141話:善悪から倒すべき基準が始まりそうです
「ペネちゃん、おまたせ!!」
鈴の動きを封じた翔矢はすぐにペネムエの元に合流した。
「あっはい、さすが翔矢様です」
隣に来た翔矢と目を合わせないどころか、ペネムエは頬を膨らませている。
「何か怒って……ます?」
「いえ、ただそういう趣味があったなら早めに知りたかったです」
ペネムエはチラリと拘束されている鈴の方に目をやった。
「いや、ただ動きを封じようとしただけだよ?
そんな趣味無いよ? ってか早めに知りたかったとは?」
ペネムエの回答にパニックになってしまった翔矢だが、今はまだ戦闘中。
関係ないことに思考を割いている時間は無い。
「仕掛けてきますよ!!」
「おっおう」
鞘に収まったままのソルを構えて蓮が素早く接近してくる。
翔矢は大急ぎでファイターを再起動した。
「うら!!」
鞘に収まった状態であれば、相手が剣の達人であっても斬られる可能性はない。
翔矢は赤いオーラを右手に集中させ、向かって来る鞘に思いっきり拳をぶつけた。
「くっ……」
蓮は腕に痺れを感じたが、ソルを手放す事は無かった。
「マジか……今までの敵はこれが当たれば倒せたんだけどな。
武器も手放さないとか本当に人間かよ……」
「真実を知り、戦う力を得た私には責任がある」
「何の責任だよ?」
「この命がある限り、世界の脅威と戦う責任だ!!」
強い言葉と共に蓮は鞘に収まったままのソルを振るった。
翔矢はバランスを崩し倒れてしまう。
「翔矢様!!」
ペネムエはたまらず駆け寄る。
「平気平気、あんな力があるとは思わなかっただけだよ。
いくら強くても高速で動けば、対応できないだろ!!」
翔矢は再び赤メリの青い魔法石に手を触れようとする。
しかし、ペネムエにガッシリと腕を掴まれて止められてしまった。
「落ち着いて下さい!! 明らかに発汗量が異常です。
先ほどのアクセルのダメージは確実に残っています。
いえ……ファイターの方も、ここまで長く使用するのは初めてなはず。
長引くのは危険ですね……」
最後の一言は、自分に言い聞かせているように聞こえた。
「お前が、この氷を解きさえすれば、お望み通りすぐに終わらせてやれるが?」
「それはお断りですね……」
蓮の睨みにペネムエは少し怯んでしまった。
「さっきから脅威脅威って、お前そんなにぺネちゃんが危ない奴に見えるのか?
あんたの会社の支部にいた馬鹿でかいゴブリンの方が、よっぽど危険だろうが!!」
翔矢は起き上がると、蓮の睨みに怯む事無く言い返した。
「少なくとも、そこの銀色は人間には友好的な種族のようだな」
「いや分かってるなら、なんで倒そうとするんだよ?」
「ゴブリン達は実験の為に隔離している。
この前は戦力として利用したが、この世界の人間の目に触れる心配はない。
だが、その銀髪は、この世界で自由に活動いている。
その結果、六香穂支部の連中に掴まった訳だな」
「それが何だって言うんだよ?
お前らが、捕まえなきゃ戦闘にならなかったし、俺だって変な騎士から赤メリもらう事も無かったんだよ!!」
「銀髪が我々に捕まったのは魔力をもっているから。
そして、その魔力は本来はこの世界に存在しない。
ドクターは科学で再現したが、それも本物の存在があってこその発明。
この世界に存在しない物の訪れ、それこそが脅威。
個々の個体の善悪など関係ない!!」
「話にならないな」
蓮の言い分を理解できない、いや、しようとも思っていない翔矢。
だが、この話を聞いている間、ペネムエの頭には謎のイメージが伝わってきた。
4つの星がどんどん接近して、いずれ全てが消滅するイメージ。
その1つは紛れもなく地球だった。
これは、蓮の思考が流れ込んで来たのだとペネムエには分かった。
(今のは……?)
ペネムエが混乱している間にも翔矢と蓮の戦いは進んでいく。
「最初はぺネちゃんが悪者って勘違いしてるから分かってもらおうって思ってたけど……
悪くないって分かってるのに倒そうとするなんて意味分からねぇんだよ!!」
「ならば悪なら始末してもいいのか?
そんな曖昧な基準では何も救えない!!
俺はこの世界の者であれば悪でも助ける。
異世界の者であれば善だろうが容赦はしない!!」
襲い掛かる連撃を翔矢はファイターの拳で受け止めている。
肉体は強化されているのにも関わらず、そのたびに痛みが走る。
「考えるのは後ですね」
その様子を見て我に返ったペネムエは、すぐに戦闘に戻った。
ブリューナクで野球ボール程の大きさの氷の球体を7つ生み出し蓮に向かって飛ばした。
「蓮!! 避けて!!」
鈴の叫びに反応した蓮は、翔矢の拳を受け流しながら後ろに引き、氷の球体は全て鞘で弾いて破壊してしまった。
「今のもダメなのかよ……」
「ですが確実に疲れは見えています。
このまま撤退するまで追い込みましょう!!」
「おう!!」
2人は気合を入れるように、構え直す。
蓮は、自分の足元に散らばった氷の破片を眺めていた。
「真夏の東京に散らばる氷……
今の事情を知らない者が見れば、これも怪異でしかない。
それが問題なのだ」
蓮は抜刀の体勢に入った。
鞘は凍って抜けないままだが、氷からはビキビキと音がなっている。
「力ずくで抜くつもりかよ」
「人間の力で、それは不可能です……」
そう言いながらも、今にも割れそうな音を立てる氷に、2人は身構えていた。
すると戦いをスマホで撮影していたドクターは何かに気が付いた。
「蓮!! 抜くな!! 危険だ!!」
だが、そのドクターの警告と同時に氷が砕けてしまった。
抜かれたソルからは、凄まじい斬撃が発生し、辺りの資材や工事用の足場を切り刻んでしまった。
上空からは無数の鉄の塊が降り注ぎ、この場にいる全員に襲い掛かるのだった……
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