123話:スカートめくりから勧誘が始まりそうです
夏休み期間のある日の夕方の六香穂市。
部活終わりと思われる中学生くらいの女子グループが談笑しながら歩いていた。
その後ろを、いかにも怪しい中年の男が付けているが、彼女たちは、話に夢中で気が付かない。
「きゃっ」
そんな中、グループの1人が恥ずかしそうな声を上げた。
他のメンバーも声は出さないが、恥ずかしそうにスカートを押さえている。
「なに?」
「変な風だったね」
「うん、ビックリしたぁ」
彼女達は、突然の突風でスカートが捲られてしまったようだが、特に気にする様子もなく、再び談笑を始めた。
後を後を付けていた中年の男は、自分のスマホの画面を見てニヤニヤと嫌らしく笑っていた。
「うひひひひ」
気味の悪い声を漏らしながら、中年の男はスマホを操作をする訳でもなく、ただただ見つめていた。
その画面に映っていたのは、先ほどの、中学生が強風でスカートが捲られた瞬間だった。
たまたまなのか、この男が慣れていたのかは定かでないが、下着の色やデザインが鮮明に分かるくらい、よく撮影されていた。
「どこの世界の奴も風魔法の悪用の仕方は同じなんだな……
まぁ、あの程度の風しか起こせないなら、それくらいしか用途はないか。
俺は、やろうと思わないがな」
「誰?」
スマホを見るのに夢中になっていた中年の男は、その様子を誰かに見られている事に気が付かなかった。
慌てて振り向くと、後ろには、目つきの鋭い金髪の男がいた。
ガラの悪い若者のような顔立ちの男に見られていただけでも恐怖なのだが、この若者の服装はボロボロのローブ。
少なくとも、この中年の男にとって、アニメなどでしか見た事のない格好だった。
「俺はゼウ、この世界では、お前の行った行為は盗撮というのか?
まぁ、警察という組織に突き出す気は無いから、安心しろ」
「じゃぁ金……ですか?
あなた盗撮ハンターって奴ですか?」
中年男性は、怯えたまま受け答えをして、ゆっくりと後ずさりをする。
「いや、まぁ盗撮も立派な罪なんだが、俺にとって問題なのは、あなたが使った“力”だ」
「力? そんな物……俺は知りません!!」
中年男性は、力と言うワードに反応したように、全速力で逃げていく。
しかし、これくらいの年代の人間の足で、天使であるゼウから逃げられる訳は無かった。
ゼウは雷鬼の力を使うまでもなく、簡単に中年男性の服の襟を摘まむようにして捕まえた。
「ひえっ!! 化け物!!」
中年男性は、視界に入った自分を捕まえている手が、人間のモノとは異なる事に気が付き、更に怯えだす。
「まぁ、この世界の人間なら当然の反応か。
だが、あんただって、この世界の人間にはできない事をやったんだし似たようなもんだろ?」
ゼウがフッっと笑みを浮かべた瞬間、何かのチラシが風で飛んできて、彼の顔を塞いでしまった。
さすがのゼウも驚き、チラシを顔から離そうと中年男性からも手を離してしまう。
「ふぅ……しまった!!」
チラシを離してホッとしたゼウが我に返ると、中年男性は少し離れた位置まで走り去っていた。
「漫画とかで見る、能力者同士は戦う定めとかですか?
勘弁してください!! 風を操ると言っても、この程度の風しか起こせません!!
そんな怖い手に太刀打ちできる訳がないじゃないですか!!」
中年男性は叫びながら、対して早くもない足で必死に逃げ続けている。
「宮本翔矢とペネムエは、狼男に変身する能力者と出くわしたと話を聞いたが……
能力にも当たりハズレがあるんだな。
それにしても、怖い手とは……心外だな」
ゼウはため息を付くと、驚かす程度の気持ちで、中年男性の前に雷を落とした。
そのまま中年男性は腰を抜かし、失禁までしていた。
「ペネムエの話では、倒したらカプセルが出てきて能力は消滅するらしいが、驚かすだけじゃダメなのか?」
首を傾げながら、ゼウは彼の意もとへゆっくりと向かう。
「すまないが、能力者を放っておく訳にはいかない。
気絶してもらうぞ!!」
「ひえっ」
今度は右手の人差し指から一直線に、微弱な雷を放つ。
しかし、その雷が中年男性に届く事はなかった。
「天使が人間に手を出すって、どういうつもりよ!?」
双剣を持った赤髪の天使リールが、彼の攻撃を防いだのだ。
「あなた、怪我は無い? 1人で逃げられる?」
リールが優しい声で語りかけると、中年男性は、すごい勢いで首を縦に振り走り去って行った。
「お前……天使か?」
リールにと面識のないゼウは、首を横に傾げながら、何かを探るような目をリールに向けた。
「そうよ!! あなたも天使なんでしょ?
天使が罪のない人間に手を出すなんて事……絶対だめよ?」
「なんだか歯切れが悪くないか?」
「うるさい!!」
リールは自分が宮本翔矢の命を狙っていた事が頭に浮かんでしまい、ビシッとセリフを決まらなかった。
それを、見破られてしまったような気がして恥ずかしくなり、彼女には怒鳴る事しかできない。
「さっきの彼には聞きたい事がある……
馬鹿に説明してる時間はないので、さっさと追わせてもらう」
「なっ!! 言った!! 初対面なのに馬鹿って言った!!」
「機会と時間があれば、馬鹿にでも分かるように説明してやる」
「二回も馬鹿って言ったぁ!!」
リールと初対面のゼウは、そんな彼女に呆れるばかりで相手にするのも、言葉の通りバカバカしいと感じた。
なので雷鬼の力を使い、雷の速度で移動し、一刻も早く、この場を立ち去ろうとした。
【ディスチャージ】
ゼウの体は、全体が雷のように変化し、一瞬で彼女の前から姿を消した。
「そこだぁ!!」
しかしリールは迷うことなく、手に持っていた双剣の内の1本を、投げ槍のように空中に放った。
「なにっ?」
その剣は、見事にゼウの背中へと突き刺さり、彼はそのまま落下しドンと地面に激突した。
「ごめん……こんな大怪我させるつもりは無かったんだけど……」
リールは、アワアワしながらゼウを見つめる事しかできなかった。
***
その頃、図らずもリールに助けられた中年男性は、ただひたすらに全力で走って逃げていた。
「はぁ……はぁ……あの怖い手の奴は、何だったんだ?
助けてくれたエッチな格好の子とは、お近づきになりたい……」
後ろから、誰も追ってこない事に安心したのか、中年男性は独り言を話す程度の余裕が生まれていた。
「その力、腐った世界を浄化するために使いませんか?」
「だれ?」
そんな中年男性を呼び止めたのは、怪しげな白装束を纏った集団だった。
「我々は“転生教”腐ったこの世界を浄化し、神聖な異世界へ旅立つ切符を手にした、あなたの同士ですよ」
怪しげな白装束の集団の言葉などに、普通は見向きもしないが、中年男性は、この集団に付いて行ってしまったのだった。
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