124話:お祝いから結果発表が始まりそうで()
「本当に申し訳ありませんでしたー!!
天界を慌てて出て来たので、この世界に、魔法を配ってる奴がいるなんて知らなかったんです!!
宮本翔矢とペネムエが通り掛からなかったら、どうなっていた事か……
許してください!!」
翔矢の部屋でリールはゼウに向かって綺麗な土下座をしていた。
その姿ををゼウは、シフィンに肩の治療をされながら見ている。
「気にするな……説明を面倒くさがって、先を急いだ俺も悪い。
まぁ能力者については、かなり厳重な警告が出ているはずだが……
分厚い内容だし、馬鹿は読みたくないよな?」
その言葉に安心したのか、リールはゆっくりと頭を上げた。
「じゃあ許し……また馬鹿って言ったぁ!!」
リールが泣き出したタイミングで、ちょうど治療が1段落したようだった。
「はい!! 治療はおしまい!!
人間だったら、腕が使い物にならなくなる所だったけど、まぁ天使の体なんて入れ物みたいなものだからね。
日常生活は、まぁ少し不便かもだけど問題は無いかな。
ただし、激しい運動はダメ、戦闘とかは言語道断!!
まぁウチが注意するまでもなく、そこまでは痛くて動かせないだろうけどね」
シフィンの診察と治療を受けたゼウは、包帯を巻かれた腕を軽く回してみた。
「うっ……」
傷口が傷んだのか、ゼウは渋い顔をしてリールを睨み付けた。
「……やっぱり気にしろ」
「許してください!! なんでもしますから!!
やっぱり馬鹿って言って良いですからぁ!!」
リールは再び、姿勢の良い土下座を披露する。
「お前に要求することは……無いな
その、そそっかしい性格は、どうにかするべきだと思うが」
「善処します……」
この微妙な空気の2人を、シフィンは苦笑いして眺める事しか出来なかった。
「あはは、翔矢っち!! ペネっち!! 入ってもいいよ!!」
その後の沈黙に、ついに耐えきれなくなり、部屋の外で待機していた2人に、助けを求めるように呼び出した。
「はっはい」
「ゼウ、災難だったな……」
部屋に入るなり嫌でも目に入って来る、包帯巻きのゼウに2人はなんと声を掛ければ良いのか分からなかった。
翔矢は、ゼウとは年齢が近い男同士という事もあり、通信用の魔法石で、ときたま話し親しくはなっていたのだが、この状況ではたどたどしくなってしまう。
「ゼウ様、この度はウチのリールが、ご迷惑をおかけしました」
ペネムエは、ゼウの前に立ち、ペコリと頭を下げた。
「本人も反省してるみたいだし、できれば多めに見てください……」
ペネムエに釣られるように、翔矢も同じくペコリと頭を下げる。
「あんたらは、私の保護者か!?」
これには、今の今まで、しょんぼりしていたリールも声を大にして突っ込まずにはいられなかった。
「まぁ……何かあっても、しばらくは戦闘に参加はできないが、生活に問題は無さそうだしな。
医者の天使が、いてくれたのは幸いだった」
ゼウの表情が、柔らかくなったので、一応謝罪は受け入れてくれたのだと、この場の全員が解釈した。
「私は、しばらく天界にいた内にペネムエに天使の知り合いが増えてるのが驚きなんだけど」
「えっと、まぁ色々ありましたので……
ゼウ様もシフィン様を、わたくしを認めて下さっているようです」
ペネムエは照れ臭そうに質問に答えた。
「認めてるなんて、ペネっちは堅苦しいなぁ。
ウチら、もうマブダチでしょ?」
シフィンは、ペネムエの肩をがっちりと組んで見せた。
その様子を見たリールは、ムッとした表情を見せた。
「マブダチ……まぁ私はペネムエと親友なんだけどねぇ!!」
そう言ったリールの頬は膨れていた。
「なんだ、妬いているのか?
実力の、ある者が認められるのは当然の事だろ?」
ゼウは首を横に傾げているが、キョトンとした表情をしているので悪意は無いと思われる。
「あんた……ケガさせたって負い目が無かったらぶん殴ってるわよ!!
私だって、超天才なんだから、あんたよりも実力は上よ!!」
リールは立ち上がると、腕をブンブンと回し、本当に殴りかかってしまいそうな勢いだ。
「ちょっと……2人とも止めてください!!」
「ウチも、医者としては駆け出しだから連チャンで治療とか自信ないよ!?」
一触即発の2人の様子に、ペネムエとシフィンは慌てて、場を納めようとするが、2の間に飛び散る火花はバチバチと勢いが増すばかりだ。
「翔矢様も止めてくださいよ。
ゼウ様とは、知らぬ間に仲良くなっておられましたよね?
あれ? 翔矢様?」
ついさっきまで、隣にいたはずの翔矢が、気が付くと部屋から居なくなっていたのでキョロキョロと探してみる。
それから、1分も経たない部屋の扉がコンコンとノックされた。
「ごめーん、開けて!!」
「あっはーい」
部屋の外から聞こえる翔矢の声に応えて、ペネムエが扉を開けると、そこには豪華なカキ氷を持った翔矢がいた。
「これは、見事な氷菓子でございますね!!」
テンションの高いペネムエの声に反応し、リール・ゼウ・シフィンも翔矢に注目した。
「おぉ!! 数か月ぶりのノーマジカルの食事!!
