114話:時間切れからヒーローが始まりそうです()
睨み合う翔矢と狼男。
数秒の沈黙の後、先に動いたのは翔矢だった。
赤いオーラを右手だけに集中させ、一撃で勝負を決めに掛かる。
「流石に、こんな場所で長時間は戦っていられないからな!!」
勢いよく拳を振るうが、そこに手にの姿は無かった。
「あれ?」
「おぉ、当たってたら危なかったが、遅すぎるなぁ。
それとも俺が早すぎたかな?」
そう言い終わる前に翔矢の背中は、鋭い爪でザックリと斬られてしまった。
「ぐっ」
「翔矢様!!」
思わず足の怪我も忘れ、立ち上がろうとするが、ペネムエの足に力は入らなかった。
「大丈夫!! ぺネちゃんは休んでて!!」
背中を斬られながらも、翔矢はグルッと後ろを向き、もう一度殴りかかる。
「あれ?」
「何だ? これくらいの力でパワーダウンか?」
一撃が決まるかと思われたが、拳は狼男の左手でガードされ、ダメージは与えられなかったようだった。
「ふん!!」
気合の入った声と共に、翔矢は放り投げられ、壁に激突してしまった。
「翔矢様!! やはり2人がかりで何とか……うっ……」
「無理しなくていいよ、でもおかしいな……背中はそんなに痛くないし力も出るんだけど……」
思ったよりも、余力があるように見えたので、ホッと肩を下したが、ペネムエは目を凝らすと変化に気が付いた。
「翔矢様!! 以前よりも赤メリからの魔力が弱まっております!!
恐らく、北風エネルギーでの戦闘の半分くらいの出力かと」
「え? マジ? なんか空間が割れって、急に俺の手に戻って来たんだけど、直った訳じゃないのかな?」
自分でも赤メリの様子を目視で確認するが、翔矢には違いが分からなかった。
「油断してるんじゃねぇぞ!!」
そうしている間に、翔矢の右腕は、狼男に掴まれてしまった。
「あっ……」
「悪さをしてるのは、こいつか?」
狼男は赤メリを取り上げ、翔矢を、そのまま放り投げてしまう。
「爪が邪魔でうまくハマらねぇ」
赤メリを装着しようとする狼男だが巨大な爪が邪魔して、上手く手にハメる事が出来なかった。
「人間の姿に戻れば、付けれるんじゃないか?」
「なるほど、残念だが、そんなアホな手には乗らねぇぞ?」
「頭はワンワンになってなかったか」
「俺様が、この武器を取り上げても、貴様の体は赤いオーラが出たままだ。
こいつが無くても対して強さは変わらないって事だろ?
人間になった隙をついて一撃ぶち込むって言う作戦でも立ててたか?」
「こりゃ参ったな……図星だ」
お互いに睨み合ったまま、攻撃の隙をうかがう様に間合いを取る。
「まぁ、そこそこの固さはありそうだし、鈍器代わりに殴りつける事は出来そうだ!!」
狼男は、赤メリを爪の先で持ち殴りかかってきた。
「おっと、それ殴りにくくないっすか? 爪の方が強いと思うし返してくれない?」
「敵に武器を返すほど、人が良くないもんでなぁ」
「ですよねぇ……」
赤メリを持ったまま、大振りで襲ってくる攻撃を、なんとか後ろに跳んで回避する翔矢。
「オーラ出てても、さすがに本体が無いのは厳しいよなぁ……」
額にたれる汗を拭い、何とか赤メリを取り返す策を、練りだしているのだった。
*****
人々が逃げ惑うショッピングモール内。
翔矢が戦闘の様子を、渡辺健吾は遠くの陰に隠れて見守っていた。
「ったく、あの程度の相手に苦戦しやがって……」
呆れた様子の健吾の周りを、銀色のキューブがフワフワと飛び回っている。
そのキューブに健吾は語りかけた。
「早く翔矢を助けろって? 俺は、あいつの前じゃエロいけど気の良い先輩で通ってるんだ。
まだ北風エネルギーに協力してる事は明かせない」
健吾はドクターが開発したペンダントをギュッと握る。
