14話:山道から落石が始まりそうです
登山が始まり、数分。
まだ登山らしい道ではなく、足場も踏み固められて山道ではあるが歩きやすい道が続いていた。
「おい、おめぇさん。あの女子二人と知り合いなのか?」
「まぁ悠菜は幼馴染で、瑠々は部活の後輩ですけど」
モヒカンが翔矢に話しかけてきた。
こんな見た目だが先輩は先輩なので無視するわけにはいかないので質問に答える。
悠菜と瑠々は少し後ろを歩いているので、会話は聞こえていないと思われる。
女子だから男子よりペースが落ちているというよりは、遅い瑠々に悠菜が合わせている感じだ。
「だったら、どっちかと俺が仲良くなれるように協力してくれや」
「はっはぁ」
高校生だし恋人が欲しいというのは珍しくない。むしろ当然の欲求だが、このモヒカンという先輩の見た目はかなり人を選ぶだろう。
恋人欲しいならもっと普通な感じにすべきではないだろうかと思ったが決して口には出さない。
3年生で恋人が出来ても進路などで忙しく遊べない気もするが翔矢の気にする事ではない。
「できる事は、やりますけど」
断るとどうなるか分からないタイプの相手なので、一応返事はするが協力するつもりはない。
協力してる素振りは見せるかもしれないが面倒だし、協力したとしてもこの先輩を誰かとくっつけるのは至難の業だろう。
自分と同等の魔力を持つ者としか付き合わないと言っていた謎恋愛感の瑠々とならと一瞬考えたが、この漫画の雑魚キャラにしか見えない髪型をしている人物が自称勇者の魂を持つ瑠々と同等の魔力とは思えない。
(って俺は何を考えているんだ?)
瑠々は、色々とこじらせているだけと知っているのに、本物の魔法(の道具)を見たせいでつい魔力について真剣に考えてしまった。
「翔矢くーーーん。ちょっと待ってーーー!!」
後ろから悠菜の声がする。振り返ると、悠菜と瑠々がかなり小さく見える。
気が付かないうちにかなり離れてしまったようだ。
「あーーー悪い悪い。ここで待ってるから慌てなくていいぞーーー」
山道と言っても、これくらいの距離なら、こっちが動かなければ、そこまで待たなくても追いついてくれるだろうと思った。
「いやーーーそれが瑠々ちゃん限界みたーーーい」
よく見ると瑠々が下を向き肩で息をしている。
(……は?まじかよ。まだ登山初めて10数分だぞ?)
道もそんなに険しくなく舗装されてるに近いのに、もう限界は早すぎるだろう。
「待ってろーーーそっち行くわーーー」
しかし、ほっておく訳にも行かず急いで駆け寄った。
「俺はめんどいから待ってるわーーー」
モヒカンは待っているらしい。
別に構わないが、2人と仲良くなりたいなら、一緒に来るべきだと思ったが無視をした。
翔矢が、モヒカンと悠菜・瑠々の中間くらいの位置まで来たところで、上の斜面から小石がポロポロと転がってきた。
ふと翔矢が小石の転がってきた方に目をやると、斜面の上の方から大きな岩がゴロゴロと転がってきている。
小石は、本体の岩の勢いで一緒に落ちてきたもののようだ。
「翔矢君あぶなーーーい!!」
ほぼ同時に岩の存在に気が付いた悠菜も声を上げるが、岩の大きさを考えると、どう逃げても間に合いそうにない。
今日、命を狙われることはペネムエから聞いていたが油断していた。
翔矢が死……正確には異世界転生を覚悟しようとしたとき、頭に声が響いた。
(お任せください。翔矢様はそこを動かないでくださいまし)
なぜかペネムエの声を聞くと落ち着くことができる。
言われた通りそこをじっとしていると、岩は翔矢の手前10メートルくらいで砕けて粉々になった。
(サンキュー。ペネちゃん。まさかこんなすぐに来ると思わなくて油断してた。ごめん)
(いえいえ、これがわたくしの任務ですので)
普段心の声は、翔矢がペネムエに対して思ったことが、一方通行で伝わるのみである。
しかし今回、翔矢はペネムエから預かった通信用の魔法石をポケットに入れていた。
これをお互いに持つことで心の声で会話ができるようになる。
対になる魔法石同士でないと効果がないらしいので、こっちの世界でいうとトラーシーバーが近いだろうか。
「翔矢君、大丈夫?なんか大きな岩が転がって来たように見えたけど気のせいだったかな?」
急いで駆け寄ってきた悠菜が翔矢の足元に転がっている小石を見て首をかしげている。
「おっ俺も岩が転がって来た気がしてびっくりしたけど、目の錯覚かなー。
たっただの小石のようだ」
悠菜は、まさか転がって来た岩が急に砕けたとは思わず、小石が転がって来たのを見間違えたと思ったようなので、話を合わせることにした。
岩がいきなり砕けるなど、ありえないので、これが普通の反応かもしれない。
ペネムエはいったい何をしたんだろうか?
朝の出発前に、他の人間にペネムエの姿が見えない状態で、一緒に登山をするのは危険だから、離れた所から護衛すると言っていたが、どれくらい離れた所にいるのか、どの辺にいるかなど詳しい事は聞いていなかった。
ペネムエは、転生関連の事は、自分に任せて普通に登山をしてほしいと言っていたので、あまりつっこんだ話は聞かなかったが少し気になってきた。
今、通信用魔法石で聞いてみようと思ったが、瑠々が体力限界と言い出し、駆け付ける途中だった事を今の件で忘れていた。
誰かと話しながらや、何か作業をしながら心の声で会話するのは難しいので、後回しにすることにした。
*****
ペネムエは、魔法の雲のマジックラウドに乗って翔矢の上、数百メートルほどの位置を飛んでいた。
ペネムエの姿は魔法のブレスレットの効果で、使用者に命を助けられた人や上位の存在のみ、姿を見ることができる。
よって、翔矢ならばペネムエの姿は普通に見ることができるのだが、今はマジックラウドが普通の雲にうまいこと溶け込んでいて、目視では位置が分からないと思われる。
「ふーーー。魔法なしで当てられるか心配でしたが、うまくいってくれました。
的が大きいのが幸いしました」
ペネムエは安心してため息をつくと、弓矢を魔法のポーチにしまった。
魔法の矢の破壊力ならば当たれば確実に岩くらいは砕ける。
しかしこの距離で狙う場合、いつもは補助魔法を使って、飛距離を伸ばしたり視覚を強化して狙う。
この世界、ノーマジカルでは、それらが使用できないので成功するか不安は少しあったのだ。
「岩の転がって来た位置から推測すると、あのあたりに天使が隠れているでしょうか……
他の天使に会うのは気が進みませんが……どんな天使が派遣されたか探ってみますか」
ペネムエは、翔矢護衛の任務についたときから気になることがあった。
天使は女神の任務に対して絶対服従という訳ではなく、行きたくない世界には行かなくていいし、本当に嫌な任務は断ることができる。
天使も人間のように様々な性格や考え方があるが、基本的に人間の事が好きであり、人間を護る事に幸せを感じる種族だ。
いくら、1つの世界を救える可能性があり転生させるとしても、人間を手にかけるという特殊な任務を受ける天使がいるのだろうかと。
ペネムエにはあまり天使と接触したくない理由があったが、うまく話し合えば異世界転生の件を白紙に戻せる可能性があると思い、今回はアテナ側の天使と接触するつもりだった。
岩が転がり始めたと場所から天使のいる位置を予測し、ペネムエはマジックラウドから降り探索を始めた。
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