115話:偽物から新たな力が始まりいそうです()
翔矢、ペネムエの前に突如として現れ危機を救ったヒーロー『イセカイザー』
これは渡辺健吾が自身の正体を隠すために変装した姿でヒーローショーの衣装を拝借したものだ。
健吾は、ほぼ完璧な作戦だと思っていた。
実際に翔矢に正体はバレてないようだし、そこは狙い通りだった。
しかし、1つ大きな誤算があった、どれは健吾が北風エネルギーのドクターが開発したビームサーベルと狼男の爪がぶつかり合った時に起こった。
「翔矢様!! 彼は偽物です!! 本物のイセカイザーではありません!!」
「うん本物は役者さんだからね、ガチの怪人とは戦えないと思うよ?」
翔矢の意見は、一応まともなのだが、健吾はこの会話に驚いていた。
ヒーローマスクで見えないが、表情もひきつってしまっている。
(馬鹿な!! 本物だと思わない……だと?)
あまりにもの動揺に健吾は、腹を爪で引き裂かれてしまった。
ヒーローショー用のスーツの耐久は皆無なので、その部分は破けてしまった。
「やっぱり、ガチの戦闘は向かないよな……」
健吾は後ろにピョンと飛び距離を取った。
「ほら!! やはり偽物です!! イセカイザーの強化スーツは、ハラワタエグルドンの斬撃にも耐えたのです!!
あの程度の爪で、破られるなど不自然です!!」
「うん、多分ヒーローショーとかのスーツだと思うよ。
……え? 子供向けの番組にハラワタエグルドンなんて敵出るの?
日曜朝の番組だよね?」
呆れ驚く翔矢の話など聞かず、ペネムエは推理を続けた。
「さらにおかしいのはイセカイザーの武器です!!
あのような武器は、少なくとも本編に登場していません!!
偽イセカイザー!! あなたは何者です!?」
ペネムエは、足が折れているとは思えないくらいの元気で、イセカイザーを指差した。
「いや、詳しすぎだろ……俺、なんで助けたのに怒られてるの?」
偽イセカイザーこと健吾も、さすがに困惑している。
表情は見えないが、その動揺は翔矢にも伝わってきた。
それでも、正体に気づいた訳ではない。
偽イセカイザーも、そう認識していたので、何とかキャラを保ち、立て直そうとする。
「確かに私は、日曜朝に活躍しているヒーローとは別人だ!!
しかし、悪を憎む君たちの味方だ!! そのことを今から証明しよう!!」
偽イセカイザーは、ビームサーベルを鞭のように使い、狼男から翔矢の赤メリを取り返して見せた。
「残念だが私の活動時間は限界のようだ、後は君に任せた!!」
そう言いながら、勢いよく投げられた赤メリを、翔矢はガッシリと受け止めた。
「ちっ油断しちまったが、その小僧は俺の敵じゃねぇ!!」
赤メリを取られたものの、狼男には油断が見えた。
「それはどうかな? ナーフされていた彼の実力も見抜けないとは、頭はワンワンかい?」
「なに?」
狼男は翔矢の方をギロリと睨んだ。
「いや……確かに1回壊れて調子悪かったんで本領発揮じゃなかったっすけど、直さないと解決しないんで……」
狼男の視線に、翔矢は怯んでしまう。
戻ってきた赤メリの弱体化は、ペネムエも見抜いていたが、直し方が分かる訳ではないのだ。
「修復にどれくらいかかる?」
偽イセカイザーが問いかけると、翔矢の周りを銀色のキューブがフワフワと様子を伺うように跳んでいる。
「あれ? 俺が最初に赤メリをもらった時のキューブと似てる、でも色が違うや」
翔矢は、赤メリを初めて手にした時、茶色いキューブから姿が変わった事を思い出していた。
『修復まで約7時間必要です』
銀色のキューブから、電子音とも取れるような人の声が聞こえてきた。
「待ってられないな……なんとかまともに動かせないか?」
偽イセカイザーは、狼男の攻撃を、鞭で食い止めながら銀色のキューブに話しかける。
『登録された魔法“コネクト”を確認、繋がりの領域を拡大する事で、出力を補います』
銀色のキューブから、光の筋が伸び、赤メリへと当たる。
「なんだ?」
銀色に輝く赤メリを翔矢はジッと見つめていた。
やがて光が収まると、赤メリの上部についていた赤い玉の他に2つの玉が増えていた。
1つは青い玉で、もう1つは無色透明だ。
『1つは予備です、必要な時に目覚めるでしょう』
そう言い残し、銀のキューブは偽イセカイザーの元に戻っていった。
「って訳だから!! 私はもう限界だ!! スーツ的な意味で!!
少年!! 後は頼んだぞ!!」
銀のキューブをガッシリ掴んだ偽イセカイザーは、アクロバティックな動きをして、あっという間に、翔矢たちの前から姿を消してしまった。
「何だったんだ? あいつは?」
さっきまでイセカイザーと戦っていた狼男は呆気に取られるが、すぐに翔矢を睨み付け、標的とした。
「いきなり、あんな事言われても、どうやって使うんだ?
とりあえず、いつもみたいに……」
赤メリのデザインが多少変わったのは、何らかの強化がされたという所までは翔矢にも想像できた。
しかし、どう強化されたのか、性能的に何が変わったのかなど、分かるはずは無かった。
そうしている間にも、狼男はどんどんと近づいてくる。
ひとまずいつもと同じように使おうとした瞬間、翔矢の頭の中に何かが流れ込んできた!!
「そういう事か!!」
その瞬間、狼男の爪が翔矢を引き裂こうとした。
ペネムエは動くことも叫ぶこともできずに目を瞑ってしまう。
「なに?」
だが、ペネムエの耳に入って来たのは、爪が何かを引き裂く音でも、人の叫び声でもなく、狼男の困惑する声だった。
恐る恐る目を開けると、その場にいるのは狼男のみで、翔矢の姿が見当たらない。
「あいつ、どこに消え……」
狼男はキョロキョロ周囲を見渡すが、標的の姿は確認できない。
「いえ……これは消えたのではなく……」
だがペネムエは、この現象の正体に気が付いた。
「ここだよ!!」
【コネクト:アクセル】
翔矢の声と赤メリの声が、ほぼ同時に聞こえると、狼男は、すっ飛んで行って壁に激突してしまう。
恐らく気を失っただろうと、翔矢もペネムエも感じていた。
「あと少しで肉の塊にされてたは……もうちょいちゃんと説明してくれよなぁ」
立ち止まった翔矢の体からは青いオーラが発せられ、上空の魔法陣にはユニコーンなどに跨り、地を掛ける戦士のいる世界が映し出されていたのだった。
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