119話:リビングから鍋が始まりそうです()
ユリアと2人の天使がリビングで待っているという事で、翔矢はペネムエ、シフィンと共に1階へと向かう。
天使と言うのは心配性なのか、人間が弱い存在と思っているのか、自分の家の階段を降りているだけなのに、2人は翔矢に無理しないようにと声を掛けてくる。
別に気を使っている訳でなく、本当に平気だから平気と言っているだけなのだが、翔矢は本当に自分の体が平気なのか不安になって来ていた。
しかし特に何事もなく、リビングまでは来ることができた。
「えっと、お待たせしました」
こういう場合、どのような挨拶をすれば良いのか分からなかったが、翔矢の口から出た一声はそれだった。
「翔矢君、数時間ぶり!! あの後色々と大変だったみたいだね。
まさか、手に入れた能力を、ただの暴力に使う人間がいるなんて……
でも、無事そうでよかった!! シフィンちゃんって、凄腕の医者なのね!!」
翔矢の顔を見るなりユリアは駆け寄りギュッと手を握って来た。
不意を突かれ、翔矢の顔は真っ赤だが、彼女は微笑むだけで気にした様子は見せない。
ペネムエが、凄まじい殺気を向けたのだが、それにも気が付いた様子は無かった。
変な空気が流れているが、とりあえず話を振られたシフィンは恐る恐る口を開いた。
「いや、ウチは診察して簡単な薬を飲ませただけで……
こんな回復するような治療はしてないんだけどなぁ」
シフィンは、参ったという様に頭をボリボリと掻いた。
「翔矢様は前にも、斎賀鈴という北風エネルギーの女性から攻撃を受けた際、治療をする前に怪我は完治していました。
もしかしたら、赤メリに、まだ気が付いていない効果があるのかもしれません」
「まぁ大魔王マモンの力があるのに、中身は機械仕掛けっていう、良くわからない物だし、まだなんかあっても不思議は無いよな」
翔矢はポケットに入れていた、赤メリを取出し眺めた。
その様子を、ユリアは何かを狙うような目で見ていたが、この場にいる誰も、気が付かなかった。
「あの、そろそろ僕たちの事を紹介してくれないと気が重い」
「グラビ、我々の立場を考えれば、もっと待たされても文句は言えぬはずでごわす」
全員が赤メリに注目する中、翔矢と面識のない男の天使2人が、ようやく口を開いた。
翔矢も話しかけるタイミングを逃していたので、2人から話してくれて少し安心した。
「えっと、すいません、俺の名前……はペネちゃんから聞いてるのか。
2人が、家まで運んでくれたんですよね?
ありがとうございました」
2人の天使は、一人はは小柄で、もう一人は大男と対照的だった。
しかし雰囲気から2人とも自分より年上だと察したので、できるだけ丁寧に話す。
最も天使は10年で1歳くらいしか年を取らないらしいので、ペネムエも実年齢では翔矢より上にはなるのだが。
「僕は、グラビ、よろしくね。
見た目で分かると思うけど、君を運んだのはこっちのデカくて重いワルパって天使だよ」
そう言いながらグラビは隣にいる大男のワルパを指さした。
「ライバル同士とはいえトゲのある言い方でごわすな。
ワシはワルパ、まぁ君を運んだと言っても、ユリア様が持っていた不思議な鍵で一瞬で家でしたがな」
「あっそうだ、ユリアさんは仕事中だったんじゃないんですか?
わざわざすいませんでした」
初対面の2人との挨拶を終え、改めてユリアに頭を下げて礼を言った。
「いいのよ、せっかくできた友達のピンチだし。
まぁ、生放送の仕事だったし、ちょうど終わってたんだけどねぇ」
ユリアは、えへへへと自分の後ろ頭を掻いた。
「でも、驚いたでごわす」
「うん、まさか女神アテナ様も推している人気声優の天道ユリア様が天使と人間のハーフだったなんて!!
