120話:真実から家族が始まりそうです()
「いやぁ、噂には聞いておったが、ノーマジカルの料理は格別でごわすな」
「うん、僕は普段空腹は、魔法食で満たしてるけど、こういう食事も悪くない。
というかもっと食べたいな……」
「翔矢っち、料理上手!! ウチは苦手だから羨ましいなぁ」
「ぐぬぬ、翔矢君のお嫁さんに立候補しようと思ったけど、翔矢君をお嫁にもらう方が楽しそう」
翔矢の料理を初めて食べた、ワルパ・グラビ・シフィン、そしてユリアは鍋を食べた感想を口々にする。
「喜んでもらえて嬉しいです、おかわりも沢山あるので遠慮なく言って下さい」
みんなんがバクバクと笑顔で食べてくれるのが嬉しくて、翔矢もどんどんと鍋をよそっている。
「あれ? でも私たちは急に夕飯をご馳走になる事になったよね?
おかわりが沢山あるって、準備良すぎない?」
ユリアは食事を続けながら疑問を口にする。
「最近は俺の料理を食べてくれる人が増えたんで、材料は多めに確保してるんですよね。
冷凍すれば、大抵の食品は、それなりの期間保存できますし」
「ってことは、ペネムエちゃん以外にも、天使の知り合いとかいるの?」
「ペネちゃんの友達のリールって天使と、グミっていう悪魔族がよく来ますね。
あとは……ゼウっていう男の天使と最近知り合いにないましたけど、食事はまだですね」
翔矢は自分の頭を整理するように上を向いて思い出しながら話していく。
そのゼウという名前に3人は反応を示した。
「え!? あのゼウって奴、こっちに来てるの?」
「あんなのが、一緒なんて気が重い……」
「というか、この家に来たでごわすか?」
驚きの余り3人はドンと立ち上がった。
「げほっげほっ」
そしてユリアは、何故か咳き込んでしまった。
「ユリアさん、大丈夫ですか?」
翔矢は、隣に座るユリアの背中をさすった。
「ごめんね、急いで食べすぎちゃったかかな?
わたしって、はしたない……」
この様子にペネムエは違和感を感じたが、話を続けた。
「えっと、ご心配ありがとうございます。
A級天使昇格試験の際は色々ありましたが、ひとまず誤解は解けたと言いますか……
今は仲間と思って良いかと」
その言葉に3人は一応頷きはしたが、ペネムエの身を案じているような表情を見せた。
「まぁ、あいつの右手は雷鬼の手だから、本当に味方なら心強いけどね……
ウチらの中で、魔法が使えないノーマジカルでまともな戦闘が出来るのは、大剣使うワルパのおっさんだけだし」
ペネムエは3人の表情を複雑そうな目で見つめていた。
「えっと、食事中に申し訳ないのですが……
皆様、どうして、わたくしの事など気にかけて下さるのでしょうか?
今日が初対面でしたし、わたくしは天使にとって……」
ここまでペネムエが話した所でシフィンが話に割り込んできた。
「ペネっち!! それ以上はストップ!!
確かにね、ウチだって、気にしてなかったって言ったら嘘になるよ?
だけどさ……A級天使昇格試験のとき、ウチらペネッチの戦いを見てたんだ。
ゼウとの戦いも、アイリーン様との戦いもね」
「わたくしも、皆さんの戦いは見させてもらっていました。
高火力同士の見ごたえのある戦いで、興奮してしまったのを覚えております」
「ありがと!! 最終試験は、多分見てないよね?
あの後は、ウチもA級に昇格したんだ」
「それは、おめでとうございます」
ペネムエは、お祝いの言葉を述べながら、ペコリと頭を下げた。
「ペネっちも、おめでと!!
ちなみに、今回の試験は、アイリーン様が厳しくしすぎて、合格者が少なすぎたみたい。
んで特例として、今は再試験中なの。
ウチのサポートを1か月くらいしてもらって、どっちかA級に昇格させるか選ぶんだってさ。
こんな感じで、色々な世界で再試験やってるみたい」
シフィンは、2人を指差しながら、少し馬鹿にしたように笑っている。
これには、ワルパもグラビも機嫌を損ねたような表情をした。
「シフィン殿に話の進行を任せていたら、料理が覚めてしまうでござる!!」
「あっ鍋の火は付けっぱなんで大丈夫ですよ」
話が気になりながらも、翔矢は鍋を取り分けたり、具を足したりしていた。
「ペネムエ殿!! お主が他の天使に不信感を持つのも無理はないでごわす!!」
「シフィンも言ってた通り、僕らだって最初から君を受け入れるって言うか……
そういう気持ちが、あった訳じゃないからね」
ワルパの言葉にグラビは気まずそうにしながら付け加えた。
「しかし先日の試験、明らかに各上である相手に“帰りを待つ人の為に戦う”と言う想いだけで君は必死に戦い、そして結果を残した。
その姿勢に、ワシは心を打たれたでごわす。
いや、ワシらだけではない、あの戦いで考えを改めた天使は多いはずでごわす」
さらにワルパが説明を続けたのだが、ここで場の空気がおかしくなってしまう。
全員が箸を止め、ペネムエは顔を赤くし下を向き、シフィンとグラビはアチャーと言わんばかりに頭を抱えている。
この空気の変化をワルパも感じたが、理由までは察せなかった。
「ワシ、何か変な事を言ったでごわすか?」
その疑問に答えたのは、事情をほとんど知らないであろうユリアだった。
「えっと、ワルパさん?
