105話:侵入者からキスが始まりそうです()
時は少し遡り、翔矢は戦いの汚れを落とすため風呂場に向かっていた。
脱字所で服を脱ぎ、いつものように浴場の扉を開ける。
「ん?」
風呂は予め沸かしておいたのだが、それにしても湯気が多く違和感を覚える。
だが、一軒家の平均的な広さの風呂場では、すぐに状況が理解できる。
浴槽に誰かがいるのだ。
「あっお先にお風呂頂いてます」
「あっ、確認しなくてごめ……いや、誰!?」
声の主は、自分と同じ年頃の女性だった。
「初めまして、いえ先ほど会ってるんですけどね、双葉サヤって言います」
湯船でリラックスしたまま、占い師は、そう名乗った。
「あぁ!! さっきの占い師!!」
「正解です!! 覚えて頂けてて光栄です。
しかし会って間もない異性と裸で会話というのは、どうかと思いますよ?」
「状況が飲み込めな過ぎて、お約束の反応まで順番が回って来なかったんだよ!!
ごめんなさい!! 不法侵入されたのは俺だけど!!」
サヤの指摘にハッとした翔矢は、すごい勢いで風呂場から出て行った。
「やれやれぇ、お姉ちゃん程じゃないですけど私も体には自信あるので、あの反応は寂しいですね。
鼻血出して気絶くらいして欲しかったです」
翔矢が出た後も、サヤはゆっくり湯船でリラックスしている。
しかし再び、風呂場の扉が勢いよく開けられる。
「さっきの、お礼もありますし、一緒に入りますか?
実は、あなたに一目惚れしてしまって、そのつもりで、ここに忍び込んだんですけどねぇ」
サヤは、かなりリラックスしていて目を瞑っており、風呂場に入って来たのがペネムエだという事に気が付いていない。
「それは、わたくしに対する宣戦布告と受け取っていいのですね?」
「ふぇっ?」
ここで、サヤは目を開けたのだが、同時に湯船に浸かっているにも関わらず、全身に凍えるような寒さを感じる。
「ちょ、寒い!! 冷たい!! 死ぬ!!」
サヤはジタバタと足掻こうとするが、湯船のお湯が一瞬のうちに氷の塊に変わってしまい身動きが取れない。
「ちょっと、ダーリン!! 外にいるんでしょ? 銀色がイジメるよぉ!! 助けて!!」
「えっと……ペネちゃん、話が聞ける程度でほどほどでね……」
サヤの訴えにに、翔矢は浴場の外から扉越しに答えた。
「失礼、つい私怨がは入ってしまいました」
ペネムエは、翔矢のいう事は素直に聞き、両手で握っているブリューナクに念を送って、氷の温度を上げた。
「ふぅ、動けないのは相変わらずですが少し楽になりました」
「翔矢様のご慈悲に感謝するのですね」
ペネムエは得行かないのかツンとした表情をしている。
「寒いので、私に用があるなら早くしてもらえますか?」
「侵入して来たのはあなたですけどね……
こちらの質問に素直に答えて下されば、今日は解放してあげます。
あなたは……天使ですよね?」
「イエス!! まぁ天界にはいた事がないですけどね、この世界で生まれた天使なので、魔力はゼロに近いんですが、よく分かりましたね!!」
「やはり……確証はありませんでしたが、オーディン様との修行で取得した魔力を視覚で捕らえる力が生かせたようです」
「じゃあ帰ってよろしい?」
「まだです、あなたがこの世界の人間に魔力を与えているのは分かっています。
そして、ここから遠く離れた東京という所で、魔法を使った殺人事件が起こりました……
これも、あなたの仕業ですね?」
ペネムエは険しい眼差しでサヤを睨み付ける。
「怖い顔しないで下さい、スマイル!! スマイル!!」
「はぐらかさないで下さい!!」
「冷たい!! 冷たい!! ギブギブ!!」
サヤの態度にペネムエは、再びブリューナクに念を込め、氷の塊の温度を下げた。
「確かに力を与えたのは私です!!
