136話:密室からチケットが始まりそうです()
魔法の鍵を使い東京までワープをした3人。
しかし到着した場所は暗く狭い。
なんだか布を被っている感触があるだけで、どこにいるか分からない。
「何だここ? 呪文か何か間違えたか?」
パニックになる程ではないが、状況を把握する為に、辺りを手さぐりする翔矢。
密室でもない限りは、四方の壁を押せば扉か何かが開く可能性は高いので適当に手を伸ばしてみる。
「ん? 壁? にしては少し柔らかい?」
「んっあっ……壁でふぁっ……申し訳ありません」
「わっ!! ぺネちゃん?
ってことは今のは……ごめん」
すべてを察した翔矢はペネムエに謝罪したが、この場の狭さではいつものように頭を下げる事は出来ない。
「いえ……翔矢様からであれば……」
「というか、いるなら何か喋ってよ。
リールはいるのか?」
「いるわよ」
翔矢の耳元からリールの声が聞こえた。
「2人とも何で今まで無言だったんだよ」
「翔矢は何でこの至近距離で、いるいないを判断できないのよ」
「え? 俺悪いの?」
「それはそうと、この場を早く出ましょう。
リールの方から薄らと光が差し込んでいます」
「そう? 体勢的に見えないけど、お尻で押せるかしら?」
リールが勢いを付けて腰を振るとバンと大きな音と共に扉が開いた。
天使は体感もいいのかペネムエとリールは、その場に留まったが翔矢はバランスを崩し外に飛び出してしまった。
「うわっ!! よけるなよ!!」
こうなっては文句を言う事しか出来ず体は倒れるだけだ。
「きゃっ」
咄嗟に何かに掴まり転倒はしなかったが何やら女性の声がした。
そして頭には、今まで感じた事のない柔らかい感触。
「あのぉ翔矢君? 私は別に満喫してくれてもいいんだけど……
いや、さすがに恥ずかしい……離れて!!」
この声の主が天道ユリアだと気が付いた翔矢は、凄まじい速度で彼女から離れる。
「すすすすいません!! ぶぇわーーー!!」
すぐに謝ったが、彼女の姿を見て、さらに変な声が出た。
彼女は全裸だったのだ。
正確には、翔矢が抱きついたさい落ちたと思われるバスタオルが下半身だけは隠している。
しかし、上を隠すモノは何もない。
「ゆゆゆユリア様!! 何故全裸なのですか?」
「ここ私の家よ? 今はお風呂上りだから、こんな格好」
ペネムエと話しながらユリアはバスタオルを上まで上げて格好を整えた。
「勝手に来てなんですが……普通の服を着て下さい!!」
目を覆いながら翔矢は体中赤くして懇願する。
「あはは、私もそうしたいけどクローゼットの前にいられたらねぇ」
「「「申し訳ございません!!」」」
普段口調は全然違う3人だがこの時ばかりは声をそろえて頭を下げた。
***
ユリアの着替えを待って気持ちを落ち着かせた後、3人は改めて謝罪した。
ちなみに彼女は丈の長いTシャツ白いを着ている。
「そこまで謝らなくてもいいって、裸見られたって言っても翔矢君からだしね。
私がお嫁に行けなくなったら貰ってくれれば気にしないからー」
未だに謝り続ける3人に、ユリアの方が逆に気を使ってしまっている。
「状況が状況だけにツッコム事も拒否する事もできません」
翔矢は冷や汗をかき、頭を上げる事もできない。
「あはは、弱みを握っちゃったねぇ」
「ユリア様、わたくしが悪いのです。
東京行でテンションが上がってしまい、ユリア様の部屋に通じてるという事を失念しておりました。
一言連絡をしてから来るべきでした。」
「わっ私も勢いよくクローゼット開けたくせに、自分は外に出なかったし……」
ペネムエとリールも部が悪くユリアと目を合わせる事が出来なかった。
「私も、いつでも使っていいって言ったから、この話はおしまい!!
