135話:お宅訪問からおもてなしが始まりそうです()
海水浴をした翌日、翔矢とペネムエはリールの家に遊びに来ていた。
「まったくもぅ、来るまでに遊ぶ物とか、もてなす物を用意するって言ったのに。
昨日の今日じゃ何もないわよ、まったくもう!!」
「そう言いながら、引くほどの笑顔だな」
「だから絶対喜ぶって言ったじゃないですか」
ここに来る前、翔矢は本当に1人暮らしの女性の家に言っていいのか迷っていた。
ペネムエは、そんな彼を半ば強引に連れて来たのだ。
「飲み物はペネムエは紅茶で、翔矢はコーヒーでいい?わよね
えっと、今日は暑いからアイスにする?」
「はい!!」
「サンキュー」
見かけによらず気が利くなと思った翔矢だが決して口には出さなかった。
部屋はワンルームのアパートなので、飲み物を準備してくれているリールの姿が良く見える。
女子の部屋に初めて入った翔矢は、少し緊張したが、ベットの柄が可愛らしい以外は特に女子っぽさは感じられない。
というよりも、この部屋には極端に物が少ないのだ。
(自販機で売ってるのをご丁寧に紙コップに移してやがる……)
人が用意してくれるものに文句を言うつもりはないのだが、少し引いてしまっている翔矢。
「おまたせー!! バイト先で余ったクロワッサンも持って来たわ!!」
翔矢に引かれいるとは思っていないリールは自信満々で机に並べる。
「ありがとうございます!!」
しかし満面の笑みで受け取るペネムエを見て、自分の心が狭いのかと反省をした。
「どうもー」
そして精いっぱいの作り笑顔で受け取った。
クロワッサンは、ふっくらとしていて、余りものとは思えないくらいおいしそうだった。
「ん?」
「なにかあった?」
「いや……別になんでもないぞよ」
「ぞよ?」
リールが、立派なティーカップで煎れたてハーブティーを飲んでいるのを見て、思わず口調まで変になってしまった翔矢。
(独り暮らしだと、自分の飲み食いするものしか置かないか)
身近に独り暮らしをしている人がいないので、良くは分からないが、もし翔矢が独り暮らしをするとすれば、飲み物はコーヒーのみになる気がした。
(紅茶もぺネちゃんが来てから、色々置いた感じだしな)
そんな事を考えながら、コーヒーとクロワッサンを頂いたが、やはりクロワッサンの方は格別だった。
「クロワッサンうめーな、ここの喫茶店はコーヒー豆しか買ってなかったけど、今度買っていこう」
「だったら、店のロインと友達登録すれば毎週クーポンが貰えるわよ」
リールはポケットからスマホを取り出し、その画面を翔矢に見せた。
「へぇ、パンで50円引きはデカいな……
ってかリール、スマホとか持ってたんだな」
「そりゃあ、持ってるでしょ?」
確かに現代人であれば、ほぼ全員が持っていると言っても過言ではない。
しかし彼女は天界からやってきた天使だ。
「天使って通信費とか契約できるの?」
「私はペネムエと違って戸籍を作ってもらってるからね。
日本で生活するのに不便な事はないわ」
そう言ったリールは何故か胸を張りドヤ顔をしている。
「言ってくれれば昨日の写真送ったのに」
「あぁごめん、楽しすぎて思い付かなかったわ」
この流れで翔矢とリールはロインの友達登録をした。
その様子をペネムエはモヤモヤとした表情で眺めている。
(羨ましい……わたくしもスマホ欲しい……
でも戸籍が……わたくしの年齢では日本では義務教育。
動きにくくなってしまいます)
「ペネちゃん、どうした?」
その険しい表情が目に入った翔矢は心配して声を掛ける。
「いえ、なんでもないですよ!!」
「あぁ待ってるの飽きたんでしょ?」
「すっ少しだけです」
この原因を、昨日の写真を送っている無言の時間に飽きたのだと翔矢は勘違いした。
しかし、リールは彼女の気持ちに気が付いたようだ。
(スマホので連絡先を聞くくらい問題ないと思ったけどマズかったかしら?
