132話:罪悪感から進捗確認が始まりそうです()
リールの頭の中で、翔矢を殺そうとしていた事への罪悪感は、1秒ごとに膨れ上がっていた。
「はぁ……」
「調理中に溜め息を付くなよ」
そんなつもりでは無かったのだが、翔矢に注意されてしまった。
「ごめん……」
「俺にで良かったら、相談でも愚痴でも言えよ?
一応、友達ライセンスが出た訳だし」
「友達ってライセンス制なの?」
「うん、やっぱり調子を取り戻すにはツッコミが一番だな」
「……ありがとう」
リールの、あまりに素直な言葉に翔矢は固まってしまう。
「私、何か変な事言った?」
「いや、こう……素直と言うか直球な言葉を言うタイプだとは思ってなかったからな」
「私だって本当に感謝してる時は、ちゃんと言うわよ」
「ははは、その流れで言いたいことあるなら言ってみ?」
少し安心したのか、リールは自分の気持ちを打ち明ける事にした。
「もう訳が分からないわ、再現された世界とはいえ、私はマキシムでベルゼブと確かに戦った……
苦しんでる人も、大勢見た……だから、あなたの事をマキシムに転生させなきゃって誓ってきたのに……
これじゃあ私のしようとした事って何なの?」
「そんな事で悩んでたのか?」
「そんな事って……」
「過去って魔法でも変えられないんだろ?
だったら悔やむより、今出来る事をするしかないんじゃない?
今やるべき事は、とりあえず、みんなでおいしくバーベキューする事だな」
「そう……ね」
「あと……ありがとな」
「はっ?」
翔矢が何を言っても、リールは落ち込んだままだった。
その様子に気を使ったのか、それとも自然に本心が漏れたのか、その言葉を言われる覚えのないリールは動揺してしまう。
「だってさ、リールがその任務を引き受けてなかったら、俺はぺネちゃんと出会えてないしさ……
色々と巻き込まれる事もあるけど、やっぱり毎日が楽しくなったよ?
親父は仕事仕事で基本家にいないし、やっぱ家に1人って寂しいからな。」
少し長くなった語りが、自分で恥ずかしくなったのか翔矢は顔が赤くなってしまった。
「……今のぺネちゃんには言うなよ?」
「なんでよ? あの子だって家族に憧れてたから聞いたら大喜びよ?」
調子が本格的に戻ったのか、リールは少し意地悪な顔をしていた。
「ははは、まぁ日本人は面と向かって感謝するのは照れてできない人が多数だ」
「まぁ確かに言わなくても伝わってるだろうけどね」
「なんか完全に調子が戻ったみたいだな……」
「なぜ、残念そうに言うのよ?」
「もし、まだ気にするなら、さっきのおっぱいでチャラにしてやるってセクハラネタを披露してやろうかと」
「あんたも、ちゃんと男子なのね、なんか安心だわ」
「どこに安心する要素が?」
翔矢はリールに変態と罵られるくらいの覚悟をしていたので、この反応は予想外で少し困惑してしまった。
そこに、ペネムエがテクテクと向かってきた。
「翔矢様!! ご飯は残り10分もすれば炊けるかと」
「マジか、やったことなかったが思ったより早いな」
ペネムエの報告に翔矢は作業のペースを上げた。
それに釣られるようにリールのペースも上がり、2人の息はピッタリだった。
「あれ? 2人ってそんなに仲良かったでしたっけ?」
その様子にペネムエは首を傾げリールは寒気が走った。
恐る恐る顔を上げて彼女の表情を確認すると、怒った様子はなく安心した。
(ブリューナクで凍り付けくらいは覚悟したんだけどな……)
少し拍子抜けしたが、今やるべき事はバーベキューの準備だと言い聞かせ集中して作業に戻った。
「ぺネちゃん、なんか鍋から煙上がってない?」
「ひえっ、火が強すぎましたかね?
