138話:切れ味から抗議が始まりそうです
「くっそ、ファイターを使ってるのに、避けるのが精いっぱいなんて」
蓮の振るう日本刀からの攻撃を交わしながら拳を振るう翔矢。
しかし回避するのが精いっぱいで、だんだん翔矢からの攻撃の回数は減っていく。
「赤いオーラが肉体を強化しているようだが、所詮は攻撃手段は拳と蹴り。
武器を持っている者が相手では、攻撃範囲で敵わない」
「なるほど……そっちも物騒なモノ振り回してるからには、骨くらい折る覚悟あるよな?」
翔矢は素早く、資材置き場に置かれてる鉄パイプを握り振るった。
「攻撃範囲なんて、いくらでも解決手段はあるんだよ!!」
金属同士が強くぶつかる音が響き渡る。
「その対応力は見事だと褒めておこう」
「いや……嘘だろ?」
鉄パイプはスパッと真っ二つに斬れてしまい一瞬で使い物にならなくなってしまった。
「この刀は収納できるだけの刀ではない。
人工魔力で作られた刀の切れ味は、この世界の業物の比ではない」
「こんなので斬られたら、肉体強化しててもタダじゃ済まないぞ」
後ろに大きく飛び距離を取った翔矢は頬の冷や汗を拭った。
「そして魔法による攻撃である以上、この世界の常識は通用しない」
漣は日本刀を鞘に納め、居合斬りのような体制に入った。
「それ間合いに入ったら斬られるって奴か?
俺は育ちが悪いから、正々堂々正面からなんて考えないぞ?」
翔矢は落ちていた大きなコンクリートのブロックを拾った。
それを思いっきり蓮に投げつける。
その様子は鈴と対峙中のペネムエの目にも移った。
「翔矢様!! 伏せてください!!」
「え?」
ペネムエの叫びに反応した翔矢は、とっさにその場にしゃがみ込んだ。
【鬼神ノ太刀】
蓮が日本刀を抜くと、斬撃が飛んだように辺りが一直線に切り裂かれる。
翔矢が投げつけたコンクリートもスパッと2つに斬れた。
「いや……アニメとかである技だけど、見えないし、どう対処すればいいんだよ」
ペネムエが声を掛けなければ今頃、自分の体は真っ二つだったかもしれない。
いままでも命の危険はあったが、ここまで恐怖を感じたのは初めてだった。
「ドクター……威力が強すぎだ。
今我々が追っているのは能力者、つまり力を得ただけの人間だ。
カプセルが体外に出れば人間に戻る事も確認済み。
これでは俺が人殺しになってしまう」
蓮は冷静に日本刀を見つめ、ドクターに抗議をする。
「ん? 鍔の部分に数字が書いてるだろ?」
「あぁ」
「それで切れ味を調整できるよ? 今のは五段階中の三だね。
一なら普通の人間も死なないレベルだよ!?」
「先に言え!!」
「説明書を渡しただろ?」
「俺が読むわけないだろ!!」
「これは僕が悪いのか? 鈴君はどう思う?」
「今戦闘中!! だけどだぶんドクターが悪い!!」
鈴はペネムエにけん玉のハンマーで攻撃しながらもドクターの質問に答えた。
ペネムエは槍を持っているが攻撃はせず回避に専念している。
「今ので真ん中の威力……かなりマズイですね」
「他人の心配をするなんて余裕ね? この前の氷の槍も出してない……
私を舐めてるの?」
「いえ、この前は翔矢様を傷つけられた怒りで抜いてしまいましたが、ブリューナクは人間相手に使う武器ではないのです」
「そのヘボ装備のせいで死んでも知らないわよ」
鈴の力いっぱいの一撃をペネムエは槍を横にし両手で持ち受け止めた。
「この槍も古龍の骨で作られた高級品です。
昔、お小遣いを貯めて奮発した品ですのでご心配なく」
鈴のけん玉は触れたものを粉砕するクラッシュの力を持っているが、ペネムエの槍はギシギシと音を立てながらも耐えている。
(しかし、中々の力、この2人の武器の肉体を補助する作用は微弱。
ほとんど2人の実力と言えます。
この平和な日本で、なぜ、これほど戦闘に慣れているのか……)
考えながら攻撃を受けている内に隙が生じてしまったのか、ペネムエは腹に玉の攻撃を受けてしまった。
「ぐっ……」
「ほら、舐めプするからよ?」
膝から倒れてしまったペネムエを見下ろしながら、鈴はけん玉を大きく振りかぶる。
「ここまで追い詰められては仕方ありません……」
ペネムエはポーチに手を入れブリューナクを構えようとする。
「もう遅いわ」
「くっ」
しかし、鈴はすでにけん玉を振り下ろしていた。
ペネムエは直撃を覚悟して両目を瞑ってしまう。
だが、キーンという音が響いただけでペネムエにその攻撃が届く事は無かった。
「翔矢様!?」
「お前……いつの間に」
ペネムエが目を開けると、翔矢が赤メリのハメた拳で鈴のけん玉をはじいていた。
「ぺネちゃん、大丈夫!?」
「だだだだ大ジョブます!!
油断しただけます!!
まだ戦えるます!!」
翔矢に質問されたペネムエは大慌てで立ち上がった。
「なんか言葉使い変だけど本当に大丈夫?」
「彼女の攻撃の威力ほとんどはクラッシュの魔法の衝撃。
天使の体は魔法の衝撃には強いのです。
急所から外れた攻撃であれば、戦闘続行可能なのです」
なんとか口調を戻したペネムエ。
(危ない……翔矢様がかっこよすぎて戦闘中なのに取り乱しました)
「それなら、悪いけど選手交代してくれない?
見えない斬撃は戦い方が思いつかない……
ぺネちゃんには見えてたんだよね?」
「かしこまりました!!」
オーディンとの修行で魔力を視覚で捉える事が出来るようになったペネムエには確かに飛ぶ斬撃も見える。
なので、さっきは伏せるように言う事が出来たので相性はいいかもしれない。
だが何より、ペネムエは翔矢に頼られた事が嬉しかった。
「勝手に決めるな!! 銀髪は私が倒す!!
というか蓮……主任はどうした?
主任が、お前なんかに負けるわけがない!!」
「うん、勝ち目が無かったから選手交代なんだけど……」
翔矢は鬼気迫る鈴の質問に答える代わりに気まずそうに指を刺した。
「ん?」
鈴がその方向を見ると、何やら蓮とドクターが言い争いをしている。
「ドクター!! 鍔が動かないぞ?
これでは威力が変えられない!! 調整が必要だ!!」
「私の発明に不備は無い!!
だから時計回しだと言ってるだろ!!」
「俺は時計はスマホでしか見ない!!」
「そのスマホすらメールもままならないじゃないか!!
というか君のはガラケーだ!! 機械音痴もいい加減にしてくれ!!」
「誰にも苦手な事はある」
「君、戦闘しか得意な事が無いだろ?
本来日本では、無くても生きていける技術だ!!」
そんな言い争いを延々としている。
「蓮……」
「一応、彼は目の前にいるわたくしを危険な存在と認識してるはずですよね?」
これには鈴もペネムエも呆れるしかなかった。
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