魔力が見えるはずですが?」
いつもと違う点はあるが、状況からこのグレーの魔力が翔矢である事は間違いないはず。
ペネムエは大慌てで、その場の瓦礫をどけた。
するとすぐに翔矢の顔が見えた。
「翔矢様!! ご無事ですか?」
「たぶん大丈夫だけど、ビックリするくらい痛くなくて体は動かないんだよね」
「すぐに助けます!!」
体を覆っている瓦礫をどけていると、蓮と鈴も無言で手伝っているのにペネムエは気づく。
「ありがとうございます!!」
「この世界の人間なら誰であろうと助ける。
こいつを助けたら、貴様はすぐに消去する」
「私は蓮に従うだけよ」
2人はペネムエと目を合わせようともせず黙々と瓦礫をよせている。
翔矢も礼を言おうとしたが、重たい空気にタイミングを逃してしまった。
「これで全部ですね、出血は無いようですが動けますか?」
3人がかりでの作業はすぐに終わり、翔矢の体の上の瓦礫は全て取り除かれた。
ペネムエは医療にそこまで精通していないが、心配していたような大きな怪我は無さそうだったので少し緊張は和らいでいた。
血色も悪くないので、瓦礫の圧迫によって血流が止まっているという事もなさそうだ。
「ありがとう、心配かけっちゃったな」
そう言いながら、翔矢はペネムエに手を引かれて起き上がった。
「翔矢様……こういう時に恐縮ですが、太りましたか?
なんだかすごい重量を感じましたが……」
「夏休みで部活も、ウチはほとんど活動しないから運動不足かな?
いや……動けるけど、なんか体がズッシリ重たい……」
起き上がった翔矢は、体を動かせてはいるが、とにかく体が重い。
これは今の出来事なので、夏休み太りという訳ではないだろう。
翔矢とペネムエの釈然としない様子に、蓮は業を煮やしていた。
「ドクター、見てやれ」
「ほいほーい」
漣からの指示を受け、ドクターは翔矢の体をジロジロと観察し、時には体をベタベタと触ったりしてきた。
「なるほど、この辺りの鉄が帯びたのと同じ魔力が彼からも感じられる。
それにより、彼の体も鉄のように重くなってしまったのだろう」
「「なるほど」」
ドクターの見解を聞いて、翔矢と漣は何故か同時に納得して頷いた。
「そのような現象は聞いたことが無いのですが……
でも確かに翔矢様の魔力と鉄の魔力は一致していますね」
「俺の体ってこのままなの?」
「ファイターやアクセルと同じで時間の経過で元に戻ると思いますよ」
「アクセルはヤバいって思ったっら自分で解除出来たけど、ファイターは未だに自力で解除難しいんだよな。
ってか、これって俺がなんか新しい力を使えるようになった感じなのかな」
赤メリに埋め込まれた3つの魔法石を確認してみるが、使用していなかった魔法石はグレーに変化したように見える。
だが元々が透明だったので、光の加減で錯覚してるように見えなくもない。
「ほぼ間違いなく、翔矢様の力ですが、混乱した状況だったので、よく分からないですね」
「新しい力って体が重くなるだけか? まさか弱くなる魔法があるとは……」
3つある魔法石を全て使用してしまったので、これ以上、新しい力は得られない可能性が高い。
最後の力が弱体化と思った翔矢はガックリと肩を落とした。
「恐らく防御の魔法じゃないですかね?」
落ち込んでいる翔矢の胸を、ペネムエはドアをノックするように叩いた。
すると、人の体からは鳴らない鐘のような音が響いた。
「やはり鉄のようにカチカチに硬いです!!
これって……体の隅々まで硬くなってるんですかね?」
ペネムエは翔矢の体を興味津々にマジマジと観察した。
「隅々まで硬いって……まぁ体中重いからね。
ってか地味!! 最後の魔法地味!!」
ペネムエが興味を持っても翔矢は、この魔法に不満がある様だった。
「では、どんな魔法なら嬉しかったんですか?」
「もっと、魔法らしい魔法が欲しい!!
ペネちゃんが氷使いだから、俺は炎とか!!
ゼウは雷出せるし、映像的にも映えると思う」
「映える?」
「まぁとにかく魔法使ってる感のある魔法がよかったな。
目からビームとかも出せたら楽しそう!!」
妄想が止まらなくなった翔矢はテンションが上がってしまっている。
「目からビームって魔法っぽいですかね?
まぁ手に入った力に不満を持っては可愛そうですよ」
「可哀そうって魔法に感情とかあるの?」
「翔矢様が力には共通して“コネクト”というワードが含まれています。
聞いた事がない魔法ですが、言葉の意味通りなら、魔法の本質は“繋がり”という事になります。
恐らく起動時に浮かび上がる異世界と翔矢様が一時的に繋がってるのでしょう」
「よく分からないけど、俺が力に不満を言うって事は、力を貸してくれてる異世界に不満を言ってるって事か……
わがまま言ってごめんなさい」
翔矢は赤メリを顔の前に持ってきてペコリと頭を下げた。
「よくできました!!」
そんな彼の姿にペネムエは母性のような物が湧いてしまい、つい頭を撫でてしまった。
「俺は子供か?」
「すいません、衝動が抑えきれませんでした」
ほんの少しだけ場の空気が和やかになったが、それも長くは続かなかった。
「ひとまず彼は無事だったということでいいんだな?」
「はい、捜索を手伝って頂きありがとうございました」
漣の表情は冷たかったが、翔矢が無事に見つかった安心感から、ペネムエはそれに気が付かずペコリと頭を下げて礼をした。
「礼ならば……貴様の命で十分だ!!」
「え!?」
「やめろーーー!!」
漣は、すでに氷の溶けたソルを抜きペネムエを縦に両断したのだった。
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