142話:脱出から救出が始まりそうです
蓮が力ずくでソルを抜刀した事により発生した斬撃の威力は凄まじい物だった。
工事用の足場を支えていた柱なども細切れなり、鉄の瓦礫は5人を漏らす事無く飲みこんでいた。
「ふぅ、脱出できた!!」
一番に瓦礫から顔を出したのはドクターだった。
顔だけしか出せなかったので、全体を見る事は出来ないが、状況から自分が一番乗りだと察する。
「戦闘能力皆無の僕が一番とわね。
まぁ離れて撮影してたし安全圏だったのかなぁ……
そうだ!! せっかくの貴重なデータが!!」
ドクターは瓦礫に埋もれたままの手を必死に動かし、手さぐりできる範囲でスマホを探し出した。
幸いにもすぐにスマホに触れたので、大慌てで手を外に出した。
「よし!! スマホは無事だぁ!! はははは!!」
子供の用にはしゃいだドクターは、そのスマホに違和感を感じて、落ち着きを取り戻した。
「ん? 冷たい……これは氷?」
スマホにはザラザラとした氷が付着していた。
落ち着いてみると首から下が、季節に反して涼しい気がした。
何にせよ、スマホとデータが無事なら、彼はそれ以上は気にしなかった。
スマホをイジりデータを確認していると、ドクターから少し離れたところでゴソゴソと音がした
「ふぅ……死ぬかと思ったわ」
脱出したのは鈴だった。
彼女もドクターと同じく何故か首だけの脱出だった。
翔矢から、ほぼ辱めのような拘束を受けていたが、その足場が崩れたお蔭で、ある程度自由に動けるようになっていた。
「あぁ鈴君無事でよかったよー」
「スマホを触りながら言わないで……」
「僕が何をしてても安否は変わらないし、救助できるような身体能力も無いからね。
自分にできる事をしてるだけだよ」
機嫌を損ねている鈴の事など気にする様子もなくドクターはスマホを操作し続けている。
「間違った事は言ってないけど人としてどうなのよ?」
「天才っていうのは人としては狂っているものだよ。
狂っている自覚がある分、僕は可愛い方さ。
それより、鈴君、頭が汚れているよ?」
「この瓦礫から脱出したんだもん。
頭くらいは汚れるわ」
口では、そう言っているものの彼女も年頃の女子。
気にはなるので、すぐに頭を手ではたいた。
「ん? これ氷?」
頭の汚れの正体は氷だった。
この場にいる者で、氷を生み出せるのは1人だけなので、犯人にすぐにピンときた。
「あの銀髪の仕業? じゃあ何かの罠?」
鈴は慌てて頭に付いている氷を全て払い落とそうとした。
大きいサイズの氷の塊は、コロコロと下に転がり落ち行方不明になった。
「大量の魔力を含んではいるが、ほとんど普通の氷だ。
サンプルとして持ち帰りたいから、乱暴に落とさないでくれたまえ」
「……まぁ今日は暑いからちょうどいいわ」
鈴は色々と言いたい事がありそうだったが、頭に目立つ氷をいくつか残したまま、それ以上は落とすのを止めた。
その後は、自力で瓦礫から抜け出しドクターに手を差し伸べた。
「おぉサンキューサンキュー、研究には支障が無さそうだから気にしてなかったが、やはり早く抜け出さないとマズイかな?」
「頭まで一生埋めておこうか?」
この状況でも自分のペースを崩さないドクターに鈴は相当頭にきたが、何とか表情には出さずにドクターを引っ張り上げた。
「よっと、脱出したのは僕らだけかい?」
「蓮は見当たらない……
ついでに翔矢と銀髪も」
「蓮は殺しても死なないような男だし、お腹が空けば帰って来るだろう。
銀髪は死んでたら嬉しいが、問題は翔矢とかいう奴だね。
彼はあくまで普通の人間だから、こういう死なれ方をすると隠ぺいが大変だぁ!!」
ドクターは狂ったようなハイテンションで、クルクル回りながら状況を整理していた。
「はぁ……私が探すからドクターは動かないでデータの確認でもしてて」
「ほほぉい!!」
「返事は“はい”速く早く蓮を見つけないと持たないわ……」
鈴は大きなため息をしながら、瓦礫の山の下へと降りていった。
改めてみると、瓦礫は大きな自然災害の後のように広範囲に流れてしまっている。
「これ、どんな言い訳で隠ぺいするんだろう?
