96話:テスト直後から知らせが始まりそうです
「よっしゃー!! 乗り切ったぜ!!」
今日のテストを、自己評価で無事に終えた翔矢は、廊下で万歳をしながら、少し大きな声を出した。
テスト初日とはいえ、気が緩んで騒いでいる生徒は大勢いるので、そこまで目立つ事は無かった。
「翔矢様、お疲れさまでした!!」
周りが賑やかだったので、ペネムエも、つい通信用魔法石を使わずに、翔矢に声を掛けてしまった。
「ありがとう、いやぁ今日だと思ってた歴史のテストが明日で、最終日だと思ってた英語が今日だと知った時は、頭が真っ白になったけど、今回は一夜漬けの勉強じゃなかったから、そこまで悲惨な点数は取ってないと思う」
「それは危ない所でしたね……」
テストの日程を間違うなど、普通は有り得ないようなミスだが、ペネムエは呆れたりするような様子は無かった。
ペネムエは天界学校で、テスト対策を全くせずに、常に満点だったので、テストの日程など気にした事が無かったのだ。
「それにしても、翔矢様ほど聡明な方が、そのようなミスを……
まさか!! 北風エネルギーの陰謀では!?」
翔矢の事を、崇拝と言っても良いほど慕ってしまっているペネムエは、いたって真面目に発言している。
普通であれば、翔矢も『そんな訳ないだろー』などと返すべき場面だが今日の翔矢は、とことん抜けてしまっていた。
「そうか、北風エネルギーめ!! こんな手の込んだ作戦を!!」
あろう事かペネムエの発言を、可能性の1つとして、本気で考え出したのだ。
「北風エネルギーがどうしたって?」
そんな会話をしていた、翔矢に後ろから誰かが話しかけてきた。
会話といっても、ペネムエの姿は翔矢以外には見えず、声も聞こえないので、周りから見たら謎の独り言だろう。
ハッと恥ずかしくなった翔矢が振り返ると、話しかけてきたのは、剣道部の先輩である渡辺健吾だった。
「健吾先輩? どうしたんすか?」
この廊下は3年生の教室のある範囲からは外れている。
翔矢は、不思議に感じていた。
「いやぁ、お前といい、瑠々といい、剣道部は赤点取りそうな奴が、多いからな。
ちょっと様子を見に来たんだ、赤点なんて取ったら、夏休みは補習だし、部活も再テストまで禁止だからな。
部長としては、ほっておけない訳よ」
健吾は、仕方ねぇなというような表情を浮かべているが、翔矢は納得がいかないようだ。
「失礼な!! 瑠々と一緒にしないでくださいよ!! 俺は赤点は取りそうになった事はありますが、取ったことはないですよ!!」
決して誇れるような話ではないのだが、翔矢はまるで学年上位に入っているかのようなテンションだ。
「まぁ、それだけ自信があるなら大丈夫か」
健吾は安心したような笑顔を見せると、制服上着のポケットからスマホを取り出した。
「そういや、ネットで面白い記事を見つけたんだ」
「なんすか?」
健吾がスッと向けたスマホの画面を、翔矢は前かがみになってジッと見た。
翔矢の動きに釣られたのか、ペネムエも全く同じ格好で、健吾のスマホを眺めた。
その画面は、東京で少年グループのメンバーの1人が、変死体で発見されたという、ネットニュースの記事だった。
「てっきり、エロ画像でも見せられるかと思いました……
このニュースが、どうかしたんですか?」
全く想像していなかった画面に、翔矢は拍子抜けしてしまった。
「俺を何だと思ってるんだよ……
普通の報道だと、たいした情報は出てないが、この事件をツブヤイッターで検索すると、現場の写真が出て来る」
健吾が数秒スマホを操作すると、路地裏らしい所で、周りの建物など、あちこちに無数の真円の穴が開いていた。
「うわぁ……どうなってるんすか? これ?」
非現実的な光景に、翔矢はそれしか言葉が出てこなかった。
「ん? 普通の反応だな」
「はい?」
健吾がの言った意味が分からず、翔矢は首を傾げた。
「まぁいいわ、ちょっと面白いと思ったから、誰かと共有したかっただけだぁ」
そう言って、健吾は翔矢の前から去って行った。
*
健吾の意図は、翔矢に全く伝わってなかったが、ペネムエは、少なくとも事件については、理解していた。
一瞬、黙っておこうと思ったが、伝えずにはいられなくなった。
「翔矢様……先ほど健吾様が見せてきた画像を見る限り……この事件は魔法による犯行です」
「……えっ?」
この世界で魔法による死者が出た。
その事実に2人の顔は、真剣な表情となった。
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