そして、またキューブの方を見つめた。
「かと言って、お前を使えば、ドクターに魔力が検知されちまう。
『データが欲しいから君が戦うと自動で記録するように、スマホにアプリを入れといたよ!!』
とか、ふざけた細工をされっちまったからな、まぁ翔矢なら何とか解決するだろ……」
キューブは、健吾の話を聞くように周りを飛び続けている。
「翔矢、修理が半分しか済んでない状態で戻して悪かったが、お前ならまだ上のステージに行けるはずだぜ。
この“大魔王マモン”の力を使ってな」
健吾を腕組みを壁に寄りかかり、余裕の表情で観戦していた。
だが目を凝らしてみるとその余裕は消え去ってしまう。
「おい、あいつマモンキューブ取られてるじゃねぇか!!」
翔矢が武器を奪われていることに気づき動揺したのだ。
「仕方ない……何とか俺が手伝ってやらねぇと。
とりあえず顔とか隠せれば翔矢相手なら誤魔化せるか?」
キョロキョロと自分の顔を隠せるものを探すと、このドタバタで中止になったのだろう。
ヒーローショー用のスーツが地べたに放置されていたのだ。
「おぉ、確か日曜朝に放送してるやつだな!! まぁちょうどいいか?」
そのスーツを手に取り、急いで準備にかかるのだった。
*****
自分の剣道部の先輩に見られているとは想像もしていない翔矢は狼男と戦闘を続けている。
何度も得意の拳を振るうが狼男には余裕の表情で交わされてしまう。
「ひょいひょい避けやがって!! おすわり!! ふせ!! 待て!!」
「お前も、口は減らないみたいだが……もう時間切れらしいなぁ?」
何かを見透かせ目をしてニヤリと笑った瞬間、翔矢の体を纏っていた赤いオーラは完全に消えてしまった。
「あっ……赤メリ返してもらえませんかね」
「いいぜ!! あの世でな!!」
狼男の鋭い爪が翔矢に迫る。
「翔矢様!!」
折れた足でも無理やり立ち上がり必死で翔矢の元に駆け寄ろうとするペネムエ。
しかし、とても間に合うスピードでは無かった。
「え?」
それでも必死で歩みを進めるペネムエの右を赤い閃光が横切った。
その閃光は、狼男の右胸を貫き、見事に動きを止めたのだ。
「なんだ? 今の」
「てめぇ!! 誰だ!!」
翔矢と狼男は、同時に閃光の放たれた方に視線を向けると、赤いヒーローの姿をした人物が立っていた。
「俺は……異世界のパワー!! イセカイザー!!」
イセカイザーと名乗った男はポーズを決めて名乗り始めた。
(このまえ、たまたまテレビで見たが、こんなセリフだったか?)
ヒーローの中の健吾はそんなことを考えながらも、翔矢に正体がバレないか不安を感じていた。
「何あれ?」
しかし、翔矢は呆れたような顔をするだけで、正体など気にしてすらいなかった。
だが、この場で1人だけ目を輝かせている者がいた。
「あなたは!! ウルトラレンジャー50作品記念作品『転生戦隊イセカイジャー』のリーダー!!
イセカイザー様!! 実在したのですね!!」
「はい?」
「ぺネちゃん……見てたの?」
ペネムエの反応にイセカイザー本人と翔矢は目を丸くし驚く。
「ポリキュアの後にやっておりますので!!
ちなみにオメンドライバーも視聴してますよ!!」
この状況で場は少し和んでいたが、狼男の苛立ちは、当然頂点に達していた。」
「ふざけてるんじゃねぇぞ!!」
鋭い爪で襲い掛かる狼男の攻撃をイセカイザーは赤いビームサーベルのような武器で止めた。
「ここは一端、引き受けさせてもらうかな?」
(あれ? あの武器は……?)
その様子にペネムエは何かに気が付き冷静な表情を取り戻していたのだった。
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