事故? 事件? テロ?」
北風エネルギーはこれまで、科学で解明不可能な事件をあの手この手で隠蔽してきた。
だが、この規模の被害は初めてだった。
しかも、瓦礫は綺麗にスッパリ綺麗に斬れておりアニメでしかお目にかかれないような状態だ。
鈴には、これをどう誤魔化すのか想像もつかなかった。
「まぁ私の管轄じゃないからいいか」
一瞬で考えるのを止めて散策に戻る。
すると、ペネムエが素手で瓦礫を寄せているのが見えた。
「銀髪!! 何をしている!!」
鈴はペネムエに詰め寄った。
そのタイミングで、瓦礫が全てはだけ透明な氷のドームの中に漣の姿が見えた。
ここで彼女はペネムエが何をしたのか大方の予想が出来た。
「私やドクターの周りも氷の破片があったり濡れたりしていた……
お前が守ってくれたのか?」
「大きなケガは無いようで安心しました。
氷で結界を作ったのですが、広範囲な上に鉄が相手だったので、ほとんど崩れてしまいました。
クッション程度の役割は果たしてくれたと思いますがね」
このタイミングで漣の周りの瓦礫は大方寄せたのでペネムエは氷のドームを解除した。
その瞬間に、漣はソルを抜き、ペネムエの喉元に刃を突き付けた。
「何の真似だ!! 俺はお前にとっての敵だろ?」
彼は今にも切りかかりそうな権幕だが、ペネムエは怯む様子はなかった。
その体制のまま、彼の質問に答えた。
「あなたと同じですよ」
「俺と?」
「あなたは善も悪も、この世界の者は助けると言いました。
わたくしは、人間であれば善も悪も敵も味方も助けます。
そういう種族なのです」
「種族? お前は異世界の人間ではないのか?」
「わたくしは天使と呼ばれる種族です。
この世界の人間が連想する天使と同義かは分かりかねますが」
「天使……?」
その答えを聞き、漣はソルを鞘に納めた。
「蓮?」
「宮本翔矢だけ見つかっていないようだ、決着は奴を見つけてからだ」
「ありがとうございます!!」
漣の言葉にペネムエは深々と頭を下げる。
「勘違いするな、この世界の人間は善も悪も守る。
あくまで、それが俺の優先事項だ。
見つかり次第、お前の首は斬り落とす」
「肝に銘じておきます」
こうして3人は翔矢を探し始めた。
特に人の気配が感じられないので、闇雲に瓦礫をよせてみる。
「おい銀髪!! 何か人を探せる道具とかないのか?」
まだ探し始めて数十秒なのだが漣はイラだち始めている。
「本人が自分の正確な場所を知らないと意味がないですね。
連絡はあるので無事なのは間違いないですが」
「連絡?」
「えっと、そこは敵同士という事で」
魔法石で翔矢から無事だと連絡があったのだが、その情報は何となく伏せておくことにした。
「なるほど……」
「連絡と言えば蓮はドクターが無事なの知ってたよね?
連絡あったの?」
蓮が氷のドームから脱出してすぐに“翔矢だけ”見つかっていないと言っていたのが引っ掛かった鈴は瓦礫を寄せながら聞いて見た。
「それは……これだ」
漣は自分のガラケーの画面を鈴に見せた。
「これは写メスタ? ガラケーでも見れるのね。
ってドクターの投稿?」
その画面には『鉄の瓦礫スパスパで草』という投稿が丁寧に写真付きでされていた。
「何を考えているのよ」
「まぁこの規模の事起こっては広まるのは時間の問題だがな」
「やったの、あなたですけどね」
漣と鈴の会話に自然に入っているペネムエ。
変になじんでしまい、漣も鈴も特に何も言わない程だった。
「ねぇ、翔矢は何で自力で瓦礫から脱出しないの?
あのオーラ出すメリケンで力とかは強いよね?
落としちゃったとか?」
「それが、体が重くて動けないそうで。
痛みは全然感じてないようですけどね」
鈴の質問に冷静に瓦礫をよせながら答えるペネムエ。
だが、その言葉に漣の顔色が変わる。
「おい!! それ、相当マズい状況じゃないか?」
「はい?」
「痛みが無いんじゃない!! 恐らく痛みを感じないんだ!!」
ペネムエは血の気が引いたように青ざめる。
「翔矢様!! 翔矢様!!」
連絡が取れたというだけで安心してしまった自分を呪い、力任せに瓦礫を放り投げる。
手当たり次第の力任せなので、鉄で手が切れてしまい血がダラダラと流れている。
だが、そんな事を気にする様子もなく、痛みを感じていないかのように瓦礫を投げ続けている。
「俺たちも本腰を入れて探すぞ!!」
「うん!!」
漣と鈴も一緒に瓦礫を投げだした。
(銀髪……天使は本当に人間を救済する種族だとでも言うのか?)
漣はペネムエの姿を横目で見てそんな考えが浮かんでいた。
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