129話:ゴムボートから密着が始まりそうです()
翔矢達は、おやつの焼きそばを食べ終え、ようやく海で遊び始める事となった。
「さぁ、さっそく張り切って遊ぶわよ!!」
「さっそくとは?」
リールはテンション高めで胸を張っているが海に到着してから、すでに1時間くらい経過している。
それで、今から海に入るのだから、さっそくとは言い難い。
「細かいことは良いのよ!! 楽しければね!!
所で、この中途半端に膨らんだゴムボートは?」
「さっき、お前を探す前に膨らませてたんだが、ポンプが小さいせいか中々膨らまなかったんだよな……」
「こんな小さいのじゃ、どう見ても無理よ。
ちょっと貸しなさい!!」
リールはゴムボートに刺しっぱなしになっていた、ポンプの管を引き抜いた。
「どうする気だよ?」
翔矢の質問に答える事無く、リールはゴムボートの空気を入れるところに口を付けた。
「おい……まさか……」
すると、ゴムボートはすごい勢いで膨らみだし、あっという間にパンパンに膨れ上がった。
「わー!! リールちゃんすごい!!」
異様な光景ではあるが、悠菜はパチパチと拍手をして称えるだけで不思議がる様子はなかった。
「ありがと、はぁ……はぁ……
さすがに息が切れるわね……」
「リール、いくら何でも無茶しすぎですよ」
ペネムエは肩で息をするリールの背中を優しくさすった。
「でも、このボートってオールとか付いてないから、誰か引っ張らなきゃダメよね?」
「そうですね、俺が子供の時に遊んでた奴を見つけて懐かしくなって持ってきただけなんで……」
ユリアの質問に翔矢は恥ずかしそうに答えた。
「代わりばんこで乗れば大丈夫ですよ!!」
そう悠菜は提案したが、モヒカンは何かを企むような笑みを浮かべた。
「悠菜の姉さん、その必要はありません!!
全員ゴムボートに乗ってください!! 俺っちが押します!!」
「いや、さすがに無理じゃないですか?
そもそも全員、乗れないのでは……?」
翔矢がボートを見ながらつぶやいている内に、話は、その方向で進んでしまっているようだった。
「翔矢君!! 置いてくよ?」
「悠菜は、よくその状況で俺に乗れと言えるな?」
女性陣4人は何故かすでにゴムボートに乗ってしまっている。
何人乗りかは覚えてないが子供用のゴムボートなのですでにギュウギュウだ。
「翔矢様!! 確かに少し狭いですが詰めれば行けます!!
どうか、わたくしを翔矢様の膝の上に乗せてください?」
「ペネちゃん……気は確かか?」
「本人が、そうしたいって言ってるんだから、そうしたら?
ちなみに私は、露骨に変なところ触られたりしない限り気にしないから」
そう言ったリールは、ペネムエに向かってウィンクした。
「私は露骨に変なところを触られたいです!!」
ユリアは選手宣誓のように手を挙げて謎の宣言をしているが、翔矢はとりあえず無視した。
「私は翔矢君と、お風呂一緒に入った仲だし今更だよねー」
この悠菜の宣言には少し空気が凍り付く。
「おふ……おふ……」
特にペネムエは絶望に近い動揺をしているのが分かる。
「いや子供の時!! ほぼ赤ちゃんの時!!
入ったことがあるという事実以外、何も覚えてないよ!!」
慌てて補足説明した事で、何とか空気は収まった。
「今日、全員テンションおかしいぞ?
そこまで言うなら俺も乗るけど、後で文句言うなよ?」
「「「「はーい!!」」」」
息のピッタリ合った返事を聞いたところで、改めてゴムボートに乗る順番が話し合われる。
「ペネちゃんは、マジで俺の上でいいの?」
「翔矢様が嫌でなければ、他に選択肢がありません!!」
「そのテンションは分からないけど、誰と乗っても同じような状況になるからいいか……」
翔矢はゴムボートの一番後ろに乗ろうとした。
しかし、リールが『ストップ!!』と言って待ったをかけた。
「一番後ろには私が私が乗るわ!!