そして話せるなんて!! サインもらえますか?」
「ずるいでごわす!! おいどんも欲しいでごわす!!」
ワルパとグラビは同時に、どこからともなく色紙を取り出しユリアに頭を下げながら、差し出した。
「ファンサービスは私のモットーだからね」
限界オタのような表情をした2人に対して、ユリアは笑顔でサインをした。
「はい!! どうぞ!!」
「やった!!」
「ありがたき幸せでごわす!!」
年甲斐もなく飛び跳ねながら喜ぶ2人を、ユリアは微笑ましい目で見ていた。
「女神様がユリアさんのファンって何か変な感じですね。
ユリアさんってハーフなのに」
翔矢は自分の感じた違和感を、つい口にしてしまった。
少し悪いことを言葉にしてしまった気がして、ハッとなったが、ワルパとグラビが騒いでいたので、誰にも聞こえていないように思えた。
しかし、そんな彼の耳元にユリアの唇が触れそうなくらい近づいていた。
「天界ってそういう所だから」
「えっ?」
その声に気が付き振り向いた時には、彼女は翔矢の耳元から離れた所にいた。
だが、彼女の発した言葉を、翔矢はハッキリと聞き取っていた。
2人のやり取りは、この場にいる他の者に見られる事は無かった。
なので、ペネムエは3人と話を続けていた。
「聞くタイミングを逃してしまいましたが、シフィン様たちは、能力者の調査をしに、ノーマジカルに来たのでしょうか?」
ペネムエの質問に3人は顔を見合わせた。
数秒後、シフィンが話にくそうな表情をしながら口を開いた。
「えっとね、天界の決定事項で、この世界で魔力を得た人間、ペネっち達は能力者って言ってるの?
その対処は『北風エネルギー』に任せる、だってさ」
「それってどういう意味でしょうか?」
「北風エネルギーは我々のような魔力を持つ生命体を敵視しているでごわす」
「でも、それって僕らを外からの脅威って感じてのはず」
「まぁ、この世界を護ろうとしてる組織に違いは無いって天界の判断かな。
だから、この世界の人間の命までは取らないだろうって」
「そんな中途半端な根拠で、天界は北風エネルギーから目を反らすのですか?
いえ……北風エネルギーと争う必要は無くとも、それが能力者を放置する理由にはなりません!!
今日のように人的な被害もでているのですよ?」
ペネムエは立ち上がり、机をドンと叩いた。
その姿に3人は怯んで少しビクッとした。
「もちろん現場に出くわしたら対処はするけどね。
こっちから見つけ出す真似はしないって事」
「ワシらが人間と戦って、万が一にも相手を死なせてしまったら、そいつを異世界転生しなきゃいけないでごわす」
「この世界の人間は、他の世界では膨大な魔力やスキルを得てデタラメに強くなる。
ちょっとの能力を得て暴れる奴が、そんな力を得たらどんな重い事になると思う?」
ペネムエは、グラビの言葉に何も言い返せなかった。
そのシュンとした様子に、この場は暗くなってしまう。
それを見かねた訳ではないのだが、翔矢とユリアが台所の方から鍋をもってやって来た。
「えっと、話の途中で悪いんですけど、みなさん夕食を食べていきませんか?
助けてもらったお礼もかねて」
そう質問はしたが、すでに夕食は出来てる様子で、誰も断る事は出来なかった。
「翔矢様、いつのまに料理を?」
「下ごしらえしてあったし、ユリアさんが手伝ってくれたから、すぐ出来たんだよね。」
ペネムエの質問に答えながら、鍋をテーブルに置く。
「私も料理には自信があるから、翔矢君の胃袋を掴もうと思ったんだけど、出番無かった……」
全員が鍋にテンションが上がる中、ユリアだけはショボンと落ち込んでいた。
「おいしそう!!」
「熱い日本の夏に涼しい部屋で暑い鍋……温度差が重いけど楽しみ!!」
「冷めないうちに頂くでごわす」
少し暗かった雰囲気は、食事を前にして、明るく変化したのだった。
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