98話:夏休み前から課題が始まりそうです()
「っしゃぁ!! 乗り切った!!」
期末テストの最終日、全てを終えた翔矢は、家に帰ると両手を挙げて、開放感に浸っていた。
「翔矢様、お疲れ様でした」
その姿を微笑ましそうに、見守りながらペネムエは両手を小さくパチパチと叩いて称えている。
「ありがとう!! これで明日の終業式が終われば夏休みだ!!」
「夏休み?」
その言葉を知らなかったのか、ペネムエは首を横に傾げた。
「簡単に言うと、学校が長い間、休みに入るって事だよ」
「なるほど!! つまり……ずっと一緒にいられるのですね!!」
ペネムエは目をキラキラ輝かせながら、翔矢にグイグイと顔を近づけた。
「まぁ……そうなるかな?」
基本的に行動を共にしているので、夏休みだからと言って、そこまで特別な感じはしていなかった翔矢はペネムエの反応の意味は分からなかった。
だが、ついこの前、天界に戻った時に、時間の流れの関係で、彼女が1か月くらい向こうにいた事は聞いていた。
ペネムエにとって、天界が、居心地のいい場所でないのは、感じ取っていたので、単に孤独じゃないのが嬉しいのだろうと翔矢は解釈した。
「あっ!! 昔本で読んだのを思い出しました夏休み!!
確か……自由研究に読書感想文、アサガオの観察など、宿題が多かったのでは?」
ペネムエは、今度は翔矢を心配するような目で見つめて来た。
「俺は小学生か……高校も宿題は出てるけど、そういう気が重くなる宿題は無いかな。
問題集はドッサリだけどね……」
そう言いながら、カバンに入れっぱなしにしていた問題集を机の上にドンと出して見せた。
「この量を1か月無い程度の休みで終わらせねば、いけないのですか……」
ペネムエはギョッと驚いた様子だったが、その姿は翔矢は意外に思った。
「ペネちゃん、頭いいから、これくらいの宿題なら余裕のよっちゃんかと思ったよ」
「よっちゃん? 天界学校の宿題は1つの大きな課題に、じっくり取り組むタイプだったので、このように大量の問題を解くというのは、あまり経験しないのですよ」
「なるほでねぇ」
翔矢は、天界学校の宿題を、大学の卒業論文のようなものだとイメージを持った。
「なにはともあれ、わたくしも夏休み楽しみでございます」
ペネムエが心を躍らせているのが、翔矢にもわかった。
しかし、これには少しばかりプレッシャーを感じた。
「楽しみかぁ……何して遊ぶかな……海とか?」
田舎町で出来る、夏休みらしい事といえば、最初に思い浮かんだのがこれだった。
というよりも、他のアイディアが、すぐには出て来なかった。
「う……海ですか?」
ペネムエは、顔を真っ赤に染めた。
その表情を見て、翔矢はしまったと思った。
「あっ……別に変な意味じゃないよ!! この辺で、すぐに思い付くのが海しかなかったってだけだから!!」
翔矢は慌てて弁明した、いやらしい気持ちが無かったのは本当なのだが、なんだか悪い事をした気分になってしまっている。
「あっいえ……構いませんよ!! ノーマジカルの海でも遊んでみたいです!!」
そう言った、ペネムエの声は、なんだか取り繕っているようなようすだ。
だが、その心の内は翔矢の想像している物とはかなり違っている。
(そうですよね……わたくしの水着姿なんて見たい訳ないですよね……)
ペネムエは自分が期待してしまっていた事を、恥ずかしく思っていたのだ。
(これは、誘った方がいいのか、止めるべきか……
リールが戻ってきたら相談してみるか、行くにしてもリールがいた方が、ペネちゃんも喜ぶだろうしな)
(海デートできるかもなんて……思いましたが、わたくしが、そんな贅沢をしたら罰が当たってしまいますよね……)
2人の気持ちは、こういう部分では、常にすれ違うのだった……
*****
その翌日、学校に向かうため、翔矢が家を出ようとした、その時だった。
「うわっ!!」
玄関の扉を開けた瞬間、バサバサという羽音と共に、白い物体が家に入って来た。
翔矢は驚き、倒れるまでは行かないまでも、バランスを崩してしまった。
「なんだ? フクロウ?」
その白い生物は玄関をグルグルと飛んでいる、よく見ると、その姿はフクロウのように見えた。
「おっと……これは……ワタリドリですね」
そのフクロウは居間の方からヒョッコリと出てきたペネムエに向かって来た。
ペネムエは、ワタリドリと呼ぶフクロウの足に巻き付いていた、紙を解き手に取った。
「確かに受け取りました!!」
ペネムエの一言を聞くとワタリドリは、まだ開けっ放しになっていた玄関から飛び立って言った。
「今のは?」
「ワタリドリです、世界と世界を渡れる伝書鳩みたいな物ですね。
ゲートが少ししか開いていなくても世界を移動できるので、天界では運搬に使われています」
「へぇ……名前はワタリドリ、見た目はフクロウ、役割は伝書鳩ってややこしいなぁ……」
翔矢の、そんな心の声が漏れている間に、ペネムエは、紙を広げていた。
すると数枚しか無いように見えていた紙が、どっさりと広がり廊下と玄関を埋め尽くしてしまった。
これには、翔矢だけでなくペネムエもオヨオヨとパニック状態になってしまう。
「もっ申し訳ありません!! 帰宅されるまでには片付けておきますので」
ペネムエはアタフタと必死に紙を拾い集めた。
「うっうん、俺はもう行かなきゃだから手伝えないけど、これなんなの?」
散らばった紙は当然翔矢の視界にも入っているが、そこに描かれている文字は全く読むことができない。
ローマ字に似ているような文字から、漢字に近そうな文字など、紙によって異なる言語で書かれているように見える。
「さぁ……わたくしも、聞いていませんでしたので……」
ペネムエは翔矢に聞かれたので、紙の1枚を手に取ろと、顔が青ざめてきた。
「ペネちゃん?」
何か悪い知らせでもあったのかと、翔矢は不安になった。
「А級に昇格して……目を通さなければならない書類が増えたようです……
もっ元々、ノーマジカルにA級の天使が少ないので、翔矢様への護衛の仕事が凍結中のわたくしに回ってきなのですね……
じっ事務仕事なのでこなして見せます!! 見せますとも!!」
しかし彼女の目は、明らかに死んだ魚のような目をしていたのだった……
「おっ俺は学校行ってくるからー」
特に悪い事はしていないのだが、翔矢は逃げるように学校に向かうのだった。
「いっ……行ってらっしゃいませー……」
翔矢の出発したのを確認して、しばらく経つと、ペネムエは少し本音が出てしまう。
「翔矢様と一緒の夏を過ごせると思いましたのにぃ!!」
その叫びは町内中に響き渡りそうな勢いであった……
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