人間の、あんたを支えの無い所に座らせる訳には行かないわ!!」
リールはそう話しながら、ボートの一番後ろに乗った。
「ほら私が、しっかり支えててあげるから前に乗りなさい?」
そして翔矢を手招きする。
「……お前、何を企んでやがる?」
この態度に違和感を感じた翔矢は、少し鋭い目でリールを睨んでしまった。
「私が掴んでれば、万が一転覆しても溺れる心配は無いから安心して身を任せなさい!!」
「リールちゃん、さっきも小さい子を助けてたし安心だね!!」
「いや……別に俺も泳ぎは苦手じゃないんだけど」
「翔矢君、さっき海を舐めてたら死ぬって言ってたよね?」
今度は悠奈が冷たい視線で翔矢を睨んだ。
「分かった分かった、俺がリールの前に座ればいいんだろ!?」
キリが無さそうだったので、意を決してリールの前に座った。
だが無意識にスペースを開けてしまっていたのだろう。
リールに抱き寄せられるように、翔矢は引っ張られた。
「うわっ」
「いや狭いんだから、ちゃんとくっつかなきゃダメよ?」
こうなると、翔矢の背中には、リールの前面のほぼ全てが当たってしまう。
「うん、今日はこういう日だと思って受け入れる……」
翔矢は心を無にして固まるしかなかった。
「それでは翔矢様、失礼します!!」
「うん、もう好きにしてください……」
さらに、その上にペネムエが乗って来たが何とか無心を貫く翔矢。
(ぺネちゃんの上、キャミソール型で助かった。
リールみたいなビキニだったら俺の限界は超えていた)
「何かおっしゃいましたか?」
「おっしゃってないです」
ここで久しぶりに天使特有の自分に向けられた心の声を聴く能力が発動したが、ペネムエは聞き漏らしたようだった。
「じゃあ次は悠奈、行きます!!
美人声優さんとキャワワな美少女に挟まれたいです!!」
そう宣言した悠奈はペネムエの前に乗る。
ペネムエは悠奈が落ちても、すぐに対応できるように腰をガッチリ掴んだ。
「私が先頭なのかぁ」
ゴムボートがギリギリで安定してるのを確認してユリアも乗り込んだ。
「成人女性と男子高校生がくっついたら警察来ますからね!!
最善策です!!」
そう言いながら悠奈は自分の前に乗って来たユリアの背中に顔をスリスリしている。
「こっこれはこれで何かに目覚めそうだわ……」
だがユリアはまんざらでも無い様子だった。
「じゃあ、皆さん、出発するっすよ!!」
モヒカンがボートを押しながらバタ足で泳ぎ始める。
出発して即転覆というオチを翔矢は予想していたが、これなら普通に楽しめそうだと思った。
「沈まないもんだな」
「きっと操舵手が優秀だからよ」
「リール姉さん、お褒めに預かり光栄っす!!」
泳ぎっぱなしのモヒカンは、かなり体力を消耗しているはずだが、彼は満面の笑みで船を押し続けている。
「モヒカンは、明るくて話しやすいわね。
それに比べて宮本翔矢!!」
「え? 俺なんかした?」
「いつもより口数が少なくない?
体も熱い気が……熱とかないでしょうね?」
「熱は……あるかもな?」
ここで翔矢は『お前の色々な物が密着してるからだろうが!!』
と突っ込みたくなったが、さすがに口にはしずらい。
そこで、天使の自分に向けられた心の声を聴く能力を利用して伝えることにした。
(そもそも俺の命を狙って、この世界に来たんだしな……
多少、あれな表現を使っても、罰は当たらないだろう。
相手は天使だけど……)
色々と当たってて色々ヤバいという事実と共に、その感触の感想を事細かに伝えてみた。
「なっななな……」
体勢的に彼女の表情を確認する事はできないが、かなり照れたのだろうと翔矢は感じた。
流石にやり過ぎたと思い一応最後に一言だけ謝罪したが返事は無い。
(やってしまった……後で心の声じゃなくて、ちゃんと謝るか……)
いまだに背中に伝わる感触に翔矢は耐え続けるのだった。
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