ってかペネムエは、ほぼずっと翔矢と、くっついてるんだからスマホの連絡先とか必要ないのでは?
正直言うと私は初恋もまだだし基準が分からないわ……)
リールが悩んでいる間に、写真は何回かに分けて送られてくる。
5回ほどピロンという通知音が鳴ったタイミングで、翔矢のスマホからもピロンと通知音が鳴った。
「あっ悠奈からだ……マジか」
悠奈からのメッセージを確認した翔矢は呆れた声を出した。
「どうかなさいましたか?」
「悠奈、東京にいるって」
「昨日の夕方過ぎまで海で遊んでたのにタフな子ね」
天使基準でも、これはハードスケジュールらしくリールも驚きと呆れが混ざった表情をしている。
「従妹に久しぶりに会いたくて父親の学会に着いていったんだって」
「悠奈様の、お父様はお医者様でしたね」
「東京かぁ、中学の時の修学旅行は京都だったし実は行ったことないんだよな……」
ここで翔矢とペネムエは何かを思い出し目を見合わせた。
「どしたの?」
リールは何が何だか分からずキョトンとしている。
「てててて、ユリアさんから貰った鍵!!」
翔矢は何処からともなく魔法の鍵を取り出した。
「これなら一瞬で東京に行くことができますね」
「そんな道具あるの? 聞いたことないんだけど」
「ユリア様は昨日も、これを使って帰宅されたようです」
「さっそく東京……いや、この格好で行って
『田舎者がいたぞー』って石を投げられたりしないかな?」
最近は暑い日が続いているので翔矢はTシャツ一枚だった。
「東京はさらに暑いと聞くので、他の方も似たり寄ったりだと思いますよ?
どうしても気になるのであれば、上に半袖のパーカーなど羽織れば大丈夫じゃないですかね?」
「やっぱり一瞬で行けても思いつきで行く場所じゃないな……」
ここで今日の所は断念するかと思われたがペネムエは何故か魔法のポーチをガサゴソしている。
「翔矢様、余所行きのパーカーです」
「おっありがとう」
自分のパーカーが彼女の魔法のポーチから出てきたことに何の疑問も持たない翔矢。
「わたくしは、適当にそれらしい服にチェンジさせるとして、リールはどうしますか?」
「わっ私も行っていいのね、こっちの世界の服は買い込んだから、着替えてくる!!
ちょっと待ってて!!」
待っててと言われても、ここはワンルームのアパート。
普通にしていてはリールの着替えが丸見えだ。
特に「後ろ向いてなさい」とか言われた訳では無いが、ここは礼儀として後ろを向く。
自分が信用してくれているのか天使がそういう種族なのかは翔矢には分からない。
(ペネちゃんも、朝とか俺の前で平気で着替えようとするんだよなぁ)
ここでリールの着替えを見れば真相が分かるかもしれないが、そこまでして知ろうとは思えない。
仮に信用してくれているのだとしたら、その信用を裏切る事になってしまう。
「お待たせぇ!!」
そうこうしている内にリールの着替えが終わり、彼女は薄手のワンピースに着替えていた。
普段は、お転婆気味の彼女だが、こういう服を着た所を見ると印象が変わり普通に綺麗な女性と言う感じがする。
思わず翔矢は見とれてしまった。
「わっわたくしも、テレビで見たモデルさんのワンピースにしますかねぇ!!」
その事を敏感に察したペネムエは対抗して白のワンピースに着替えて見せた。
「やっぱりペネちゃんの服って便利だよね」
翔矢が数秒自分を見つめたのでペネムエは期待したが、本当の意味で服の感想を言われただけで肩を落とした。
「それじゃ行くか!! 確か使う呪文は……
【インスタントゲート・オープン】」
呪文を唱えながら鍵を前に出すと空間が歪みグニャグニャした紫の穴が開いた。
3人はテンションMAXで中に入って行ったが、そのせいか重要な事を忘れていた。
この鍵の行き先が“天道ユリアの家”という事を……
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