まだ慌てるような時間では無いはずです!!」
ペネムエは慌てて持ち場に戻って行った。
「あわてて火傷、しないでね!!」
翔矢が大き目の声で注意するとペネムエはスッと右手を上げた。
「ってぺネちゃん1人で大丈夫かな?」
「私たち天使は野営とか良くやるから、こういう事は、日本人より慣れてるわ。
あの子だって優秀な天使だから、こんなの朝飯前、いえ昼飯前よ」
ペネムエの様子を心配そうに見守る翔矢に対して、リールは自分の作業を落ち着いてこなしている。
「まぁ俺が行って落ち着いて対処できるかって言われたら自信ないけどな。
ってか、何でお前が得意気なんだよ?」
リールとの会話を続けてはいるが、翔矢の視線はは心配そうにペネムエを見つめたままだ。
「どうしても心配なら行けばいいじゃない?
こっちも、もう少しで終わるし私1人で十分よ」
「……いや、ここはペネちゃんを信じて任せるよ」
「あんたは親か?」
作業の目途が立った事もあり、リールも一応ペネムエの様子を見守るが、特に苦戦している様子は無かった。
「まぁ、そりゃあ心配ない……ん?」
「あっ!!」
しかし、その様子に異変が起きた。
翔矢は、いても立ってもいられず、ペネムエの方に猛ダッシュで向かった。
「ふふふ“ああいうの”は心配するのね」
その姿をリールは微笑ましく見守った。
***
ペネムエの元に猛ダッシュで駆け付けた翔矢。
「あっ翔矢様、こちらは問題なかったですよ?
少し噴き出してしまっただけですので」
しかし、ペネムエは何事も無いようすだ。
「えっと……あれ?」
翔矢は拍子抜けして体の力が抜けてしまう。
そんな彼に声を掛けたのは、その場にいたチャラそうな大学生男子のグループだった。
「ちょっと兄ちゃん!! この子の連れ?
女の子に1人で火の番をさせちゃダメだろ?」
「あっはい……すいませんでした」
「まぁ大事にならないしよかったけどさ、こんな可愛い子に火傷させたら一生の罪だからな!!
ちゃんと一緒にいてやれよ!!」
大学生グループは、そう言い残し去って行った。
「あはは、怒られちゃったけど普通に良い人達だったね」
「えぇ、1人で鍋の対応をしていたら心配して声を掛けてくださいました」
「てっきりペネちゃんがナンパされたかと思って飛んできちゃったよ」
翔矢の苦笑いた表情を見ると、ペネムエは何だか嬉しく思った。
「わたくしがナンパされてたら嫌ですか?」
「ナンパするような男に妹はやれん!!」
何故か腕組をして大きな厳しい表情をする翔矢。
「えへへ」
ペネムエは顔を真っ赤にして下を向き照れている。
この様子を離れてはいるが見守っていたリールは「それでいいのか?」と疑問に思ったが、本人が満足そうなので首を突っ込まない事にした。
「ところでご飯は大丈夫なの?」
「えぇ、噴き出してはしまいましたが、問題なく美味しく炊けましたよ」
「よし、串焼きも出来たし焼きはじめようか」
「ではライスは、ワタクシがよそっておきますね」
「よろしく!! っとモヒカン先輩の様子を見てなかったな」
再び、この場はペネムエに任せモヒカンの元に向かった。
***
「モヒカン先輩、進捗はどうですか?」
あまりにも特徴的なモヒカンの後ろ姿に、顔を見なくても一瞬で彼だと判断する事ができた。
「翔矢の兄貴!! 見て分からないっすか?」
「順調みたいですね、見てるだけで腹減ってきました」
モヒカンは既にイワシをサバイバル風に串で刺して焼き始めていた。
香ばしい香りで、正直リールと作業をしている時から、順調なのが分かって、特に様子は気にしていなかったのだ。
「俺っちの、数少ない特技ですからね。
任せてくださいよ!!」
モヒカンはドンと胸を張る。
翔矢も料理が特技ではあるのだが、魚は捌いた事は無いので、素直に感心した。
「んじゃあ、後は……
問題児の所か……」
翔矢が視線を向けた先にはユリアと悠菜がいる。
悠菜は、さっき切った野菜を運んでくれたりしていたので進捗は分かっている。
一応は無事に終わったはずなのだ……
しかし、ユリアはぐったりとくたびれている。
そこに人気声優の面影は微塵も感じられない。
「よし、飯にするか!!」
彼女の事を見なかったことにして、肉を焼きに戻る翔矢であった。
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