109話:恋人のフリから水着の好みが始まりそうです()
電車に1時間ほど揺られた後、翔矢とペネムエは、駅から駅ビルへと移動した。
ペネムエも、一応出歩いているが、初めて入る大きめの建物の中を、物珍しそうにキョロキョロ見渡している。
「魔法による支えも無しに、これほどまで大きく高い建物を建築するとは、相当な腕の職人さんが手掛けたに違いありません」
「あはは、確かに県内だと一番大きい建物だけど、田舎県のトップだからね。
東京のビルと比べれば赤ちゃんみたいな物だと思うよ。
実は、行ったことないから、俺も知らんけど」
「それは、ぜひ見てみたいです!!」
「2学期になれば、修学旅行あるけど、行き先って確か東京だったかな?」
そんな事を話しながら、エレベーターを昇っていくと、ペネムエの目的である水着売り場に到着した。
店の入り口前で翔矢はピタリと立ち止まる。
「ごめん、やっぱり俺入るの無理だわ」
「雰囲気がオシャレですね……わたくしも入りにくいです」
店の中は、女性物が多い、と言うより専門店に見える。
最近、ビルが改装されたとニュースでやっていたので、珍しい店でも入ったのかもしれない。
中に男性の姿も、少しは見えるがカップル同士で来たという感じがする。
「いつまでも、店の前には居られません。
と、とりあえず翔矢様の好みを教えて下さい、参考にさせて頂きます!!」
「えっ? 俺の好みなんて参考になるかな?」
「なります!! えっと……翔矢様に可愛いと思って頂かなければ意味がありませんし……」
「ん? 最後なんて言ったの?」
「いえ……何でもありません……」
翔矢が、ペネムエの決死のアプローチを聞き逃したタイミングで、2人を見かねたのか、店から店員が出てきた。
「いらっしゃいませーーー!! 何かお探しでしょうかーーー?」
(しまった、こういう店には奴らがいるんだった……)
「えっと……水着を買いたいのですが、あまりにオシャレな雰囲気に怖気づいておりました……」
こういう店員が苦手な翔矢は、すぐにでも立ち去りたくなったが、知識のないペネムエは優しい店員さんと思い素直に答えた。
「そうでしたかー、仲のいい……」
しかし、その店員は、ペネムエと翔矢の2人を見て固まってしまう。
(仲のいい……兄妹? には見えないわね、友達? にしては年が離れている気も……
落ち着くのよ!! カリスマ店員歴10年の私!! 間違えれば一生の恥!!
冷静に考えて、水着を一緒に選んでいるのだから……)
「仲のいいカップルで羨ましいですね!! 国の違いが感じられません!!」
自称カリスマ店員は、2人の関係をカップルと判断した。
「カ……カップルなんて恐れ多……」
「そうなんですよ、彼女のを選ぼうとしたら、種類も多くて入る前から迷ってたんです」
「え?」
翔矢の対応に驚いているペネムエの頭の中に、彼が心の声が聞こえてきた。
(ペネちゃん、嫌かもしれないけど、否定しても面倒くさくなるだけだから、悪いけど話を合わせて)
(はっはいい!!)
その案に、通信用魔法石を使い、この上なくハッキリとした返事で答えてみせる。
(嫌だなんて、とんでもない!!
むしろ永遠に恋人のフリをしていたい!!)
という心の声は、決して翔矢に届くことの無いように注意をした。
「わたくし、日本の流行など分かりませんので、翔矢さ……彼氏の好みを、そのまま採用したいと思っています!!」
「それは素敵ですね!! では彼氏様は、どのようなデザインが、お好みで?」
2人が熱い視線を翔矢に向ける。
「えぇ……急に言われても……」
この状況には、さすがに困り果てた翔矢だが、何とか自分のゼロに等しいファッション知識を総導入する。
「あぁ、フリフリしたスカート的なの付いてるのは可愛いと思います。
上の方は露出が多すぎない方がいいかな、ヘソの少し上くらいまで生地があるやつ。
色はペネちゃんならやっぱ白……だと、ありきたりか……ピンク!! 」
何とか絞り出した好みを言い切り達成感に包まれたまま、2人反応を確認すると、店員さんは引いたような表情をしていた。
(しまった……具体的に言い過ぎた……
きっとペネちゃんも、ドン引きして……)
恐る恐る、ペネムエの方に目を向けると、彼女は真剣にメモを取っていた。
(えっ? なんでメモ?
あっそっか、この世界の文化を調べるのも仕事だもんね。
今のは流行とかじゃなくて、完全に俺の思い付きの好みだって後で伝えておかないと……)
ペネムエが熱心にメモを取っている理由は、今の翔矢には伝わらなかった。
「そっそれでは、探してまいりますねぇ」
店員は、ペネムエの手を引っ張り、店の奥の方へと向かっていった。
(店員様、グッジョブでございます。
感謝してもしきれませんが、A級天使の権限で与えうる限りの幸福をお約束しましょう!!)
「時間かかるかな? せっかくだし俺も新しいの買うか」
隣の店を見ると男性用も扱っていたので、そこを覗いてみることにした。
***
店に入って数分、いまだに候補すら絞り込めずにいる翔矢。
「うーん、特にこだわりとか無いんだけど、種類が多いと迷うな」
オシャレな店に来ることが少ないので、その品数だけでも迷う原因となっていた。
「ペネちゃんもまだ決まってないかな?
まぁ通信用の魔法石とかあるし、あれなら連絡来るか」
一瞬だけペネムエのいる店を確認して、すぐに自分の買い物に戻る。
「うーん、迷ってたら迷ってたでカリスマ店員って来ないもんだな」
こういう時は、店員に来て欲しい気もしたのだが、店の方針なのか、他の客にも店員が声を掛けている様子は無かった。
「じゃあ、この列、この列から選びますよ、この列から」
誰に言っている訳でもないが、このままでは永久に決まらない気がしたので、そう決心して再び選び出す。
「やっぱ決まらん……いっそペネちゃんに決めてもらうか?」
個人的な最終手段に出ようとしていた翔矢の後ろから誰かが近づき後ろから声を掛けてきた。
「君になら、これが似合うんじゃない?」
「あぁ、確かに格好いいですね、これに決めちゃいます」
声を掛けてきた女性の余りにもの自然な話し方に、ついつい普通に話を返してしまった。
「えっ、誰?」
その女性は、金髪の20代前半くらいで、とてつもなく美人だった。
***
「ありがとうございましたー」
ちょうど、そのころ買い物を終えたペネムエは店を出ていた。
「思ったより時間がかかってしまいました。
せっかく翔矢様が、ピンポイントに候補を絞って下さったのに、10種類以上も当てはまる商品があるとは……
しかし、これはバッチリ翔矢様の好みなはず……
これでメロメロに……は贅沢でも、ちょっと赤くなってくれたら嬉しいです」
そう言いながら、ペネムエは自分の体を真っ赤にしていた。
「って、翔矢様の姿が見当たらな……えっ?」
少しキョロキョロ見渡し、翔矢は見つかったのだが、ペネムエはその姿に言葉を失ってしまう。
「だだだ誰ですか? どなたですか? あの美人さん!?」
店から少し離れた場所にあるベンチで、翔矢は金髪の美女と話し込んでいたのだ。
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