やたらトッピングが豪華だけど、どうしたの?」
すでにノーマジカルの生活に慣れていたリールも、かなりテンションが上がっていた。
「ペネちゃんから、リールはB級の昇格試験を受けるって聞いてたから合格祝いにと思ってな。
本当はケーキとか焼ければ良かったんだけど、いつこっちに帰って来るか分からなくて準備が間に合わなかったんだ。
あり合わせのフルーツを乗せただけだが、そこそこ豪華になったから、これで勘弁してくれ!!」
口では、勘弁してと言っているモノの翔矢の表情は得意気だった。
そして、この場の全員が、カキ氷に注意していたので、リールの表情が固まっているのに気が付かなかった。
「そうでした!! ドタバタして遅くなってしまいましたが、おめでとうございます!!」
「へぇ、魔力が超絶高いから、てっきりA級だと思ってた!!
初対面だけどウチからも、おめでとう!!」
「こんな、馬鹿と同じ階級とは……
こだわるつもりは無かったが、次は真面目にA級を目指すか」
ゼウだけは複雑な表情をしているが、一応、全員がリールに祝いの言葉を述べた。
しかし、リールは下を向いてしまい、何も話さない。
「照れてるのですか? リールらしくないですね?
いつもなら『超天才の私ならB級くらい楽勝よ!!』とか言いそうですが……」
リールとの付き合いが長いペネムエは、少し不思議に思ったようだが、真実には辿り付けなかった。
「……でした」
「はい?」
ようやく、か細い声で何かを発したリールだが、小さすぎて誰も聞き取れない。
「だ・か・ら!!
不合格だったのよ!! 悪かったわね!!
私はペーペーのC級天使のまま、この中で一番の下っ端のままですよーだ!!」
リールは大きな声で自虐も交え、開き直ったかのように話す。
しかし真っ赤に染まった表情から、彼女の本心は丸分かりだったので、誰もツッコミは入れられない。
何とも言えない空気が流れ約10秒、耐えきれなくなり最初に口を開いたのはリールだった。
「ほっほら!! せっかく用意してくれたカキ氷が溶けちゃうわ!! 頂きましょう!!」
「おっおう、食べてくれ」
この一言で、やっとの事、机にカキ氷が並べられた。
5人は無言で食べ始めるが、誰も味わう所ではなくなっていた。
「すっすごいですね!! 氷を口にしているのに頭がキーンとなりません」
「だっだろ? 実は親戚のカキ氷屋から、氷を分けてもらっていたのさ。
良い氷だとキーンとならないんだって」
「まー素晴らしいですね」
「ってかペネちゃんは、氷使いなのに、氷で頭がキーンってなるんだね」
「そういえば寒さに強いのに頭キーンは、なりますね。
気にした事は無かったです。」
「不思議だねー」
翔矢とペネムエは、一見楽しそうに会話を会話をしているが、なんだか不自然で明らかに無理をしている。
「あー!! もう!! せっかくのカキ氷を台無しにして悪かったわね!!
言いたい事があるなら、言いなさいよぉ!!」
これに誰よりも耐えられなかったのはリールだった。
「いや早とちりして、お祝いとか言った俺も悪かったし……
ペネちゃんの、合格祝いがまだだったし、一緒に出来ればと思ったんだけどな……」
翔矢も少し反省したような表情をしている
「リールは急に試験を受ける事を決めて、勉強時間が無かった訳ですし、結果は残念でしたが仕方ないと思います……」
「いいえ、筆記は受かったわよ?
ダメだったのは実技の方……」
「え?」
「うっそ?」
「その魔力でか?」
リールの並外れた魔力の高さは、初対面のシフィンとゼウにも伝わっているらしい。
何となく彼女の実力を知っている翔矢と同じように驚いている。
「リールほどの実力者を倒す天使がC級にいたのですか?」
「私が負ける訳ないじゃない?
試験会場が天界の第一スタジアムだったんだけど、私がちょっと“ワールド・エンド・インフェルノ”使ったら崩壊しちゃったのよね。
その修理で帰って来られなかったの、しかも不合格って酷いわよね!?」
このカミングアウトに、今度は不合格の事実を知った時以上の妙な空気が流れた。
しかし、翔矢だけは何も理解できていない。
「えっと、修理したんなら、済んだ話だしいいんじゃない?」
「翔矢様、天界の第一スタジアムは、この世界で言うと……
世界遺産を破壊したようなイメージなのですよ」
「マ?」
「マでございます」
「しかも、天界は人間よりも規律や伝統を重んじるからな」
「修理しても、普通は牢獄行き、さすがのウチもウケるとか言えない……」
ペネムエの回答に、ゼウとシフィンも説明を付け加えてくれた。
「オーディン様が、かなり尽力してくれて……
『こんな危ない奴は、魔法が使えない世界に送り付けておけ!!』って、怒ってたけど……」
「当然ですよ……わたくしは、リールといられて嬉しいですが……」
この後は、何とか残ったカキ氷を、美味しく食べられたそうな……
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