133話:バーベキューからハグが始まりそうです()
バーベキューを焼き始め、後は食べるばかりとなっている一行。
「翔矢君、そろそろ焼けたかな?」
悠奈は目を輝かせながら、串焼きの1本に手を伸ばした。
「おい、待て!!」
翔矢は、そんな悠奈の手をガッシリと捕まえた。
「これの何処が、もう焼けたように見えるんだ?」
実は、まだ焼き始めて数秒しか経過していない。
当然肉は、まだ赤いままだ。
「レアで頂こうかと」
「ステーキじゃないんだよ!!」
「お肉を焼くだけの料理だから同じでは?」
「……頭痛い」
この悠奈の言動には、いくら長い付き合いでも頭を抱えてしまう。
「まぁまぁ悠奈様、ちゃんと火を通した方がおいしいですよ?」
「おなか空いたなら、モヒカンが用意してくれたイワシの丸焼きなら、おいしいわよ」
ぺネムエとリールがフォローに入る。
ちなみにリールは、すでにイワシを1匹平らげている。
「じゃあ、モヒカン先輩!! 頂きます!!」
「どうぞっす!! いっぱい釣れたんでご遠慮なさらず!!」
モヒカンは嬉しそうに悠奈にイワシの丸焼きを渡す。
それを悠奈は一瞬で平らげてしまった。
「おいちい!! ユリアさん!! 一緒に食べましょう?」
悠奈はユリアの元に向かったが、彼女から返事はない」
「もしもーし?」
こりずにユリアの体の色々な部分をツンツンしながら話しかける悠奈。
「ひゃん!!」
ある部分に手が触れた瞬間、ユリアは大ジャンプをして飛び上がった。
「あっ起きた!! お疲れですか?」
「誰のせいよ!!」
ここまで温厚だったユリアが珍しく大声を上げる。
「声優さんが、そんな大きな声を出したらファンの人にバレますよ?」
「私のファンが、夏休みに海とか来るわけないでしょ!!」
ユリアは顔を伏せたまま、大きな声を出して怒鳴る。
「あのユリアさんがファンをディスっている……」
翔矢は前に彼女のサイン会に参加させられた時に、ファンを1人1人認知していた事を思い出した。
まるで同一人物の発言とは思えない。
今にして思えば、彼女は天使と人間のハーフなので、人の心を読む能力を利用してファンを認知していたのだろうと、翔矢はふと思った。
「ユリアさん、熱中症っすか?」
ただ事ではないと思い翔矢もそばに寄った。
「いえ……悠奈ちゃんの料理が、もはやファンタジーの世界で、お世話が疲れただけよ」
「照れますなぁ!!」
「褒めてねぇよ、お前、いくら可愛くても嫁の貰い手いねぇぞ!!」
まるで反省していない悠奈の態度に、ユリアは太い声でキレはじめた。
声優なので色々な声は出せるだろうが、もしかしたら、これが素なのではと翔矢は恐怖を感じた。
「可愛いって言われちゃった!!」
「お前なぁ……とりあえずユリアさんに謝れ」
「このたびは、多大なるご負担をかけて、すいませんでした!!」
翔矢の指示には、素直に従い、90度頭を下げて謝る。
「もういいわ……良く考えたら、悠奈ちゃんを私に押し付けたの翔矢君じゃない!?」
この一言で、翔矢はビクッと振るえる。
「すいませんでしたぁ!!」
そして熱々の砂に額を付けて謝罪した。
それだけ、さっきの太い声のユリアが怖かったのだ。
「まぁ変に疲れただけだから、本気で怒ってる訳じゃないけどさ。
これは男子高校生成分を摂取しないと回復できないかな……」
ユリアは、ようやく立ち上がり両手を広げる。
「そのポーズはなんすか?」
「ハグして?」
「はっ?」
この要望に応える度胸は翔矢にはなかった。
固まるだけで、体は1歩も動かない。
「水着じゃ刺激が強いかな?
妥協して、なでなででも可」
「まぁ、それくらいなら……」
普段ならツッコミの1つでも入れる所だが、大勢で遊びに来たテンションもあったのだろう。
翔矢は、そのままユリアの頭を撫でてしまった。
「ふふふ……隙あり!!」
3回ほど頭を撫でられたタイミングで、ユリアは翔矢に強く抱きついた。
「これ、男女逆なら犯罪っすよ?」
翔矢は体中赤くなっているものの、口調は冷静だった。
「あらら……取り乱して、お手洗いに直行位のリアクションを期待してたんだけど?」
「なんでっすかね、自分でもビックリするくらい平気でした」
「私に色気は無いと申すか?」
「そんな訳はないですよ?
体力回復したなら、さっさとバーベキュー始めますよ?
みんな待ってるんですから」
「それは悪い事したわ!!」
ユリアと翔矢は大慌てで、他のメンバーの元に向かった。
***
今の一部始終をペネムエとリールもみていた。
「ペネムエ……今の黙って見てて良かったの?」
「わたくしも本当は止めたいので山々だったのですが、翔矢様と話してるユリア様って何だか寂しそうに見えるんですよね」
「そう……かな? 私にはただの危ない人にしか見えないけど?」
ペネムエに言われて、ユリアをマジマジと観察してみるたが、やはり彼女には分からなかった。
「お待たせ!! ごめんねぇ」
「やっと、そろったか?」
ここで、ようやく翔矢とユリアが合流した。
「あれ? 悠奈は? さっきまで俺達といたんだけど?」
「悠奈様はモヒカン様と、焼き魚を召し上がっておられます」
「自由すぎるだろ……」
ペネムエの指差した方向には、悠奈がモヒカンの焼いたイワシをバクバクと食べていた。
ちなみにモヒカンは、焼くのに専念して、自分はほとんど食べていないようだった。
悠奈に焼くのを任せたら、どんな惨劇が起こるのか想像するだけで恐ろしいので、これは仕方がないだろう。
「そうだ、翔矢様?」
「何?」
「失礼いたします!!」
串焼きの方を始めようとした翔矢に、ペネムエがギューっと抱きついて来た。
「あぁ、ユリアさんの真似か!!」
翔矢は、そこまで動じることなくペネムエの頭をポンと撫でた。
「ユリア様の3倍でお願いいたします!!」
「必殺技か何かかな?」
と言いつつも、その要望に応え、10回くらいはペネムエの頭を撫でた。
「あいつマジでペネムエを妹としか見ていないんじゃ……
本人が満足そうだけど、このままにしておいていいのかな?」
リールは、微笑ましさ半分、不安半分で見ていた。
「みんなー!! バーベキュー始めないんなら私が管理しちゃうよ!!」
「「「「「それだけは止めて!!」」」」」
待ちきれずバーベキューを管理しようとした悠奈を、全員で必死に取り押さえたのだった。
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