たぶん本人……翔矢君の前で、そこまで話すのはマズかったんじゃ?」
そこで、ようやくワルパは自分の犯した失態に気が付き、血の気が引けるような思いをした。
「ペネムエ殿……申し訳ない……」
彼は震えるような声で謝罪したがペネムエは優しく微笑んだ。
「良いのですよ、少し恥ずかしくなっただけですし、翔矢様には、いつか話さなければと思っていましたし……」
だが、その笑顔は少し無理をしているように、翔矢の目には移った。
「えっと、試験の時の話って事は、その帰りを待ってる人って俺の事……かな?」
今までは、鍋の管理に集中していた翔矢も、耐えきれなくなり、ようやく口を挟んだ。
少し、照れ臭かったのか、顔が若干赤くなっているのが、隣に座っているユリアには分かった。
「翔矢様も、少しは感ずいていた所はありますよね?
わたくしが、他の天使を避けているのを……」
「うん、人見知りとかとも違うんだろうなって思ってたけど……」
「それは、わたくしが天使であって天使で無い存在だからです」
食事中だったが、ペネムエの声のトーンに耐えられず、全員が箸を置いてしまった。
「天界が観測できる異世界は常に増え続けていて、世界を調査する天使の数は全く足りていない現状です。
そこで、アイリーン……様という、格の高い天使は、調査をこなせる知能を持つ式神を生み出そうとしたのです。
その過程で……失敗して……式神でなく天使が生まれてしまいました……
それが、わたくしなのです、そして天界にとって魔法で生まれた魂というのは穢れや邪悪でしかないのです。
そんな忌々しい者が天使となった訳ですから……」
ペネムエの声は震えて、ボロボロと泣き出してしまった。
「ペネちゃん、分かったから!! もういいから!!」
その姿が見ていられず、必死でなだめたが、彼女は話を続けた。
「そんなわたくしに……家族と言えるような人は最初から存在しなかった……
でも、翔矢様は、わたくしを家族と言ってくれました。
だから……翔矢様が、そう思って下さる限りは、ここがわたくしの帰る場所なんだって……」
泣きながらも、必死に伝えようとするペネムエの声に、翔矢はハッとした。
彼女が北風エネルギーにさらわれた時、必死に戦う中、確かに彼女の事を家族だと言った。
その言葉は、翔矢にとっても本音なのだが、ペネムエにとってここまでの意味を持つことになるとは思ってもみなかった。
「俺さ、天界の事もだけど、ペネちゃんの事、まだ何も分かってないと思う……
でもさ、これから何があっても、ペネちゃんが帰って来たいって思うなら、いつまでもペネちゃんの家だよ?」
何か言わなければと思いながら、必死に出した言葉だった。
「わたくしは、翔矢様の家族で良いのでしょうか?」
「もちろん!! 俺も妹が出来たみたいで楽しいからね!!」
「いも……」
翔矢の言葉に、ペネムエの涙は、一瞬で引っ込んでしまった。
「俺何か変な事言った?
あっ!! そうか、ペネちゃんの実年齢は俺よりずっと上だから、妹は変なのかな!?」
これに、翔矢以外の全員が笑いをこらえきれなくなっていたが、なぜ笑われているのか彼には理解できなかった。
「なんで笑ってるの?」
「すっすいません、確かに実年齢だと、そうなのですが、天使は精神の成長も遅いので、感覚的に、わたくしにとって翔矢様は年上の男性ですよ?」
「じゃあ、妹って感じでってるのかな?」
「そうですね、“今は”妹でいいですかね」
ここで、話は落ち着き、その後は、全員でおししく鍋を間食した。
だが天道ユリアは、ペネムエの話に、この場の誰とも違う感想を持っていた。
(やっぱり天界は何も変わってないんだ。
私の、やろうとしている事は間違ってない……
“一刻も早く天界は滅ぼさないと”)
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