東京の件はですね、ガラの悪い連中からイジメを受けていたので慌てて能力を与えたんです!!」
「能力? 何か道具を与えたのでは?」
「まぁ、実体のない道具を与えたようなものですかねぇ。
あの、冷たいの止めてもらいます?」
「その態度……あなたが与えた力で何人も亡くなったのですよ?
なぜ、そんなに明るくしていられるんですか!?
しかも、その事件を知っていながら、この地でも力を配ろうとしていたんですよね?」
「いやいや、この世界以外では魔法なんて使えて当たり前なんですから、それを使えるようにして何が悪いんですか?
それとも、あなたはナイフで殺人事件が発生したら、ナイフを作る工場を潰そうとするタイプの方ですか?」
ペネムエの問いかけにも、彼女は悪びれる様子はなく、寒がりながらもニコニコしている。
「少なくとも、事件を起こす危険がありそうな人物は購入しにくくするべきと思いますがね」
「私は暴力が苦手な人に、少し対抗する手段を与えただけだからねぇ」
サヤが、その一言を言った瞬間モクモクと湯気が濃くなり、ペネムエの視界は完全に遮られれしまった。
「えっ?」
視界は数秒で回復で回復したが、そのときには、サヤは浴槽から消えていた。
「油断しました……まさかブリューナクの氷から脱出するとは……」
逃げられたと思ったペネムエは、追跡は諦め、その場でただ立ち尽くした。
「うわぁっ」
だが、取りつく島もなく脱衣所で翔矢の叫び声が聞こえてきた。
「しまった!!」
ペネムエは、翔矢のこんな声を聞いたことが無く、嫌な予感がして、すぐに駆け付けた。
「翔矢様!! ご無事で……」
目の前には、彼女にとって全く予想外の、ある意味では最悪の光景が広がっていた。
「私は受けた恩は返す主義なので、助けて頂いたお礼は、これということで!!」
全裸のままのサヤが、下着だけを身に着けただけの翔矢に抱き着き、口づけをしていたのだ。
「あらあら、意外に可愛い反応するんですね、ダーリンくらいのイケメンなら慣れてると思ったのですが」
サヤはペネムエには目もくれず、全身の力が抜け座り込んでしまった翔矢に声を掛ける。
「……本当に、何がしたいんだよ!!」
「今日は本当にお礼に来ただけなのですが、そういう意味の質問じゃないですよね?
ダーリンの知りたい事なら、何でも教えてあげたいですが、今日会ったばかりですし、女は1つや2つ謎があった方が美人度が増しますからねぇ」
「あんた謎しかないけどな」
「ははは、やっぱり、このような状況では、私の気持ちも信じてもらえそうにないですね。
今日は、大人しくこれで引き上げるとしますか」
サヤはワザとらしく、はぁっとため息をついた。
「待ちなさい!! まだ話は終わってません!! えっと、先ほど思い付いた新技!!」
ペネムエは、ブリューナクから巨大な氷の右手を生み出し、サヤをガシッと捕まえた。
「魔法使えない世界で、こんな自由度の高い技を使われると厄介ですね」
「天界での修業は、ノーマジカルでも生かせるようですね」
「まぁ私には及ばないですけどね」
サヤがニコリと笑みを浮かべると、彼女の体は無数の鳩に変わり、バサバサと飛び立ってしまった。
「逃がしてしまいましたか、次会ったら、タダでは済ませません!!
っと、私怨に囚われてはいけませんね、ひとまずは彼女を追うと宣言したゼウ様に連絡を……翔矢様?」
今後の事を思案していたペネムエだったか、翔矢の方に視線を向けると様子がおかしいことに気が付く。
明らかにボーっとした表情をしている。
そのまま翔矢は、グッタリと倒れてしまった。
「えっ? あの女に何かされて……ん?」
よく見ると、気絶した彼の鼻からは血が垂れていた。
その意味はペネムエはすぐに察した。
「翔矢さまぁぁぁぁ!! 起きてくださぃぃぃぃ!!
あんな正体不明女に誘惑されないで下さいぃぃぃ!!
お気を確かにぃぃぃぃ!!」
ペネムエは悲しんでいるような怒っているような表情で翔矢が起きるまで、体を揺らし続けたのだった。
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