ところで、今日は何処行くとか決めたの?」
「本当に思いつきで来ちゃったので決めてないですねー」
「そっか、適当に案内してあげたいんだけど、私これから仕事なのよねー」
「本当に思いつきでしたので、お構いなく」
「今度こっちに来るときは連絡してね!! 一緒に遊びたいし。
っと、そうだ!! いいものがあったわ!!」
ユリアは何かを思い出したかのように、部屋のカラーボックスの中身を漁り始めた。
(部屋綺麗だと思ったけど、収納スペースに何でも入れちゃうタイプか)
何を探しているのかは分からないが、カラーボックスからは台本からファンレター、さらにフライパンと統一感の無い物が色々と出てくる。
(あっでもゴチャゴチャに入れてあるだけで、ファンレターとかは丁寧にしまってある)
あまり女性の部屋の物を見てしまうのは感心しないだろうがついつい見入ってしまう翔矢。
「ん?」
前かがみのユリアの後ろ姿、その長いTシャツの中から赤いパンツのような物が見えた。
てっきり短パンのようなものを履いていると思ったが、これはどう見ても下着だ。
「翔矢様!! 見てはいけません!!」
翔矢が目を反らそうとするよりも早く、ペネムエは翔矢の目を塞いだ。
「どうしたの?」
気づいていないのか、とぼけているのかユリアはポカンとしている。
「ユリア様って本当に人前に出る仕事をなさってるのですか?
恰好がラフすぎるかと思います!!」
「そういう仕事だからこそ、部屋では極力、楽な格好をしているわ!!」
なぜかドヤ顔を決めるユリア。
「押しかけたのは、こちらですので、これ以上は何も言いませんが……
探し物は見つかりましたか?」
「あっそうそう、仕事で貰ったチケットがあったんだけど……
私の記憶違いで枚数が中途半端だったわ」
ションボリした表情のユリアが差し出して来たのは、東京スカイタワー展望台チケット2枚と都立博物館のチケット1枚だった。
「えっ? くれるんですか?」
翔矢の目線は東京スカイタワーのチケットを見て輝いている。
「私は仕事で少し忙しくなるから期限内に行けそうにないし、そもそも東京都民は東京の観光地行かないからねぇ」
「ありがとうございます!!」
満面の笑顔で翔矢はチケットを受け取ったが、その笑顔は自分の水着姿を見たときよりも嬉しそうだったのでユリアは少し複雑な気持ちになった。
「じゃあ、翔矢とペネムエはスカイタワー行ってきなさいよ。
私は博物館に行くから」
「え? 無理にチケットの数に合わせなくても一緒にみようぜ?」
「そうですよ、東京で1人で行動は危ないですよ!!」
「えっと……私、高い所は苦手なのよね」
リールのその答えは、なんだか考えた末に出した答えのような雰囲気を3人は感じ取っていた。
「お前、空飛ぶ絨毯で飛んでなかったっけ?」
「リール、高い所苦手なんて聞いた事がないのですが?」
案の定、翔矢とペネムエは、これに疑問を持った。
「えっと……えっと……」
悩んだ挙句、リールはペネムエに耳打ちをした。
(この世界だと、展望台ってデートスポットだから2人で行ってきなさい)
これを聞いたペネムエの顔は真っ赤になった。
「そそそそう言えばリールは歴史のある天界のスタジアムを破壊してましたね。
博物館に行って歴史の重みを知った方がいいです」
「それなら仕方ないか」
「うっ……翔矢はともかく、この状況でペネムエに言われるのは理不尽だわ……」
気を使わせたにも関わらず、自分の失敗を蒸し返させられたリールは少し不機嫌な表情になった。
「あはは……やっぱり中途半端な枚数のチケットなんて出さない方が良かったかな……」
この様子にユリアは顔から冷や汗が出た。
しかし、突然部屋に押し入られた上にチケットをプレゼントして、こんな状況を見せられてる自分が一番理不尽な目に合ってる気がしたのだった。
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