102話:回り道からローブの男が始まりそうです()
悠菜・瑠々との話が丸く収まった後、翔矢は1人店を後にして通信用の魔法石でグミと連絡を取っていた。
「って訳だから、暇だったら様子だけでも見てくれるか?」
「了解ニャ!! チャラチャラ男に悠ニャは渡さニャイ」
「おっ……おぅ、頼んだ」
ここで翔矢はグミとの通信を終えた。
「これで一応、安心か、いや……相手の男の方が心配だけど……」
店を出た後で、悠菜達とテニスをするというサークルが、女子3人を指定したという部分が気になって、念の為グミに連絡を取ったのだ。
「さて、ペネちゃんは起きたかな? 帰ったら昼飯作らないと……
暑いし、ざるそば……いやそばは、この前作ったばかりだな」
心配事が1つ無くなった翔矢は、いつものように献立を悩みながら家に向かっていた。
ここまでであれば、いつもの日常なのだが、この日、翔矢の視線に入った光景はいつもと違ったのだ。
「ん? 何だあれ?」
数メートル先に、ボロボロのローブを巻いた怪しげな男が見えたのだ。
「……関わりたくない、参ったな……」
家に帰るには、あの怪しい服装の男の横を通らなければいけない。
しかし、真夏にあんな恰好をしている男の近くを通るのに本能的に危険を感じたのだ。
「回り道してコンビニにでも……」
そんな事を考えたのだが、翔矢には放っておく事が出来ない事態が目に入った。
その男が、通りかかった女性の胸ぐらを掴みだしたのだ。
今日は、何故だかやたらと人通りが少なく、男を止める者はいない。
「いや、マジでヤバい奴だったのかよ!!」
自分が止めるしかないと思い翔矢は駆け寄った。
近づくにつれ、さらなる異変に気が付いた。
女性を殴ろうとする男の右手は、鬼のような手で、電撃がバリバリと流れている。
「あれって……」
翔矢の脳裏に浮かんだのは、東京で発生した魔法を使ったと思われる殺人事件の事だった。
「やるしかねぇか!!」
今はペネムエはいない、自分が力を使い止めるしかない。
ポケットに常に入れている赤メリを取り出し、右手に装着した。
その右手を左の手の平に当てる事で、上空に赤い魔方陣が展開される。
魔方陣の中には、中世ヨーロッパ風の街並みが浮かんで見える。
【コネクト:ファイター】
赤メリから流れる音声と同時に、魔方陣が上空から下がり、翔矢の体を包み赤いオーラを纏わせる。
「やめろぉぉぉ!!」
「ん?」
叫びながら自分に向かってくる翔矢の姿を見ると、ローブの男は、女性から手を放し翔矢に鬼のような右手を向けた。
「普通の人間? 分からないが、向かってくるなら仕方ない」
ローブの男は、いたって冷静で、そのまま翔矢に向かって電撃を放った。
「うわっ、あぶねぇ」
何とか左に飛び回避し、急いで女性の前に庇うように立った。
「ケガはない? 逃げれる?」
「はっはい!!」
女性はコクコクと頷くと、走り去っていった。
「占い師? 変わった格好の子だったな」
とりあえず女性を逃がせた事には安心したが、ローブの男に気を取られていたので、彼女の格好も中々奇抜だった事に気が付かなかった。
「邪魔をしてくれたな!!」
「うわっ」
しかし、安心してる暇は無かった。
ローブの男は、次々に電撃を放ってきた。
それでも、翔矢は何とか、その攻撃を全て回避できていた。
「事情は知らないけど、その手、ただの人間じゃないだろ!?」
「確かに俺は人間じゃないが……お前のそれはどういう原理だ?」
翔矢の力を理解できないのか、男は首を傾げる。
「分からない事だらけなのはお互い様みたいだけど、人が来るとマズいから、この場は終わりにさせてもらうよ!!」
翔矢は全身を覆う赤いオーラを、右手に集中させる。
「うぉぉぉぉぉ」
雄たけびを上げ、全力の拳をローブの男に振るった。
「くっ」
しかし、その拳はローブの男の右腕に掴まれてしまう。
「ファイターの魔法を発動できるのか……
なかなか面白い武器だが、これで終わりだ!!」
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
ローブの男の右腕から凄まじい電撃が流れ、翔矢を襲う。
「悪いが貴様が気絶するまで、この手を放すつもりはない
だが、あの女も逃がす訳には行かない、早めに終わらせてもらうぞ」
電撃の強さは、どんどん増していく。
翔矢は、手を振りほどこうとするが、単に力だけでなく磁石のように手がくっついているような感覚だった。
「放すつもりはないか……そりゃ助かるぜ!!」
「なっ?」
翔矢は右腕を掴まれたまま、左手に赤いオーラを集中させ、ローブの男の頬を思いっきり殴った。
これには、ローブの男もたまらず翔矢の手を放し、後ろへ吹き飛んでしまった。
「はぁ……はぁ……あれ以上食らってたら危なかったな……」
何とか倒れずに、この場に立っている翔矢も、電撃を受け続けたので、肉体は限界だった。
「帰ったらペネちゃんにポーションとか分けてもらわないと……」
あの一撃でローブの男を倒せたと確信した翔矢は安心して、そんな事を考えていた。
「驚いた……この世界の人間が雷鬼の電撃に耐え、反撃してくるとは」
「マジかよ……」
しかし、ローブの男は立ち上がってしまったのだ。
それでも、翔矢にもまだ体力は残っている、再び臨戦態勢に入ろうとした、その時だった。
「えっ?」
赤メリが急にバチバチと音を立て、白い煙を上げ出したのだ。
「……なんだ?」
ローブの男も、この様子をジッと眺めていた、数秒後だった。
「うわっ!!」
赤メリは、軽い爆発を起こし、翔矢の手から離れ落ちてしまったのだ。
体を覆っていたオーラも、同時に消えてしまっている。
「えっ? こっ壊れた?」
「ここまでのようだな」
これ以上、翔矢との戦闘は不可能と判断したのか、ローブの男は立ち去ろうとした。
その時、上の方から、すごい速度で何かが降りてきた。
「翔矢様、何事ですか?」
やって来たのは、ペネムエだった。
「ペネちゃん!! 助かった!! 能力者が人を襲ってて!!」
早口ながらも、翔矢はローブの男を指さし、ペネムエはその方向を見ながらブリューナクを構える。
しかし、ローブの男を見るなりペネムエから、彼に対する敵意は消えていた。
「あなたは……ゼウ様?」
「ペネムエ……なるほど、そういう事だったか」
「えっ? 知り合い?」
ペネムエの顔を見て、男も何かを察したかのようだった。
だが翔矢だけは、頭の上に大量のハテナマークが浮かんでいるような表情をするしかないのだった。
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