122話:脅しから勇者が始まりそうです()
時は翔矢とペネムエがショッピングモールにいた頃まで遡る。
悠奈、真理、瑠々の3人はスポーツ施設で動画配信者とテニスをしていた。
この動画配信者が、どれくらい人気なのかは悠奈は知らないが、テニスコートは全て貸切っていたので、それなりの知名度が無ければできない事だろうと思った。
自分たちと、少しチャラい感じの3人組の動画配信者しか、いない空間に最初は少し不安だったが、今は普通にテニスをしているので、その不安は悠奈は完全に忘れてしまっていた。
「せいっ!!」
悠奈の大き目の声をともに、鋭いスマッシュが炸裂する。
「いやー参ったなぁ、まさかJKに負けるなんて」
決着が着くと、相手は参ったなーという感じで頭の裏を掻いている。
その様子を見て、他の2人のメンバーは、JKに負けてダサいだのと、からかったり悠奈が強すぎるだけだのと話していた。
「えへへ、ギリギリだったし、まぐれですよー」
年上から褒められたのが、素直に嬉しかったのか、悠奈は照れているのを隠しきれないでいた。
「真理ちゃん!! 瑠々ちゃん!! 見てくれた? ……えっ?」
2人は自分の試合を見ていたものだと思い、得意気に後ろを振り向いた。
しかし、そこにいたのは、気絶するように倒れている真理と瑠々だった。
「2人とも、運動得意じゃないから……疲れちゃった?」
そういう雰囲気ではないが、他に可能性が思いつかず、恐る恐る2人の元に歩み寄った。
「お友達、疲れちゃったみたいだから、起こしたら悪いよ?
他に誰もいないんだし、俺達と楽しい事しよっ?」
悠奈は1人に後ろから取り押さえられてしまった。
後の2人は、ニヤニヤと嫌らしい表情をしながら自分の元に迫って来る。
(助けて……翔矢君……)
恐怖で叫ぶこともできず、心の中で助けを求めたが、この場に翔矢が来る事はない。
それは悠奈も潜在的には分かっているが、他にできる事もなかった。
***
同時刻、普段は悠奈に黒ネコとして飼われている悪魔族のグミは、人間態で建物の屋根から屋根へとジャンプして、猛ダッシュで悠奈の元へ向かっていた。
「ママさんにモフられてたら出遅れたニャ!!
翔矢から、一応様子見てって頼まれてたのにニャ」
一応、急いではいるが、チャラそうな大学生と遊ぶのが心配という程度の認識。
そこまで危機感は持っていないので不安はそこまでなかった。
それでもグミの中で、何か嫌な予感がしていた。
「あれ? スポーツセンターって何処ニャ?」
だが日ごろは、ただの飼い猫として生活しているグミには、六香穂市以外の土地勘は、皆無なのだった。
***
「暴れるんじゃねぇ!!」
恐怖を感じなが悠奈は必死に暴れ抵抗していた。
いくら運動神経が良くても、年上で運動をしている男に取り押さえられては、簡単に逃げ出す事はできない。
「占い師の女から貰った力で、こいつも眠らせようぜ?」
「あっちの2人を眠らせただけで、かなり疲れたからな。
この嬢ちゃんまで眠らせたら俺が楽しめなくなっちまう……」
メンバーの提案を拒否した後、取り押さえている男は少し考えると何かを閃いた。
「そうだ!! 君の事は返してあげよう」
「え?」
その言葉に悠奈の動きはピタッと止まった。
「その代り、お寝んねしてる2人が、どんな目に会うかは知らないけどね」
「ちなみに、その2人には、まだ何もしてないから安心してね。
俺ら3人、満場一致で君と遊びたいって意見で一致したから。」
そう言いながら、1人が悠奈のスコートをヒラリと捲る。
スコートなので、中は見られてもいいようになっているが、反射的に、その男の顔面に蹴りを入れてしまった。
「いてぇなぁ!!」
