127話:お披露目から推理が始まりそうです()
「ふぅ……ポンプ使ってもボートを膨らますのキッツいな」
翔矢がボートを膨らまし始めて数分。
足で踏むタイプのポンプを使っていたのだが、慣れない動きを繰り返しているせいか、疲労の色が見え始めた。
それに加えて、まあ半分程度しか膨らんでいないボートを見て、精神的な疲れまで加算されてしまう。
「やっぱり、もっと楽に膨らませれるのを買っておくべきだったか」
不満を漏らしながらも、足を止める事無く動かしていると、ソロソロとペネムエがやってきた。
「翔矢様……」
「あっペネちゃん元気出た?」
「申し訳ありません。
最初から元気でしたし、今日は、とても楽しみにしていたのですが……
悠菜様やユリア様の水着姿を見たら……自分に自信が無くなってしまいまして……
せっかく水着を選んでくださった翔矢様にも失礼ではないかと」
ペネムエは、モジモジして詰まりながらも何とか要件を言い終えた。
「ふふふははは」
ペネムエが真剣に話しているのは分かっているのだが、翔矢は笑いが堪えきれなくなり、腹を抱えて笑い出してしまった。
「ななな何も、面白いギャグなどを言ったつもりは無いのですが……」
「ごっごめん……
ペネちゃんも、そんな事を気にするんだなって」
「そんな事って……こういう気合の必要な格好で男性の前に立つのに重要な事でございます!!」
ペネムエは機嫌を損ねた事をアピールするように頬を膨らませたが、いつもの調子が戻って来たのが翔矢には伝わってきた。
「男の俺が、女子の水着の感想とか言ったら、ちょっと変態っぽくなるかもだけどさ……
可愛いにも種類ってあるし、それ抜きにしてもぺネちゃんは可愛いと思うし自分に自信を持っても良いと思うんだ。
あの場の勢いで言った好みだけど、その水着似合ってるよ?」
「翔矢様のセンスが素晴らしいから……かと」
ペネムエは嬉しいのか恥ずかしいのか体中が真っ赤になってしまっている。
比較的、露出の少ない水着と言っても、普段の服よりは露出は多い。
そのせいか、赤くなっているのが際立って見える。
「あはは……男が女子の服装を選ぶと、ろくな事にならないパターンが多いらしいから、似合ってくれて安心してる」
「ふふっなんですかそれ」
ペネムエは少し笑いを堪え、腕で顔を隠した。
「でも、このデザインはわたくしも気に入りました!!
翔矢様が、お好きなヒラヒラが可愛いですね!!」
そう言いながら、満面の笑みで、自分の水着のミニスカートになっている部分を持ち上げた。
「確かに100パーセント俺のリクエストなんだけど……
俺の好きなヒラヒラと言われると、自分が変態に想えてきた……」
「翔矢様は健全だと思いますが、気になるようでしたら……
そうです!! わたくし以外の着物を選ばなければ何の問題もありません!!」
「まぁ人の服を選ぶなんて、恋人とかできない限りは、そうそう機会ないよね」
「だからこそです!!」
「何が?」
「申し訳ありません、調子に乗ってしまいました」
ペネムエは頭を下げたが、声色はかなり明るい。
その容姿を見計らってかは定かでないが、悠奈とユリアが2人の元に寄ってきた。
「話は済んだ?」
「はい!! おかげさまで!!
お気遣いありがとうございました」
「それは良かったんだけど……」
「何か問題でしょうか?」
「リールちゃんが行方不明なんだよねぇ」
悠奈とユリアからの報告に翔矢とペネムエは顔を見合わせた。
「そういえば最初からいねぇ」
「そういえば最初からいません」
そして綺麗に声をそろえて、状況を理解した。
「あはは、2人とも本当の兄妹みたいだね!!
って言ったらペネムエちゃんに怒られちゃうねぇ」
そんな2人を悠奈は微笑ましそうに見つめていた。
「どどどどうしましょう!! リール……サメに食べられたりしてなきゃ良いですが……」
「それは無いと思うけど、準備体操もせずに海には入らないだろうし、浜辺を探せば見つかるだろ」
「準備体操って……翔矢君は本当にかわいいなぁ」
「ユリアさん……まさか準備運動せずに海に入ろうとしてました?
死にますよ?」
「はっはい!!」
いつもと違う迫力のある翔矢の視線に、ユリアは思わず怯んでしまった。
「翔矢君は、意外と真面目なところがあるんですよー」
「悠奈!! お前もな!!」
「御意!!」
悠奈は翔矢に慣れているせいか、びしっと敬礼をする余裕があった。
その後3人は手分けをしてリールを探し始めたが、数分探しても見つける事は出来なかった。
「いたか?」
「見つかりませんね」
「リールちゃん、可愛くて美人だからナンパされてたりして」
「ない……とは言い切れないけど、それなら断るだろ?」
もはや手詰まりで翔矢・ペネムエ・悠奈の3人は黙って考え込んでしまった。
ユリアはキョロキョロと辺りを見渡し、まだ捜索を続けている。
その甲斐あってか、何かを見つけたようで、同時に何かを閃いたように悠奈に耳打ちをした。
「悠奈様?」
ペネムエが、ふと悠奈の方を見ると、彼女はテントの隣に置いていたキャンプ用のイスに眠るように座りこんでしまった。
「熱中症にでもなったか?」
「いえいえ、心配ご無用です!!」
翔矢も心配して近寄ったが、いつもの元気な悠奈の声が聞こえたので安心した。
しかし、彼女の体は動かないままだ。
「何かの真似してるのか? 寝てるようにイスに座るって、どこかで見た記憶が……」
「そう!! 分かったんですよ!!
今回の“赤髪美女失踪事件”の真相がね!!」
その一言で、翔矢とペネムエは同時に悠奈が何の真似をしているのかに気が付いた。
ペネムエはさらに、その先に気が付いて、テントの中を開けた。
「ユリア様……何をしているのですか?」
テントの中には、何故か蝶ネクタイを持ったユリアがいた。
「あはは、名探偵は他にもいたねぇ!!」
「ちょっと悠奈ちゃん!! まだ寝てるふりしててよ!!
こっから推理ショーなんだから!!」
「はぁい」
悠奈は再びイスに座り寝てるふりを続けた。
「え? さっきのユリアさんが悠奈の声出してたの?
全然気が付かなかった……」
「私は声優よ? どんな人の声だって出せるわ!!」
ユリアは得意気に胸を張ってみせる。
「それ声優っていうか怪盗みたいですね………」
「ふふふ、じゃあ推理ショーやるから、翔矢君とペネムエちゃんは、元の場所に戻ってね」
そう言い残し、テントのチャックがシャッっと閉められてしまったので、2人は悠奈の方に戻る事にした。
「良く考えたら、声が聞こえてくる方向的なのもおかしくね?」
「声優様と言うのはプロですからね」
「プロだからか」
翔矢とペネムエは、大きな疑問をさっと流し、悠奈ではなくユリアの話を聞くことにするのだった。
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