94話:蕎麦からニュースが始まりそうです()
「本当に申し訳ニャイ!!」
ここは翔矢の家のリビング、悪魔族のグミが、翔矢とペネムエに深々と土下座をしている。
「頭を上げてくださいませ、グミ様が、ノーマジカルで自由に動けない事を考慮していなかった、わたくしのミスです!!」
ペネムエは、あわあわとした様子で、何度も頭を上げるように言っているのだが、グミは頭を上げる様子はない。
ペネムエが北風エネルギーの鈴を退け、翔矢の元に駆けつけようとしていたタイミングで、グミと出くわしたのだが、留守を任されていたグミは、間に合わなかった事を、ひどく悔やんでいたのだ。
「依頼を遂行できニャかったとは悪魔族として一生の恥ニャ」
グミはまだ、頭を下げている。
「グミ様はノーマジカルでは、悠菜様の飼い猫という立場です、自由に動けないのは仕方がありません……」
そしてペネムエは気を遣い続けている、翔矢の家に来てから、ずっとこの繰り返しだ。
しかし無限ループのごとく、繰り替えされていた、このループも、間もなく終わりを迎える。
「まぁ、そう背負い込むなって、今日は肉料理じゃなくて天ぷらそばだけど、食って行ってくれ」
台所にいた翔矢が、ペネムエとグミの前に、どんぶりを1つずつ置いたのだ。
「翔矢……」
ようやく顔を上げたグミは、感激の涙を流している、しかしすぐに状況がおかしい事に気が付いた。
「って何で無事ニャ? クラッシュの魔法でボコボコにされてたはずニャ!!」
グミは、駆けつけた後に、翔矢の様子を見ていた、なのでピンピンしているのが信じられなかったのだ。
「えっ? 目が覚めたら治ってたけど、ぺネちゃんかグミが、ポーションとか使ってくれたんじゃないの?」
ペネムエとグミに、家に運ばれた数分後には、夕飯の支度を始めた翔矢も、グミの様子に驚いている。
「本当に御無事なようで何よりですが……あのレベルの肉体の損傷は、ポーションでは治りません……」
翔矢の身を第一に考えているペネムエは、とりあえず安心しているような口調だが、やはり疑問は拭えていないようだ。
「じゃあ女神様がヒール!! とか、してくれたのかな?」
翔矢は、何故か両手を挙げるジェスチャーをしてみせた。
「確かに天界から、こちらの世界に魔法を使用して干渉する事は可能ですが、近くに天使がいないと無理ですね」
「そっか……北風エネルギーの時はリールがいたからなぁ……
おっと、そばが伸びる前に食ってくれ」
「そうでした!! 頂きます!!」
ペネムエは両手を合わせた後、そばをズズズズと啜った。
「サクサクとした食感が売りの天プラを、お汁に浸すのも、なかなか合う物ですね!!」
「だろ!?」
ペネムエの満足そうな笑顔に、翔矢の方も満足して、釣られて笑顔になる。
今までなら、翔矢がが怪我をした後は、ペネムエは気にしてしまって暗くなっていたが、自分が暗くなっては、翔矢も悲しんでしまうと気が付いたのだろう。
何より、今回は理由は不明だが翔矢の怪我は、ほとんど完治している。
落ち込んでも、本当に良い事は無いのだ。
「2人とも、少しは不思議がるニャ……」
そんな2人の様子にグミは呆れてしまっている。
「食わないのか?」
「おいしいですよ?」
「せっかくだから頂くニャ、もう熱くないよニャ?」
猫舌のグミは、湯気の立っているソバを警戒しつつも、1口を慎重にすすった。
「うまいニャ!!」
「気に行ってくれて何より何より」
翔矢は得意気に腕を組みうんうんと頷いた。
「さて、俺も食うかな」
今まで自分と父親の2人分の食事を作る生活をしていた翔矢は、3人分の食事を作るのに慣れていなかったので、自分の分は1足遅く用意する運びとなった。
(すき焼きの時は、鍋だったから、リールいても平気だったんだけどなぁ)
大勢での食事が、楽しくなっていた翔矢は、今後は何人が家に来ても対応できるようになろうと決意をした。
*
3人とも食事を終え、翔矢とペネムエが後片づけをしようと、グミが寄って来た。
「あっ、今回は役に立たなかったからニャ。
片づけくらいはニャーがやるニャ!!」
「……そうか?」
グミの申し出に2人は、若干の不安を感じたが、自信満々の彼女に、何も言えず離れた所から見守って様子をうかがう事にした。
しかし2人の不安に反して、グミは手際よく食器や調理に使った鍋を洗っていく。
「いや、早いな!!」
もしかしたら自分よりも早いんじゃないかと思った翔矢は、グミに近づき身を乗り出す。
「悠ニャが『料理は苦手だけど、せめて片づけだけでも!!』って頑張ってるの見てるからニャ!!」
「悠菜様は料理が苦手なのを本気で悩んでおられたのですね……」
悠菜を憐れむような表情を見せたペネムエを見て、翔矢は悠菜の料理をネタにするのは控えようと頭の片隅に置いた。
*
その頃、リビングで付けっぱなしになっていたテレビではあるニュースが流れていた。
「今朝、足立区の路地で、男性の物と思われる変死体が発見されました。
男性は少年グループの一員と見られており、警察は何らかの抗争があったとみて捜査を進めています」
*
やがて翔矢達が関わる事になる事件。
しかし、この事件を既に追っている者がいた。
数時間前まで、翔矢やペネムエと交戦していた北風エネルギーの雑賀鈴だ。
六香穂から東京へ向かうため、六香穂駅を目指しているところだ。
「このニュース、かなりボカシて報道されているが変死体ってのはこういう事だ」
渡辺健吾は鈴に、スマホで写真を見せた。
写真は10代後半くらいの男の体に無数の真円の穴が開き、路地裏は真っ赤に染まっている。
それに加え、壁や建物にも、同じく真円の穴が開いていた。
写真を見て、鈴は黙り込んでしまった。
「まぁ、いきなりこんなの見せられたら気分悪いよな……
やっぱり俺も東京に行って、今夜は一緒に寝てやろうか?」
健吾は、最初こそ真剣な表情だったが、すぐにいつもの、ふざけた態度に戻った。
「ぐはっ……」
そんな健吾の腹部を凄まじい衝撃が襲った。
「不謹慎」
静かながらも、厳しい言葉を残し、鈴は1人で駅へ向かった。
「容赦ねぇな……しかしこの事件、他の誰かが動いてるのか?」
鈴が見えなくなった後、すぐに体勢を立て直した健吾は、もう一度スマホの画像を眺めたのだった。
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