「お友達が、どうなってもいいんだねぇ」
3人は悠奈を開放し、真理と瑠々へと狙いを変えた。
「待って……!!」
その姿を見て、咄嗟に呼び止めてしまう。
3人は、こうなる事が分かっていたかのように、ピタリと立ち止まる。
「どうした?」
返事をしたのは、1人だが、3人は同じような嫌らしく醜い表情をしていた。
「真理ちゃんと瑠々ちゃんには……何もしないで……下さい」
「じゃあ、君は、どうするんだ?」
「あなた達の……言う通りにします……」
悠奈の目には悔しさから涙が溢れだしている。
そこには、普段の彼女の明るさは、消えてしまっていた。
「最初から、そう言ってれば、すぐに気持ちよくなれたんだよ!!」
3人の手が、自分に伸びて、あと数瞬で触れそうだが、もう抵抗する気は無くなっていた。
(真理ちゃんは失恋したけど好きな人がいる。
瑠々ちゃんは……まだ小さいから……2人は私が守らなきゃいけないんだ……)
覚悟は決めたが、目は開けられず閉じてしまう。
だが少し時間が経っても、自分の体に何かが振れる感覚は全くなかった。
不思議に思い、片目を少しだけ開けると、3人は、何者かに手刀を喰らったように倒れこんでいた。
「最低な男どもだが、お蔭で我が目覚める事ができた。
聖剣は手元にない……という事は、世界が積むのには間に合ったか。
こいつらの行いは、結果として全ての世界を救うチャンスをくれた訳だ。
力も失ったようだし、魔法に関する記憶を奪うだけで勘弁してやるか」
そう独り言をブツブツ言っていたのは阿部瑠々だった。
瑠々は3人の額に順番に右手を当てる。
すると、彼女の右手に何かが流れこむのが見えた。
「瑠々……ちゃん?」
異様な光景に悠奈は立ち尽くす事しかできない。
「見られてしまったか……
悪いけど、悠菜先輩からも、怖い記憶だけは消させてもらうよ?
その方が、傷にもならないであろう」
瑠々は普段では考えられない動きで悠奈の元により、彼女の額にも右手を当てた。
悠奈の意識は遠のき、そのまま気絶してしまった。
「お前!! 悠ニャに何をしてるぅ!!」
そんな場面で、ようやく到着したグミが瑠々に高速で飛び蹴りを仕掛けたが、瑠々は軽く回避した。
「この世界には悪魔族まで来ているのか……」
「ニャーの不意打ちを交わすとは、お前、この世界の人間じゃニャイな?」
「無意味な対決は避けたい……とりあえず誤解は解かせてもらおうか」
瑠々は右手をグミに向けると、先ほどまでの出来事が、頭に流れ込んでくる。
「なるほど、悠ニャを護ってくれたのニャ、襲い掛かって悪かったのニャ。
って魔法? 天使ですら、この世界で魔法は使えニャいのに……お前何者ニャ?」
「我は勇者アーベル、全ての世界を救うために、この子の体に魂を移した。
だが、今は正体がバレる訳にはいかない、悪魔族は対価で契約できるんだったな。
悠菜先輩を助けた事と、これで、我の正体の口留めと、この場の後始末を頼めないか?」
アーベルを名乗る瑠々は、グミにガチャガチャのカプセルのような物を投げ渡した。
「これは何ニャ?」
「この男どもが悪用した能力が入っていたモノだ。
中身は空だが、珍しい代物だし、対価にはなるだろう?」
「分かったニャ、お前の事は誰にも言わないし、この場はニャーが片づけとくニャ」
「助かる……我も、この世界に長居はできぬよう……だ」
そう言い残し、瑠々も眠るように気絶してしまったのだった。
「魂の雰囲気が変わった? 憑依系の魔法? いや……少し違うニャ」
倒れた瑠々を抱えながら、グミは6人を休憩所まで運び、この場を誤魔化す細工を進めた。
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