93話:再会から新たな戦いが始まりそうです()
「翔矢様!! ただいま戻りました!!」
女神アルマから送り出されたペネムエは、浮かれ気分で、帰還のあいさつをした。
「えっ?」
しかし彼女の目の前に広がった光景は、想像した物とは違っていた。
「……そんな」
ペネムエが送り出されたのは、夕暮れ時の人気のない公園。
そこには、血まみれの翔矢が倒れていた。
「とりあえずポーションを」
涙をこらえたペネムエは、魔法のポーチに手を突っ込みながら倒れている翔矢に駆け寄る。
体がピクリと動いているのが見えたので、まだ息はあるようだ。
「口を、開けれますか?」
ペネムエの呼びかけに、翔矢は薄ら目を開けて反応したがそれ以上の反応がない。
「どうすれば……」
ペネムエがパニック状態になっていると、頭の中に翔矢の声が聞こえてきた。
天使特有の、自分に向けられた人の心の声を、聞くことができる能力によるものだ。
(逃げて!!)
「はい?」
なんだか分からず、辺りを見渡すとわずかに魔力を感じた。
自分が逃げるにしても、怪我を負っている翔矢を動かすことも、放っておくこともできない。
ペネムエは、ブリューナクを取出し、魔力を感じる方向に、巨大な氷の壁を夢中で生み出した。
バキーーーン
氷の壁を厚く作ったので、仕掛けてきた相手の姿は見えない。
だが、ものすごい力で氷の壁が叩かれたのは分かる。
音から判断すると、受けたのは一撃だと思われるが、氷の壁はボロボロと崩れ去ってしまう。
*
「いない?」
攻撃してきた主は、巨大なけん玉をハンマーのように振りかざしていた。
少女は破壊した氷の壁の先に、誰もいない事に困惑している。
「ぐっ……」
戸惑っている少女の背中に棒のような何かが、強い勢いでぶつかり痛みが走った。
「安心してください、訓練用の弓矢なので殺傷能力はりません……
ですが、あなたの返答次第では、翔矢様以上の怪我を負うことになるでしょう」
少女が声をする方を向くと、怪我を負っている翔矢はフワフワと浮かぶ雲の上にいた。
その隣には、ペネムエが、すぐにも弓矢を放てる体勢で待機していた。
怒りに染まった目で少女を睨み、震えた手は今にも弓から手を離してしまいそうに見える。
「一発当てたからって……調子に乗らないで!!」
少女は、巨大なけん玉を振り回し、玉をペネムエに向かって飛ばした。
「マジックラウド!! 翔矢様を安全な所まで運んでください!!
急いで!! でも安全運転で!!」
ペネムエは玉の動きを見定めながら、マジックラウドに支持を出し、紙でできた式神にポーションを持たせ乗せた。
マジックラウドは指示通りに、この場を離れていく。
飛んできた玉は、再びブリューナクで氷の壁を生み出すことで防いだ。
(オーディン様との修行で、ブリューナクの冷気の支配の自由度が増してる……
これなら魔法が使えないノーマジカルでも十分戦えます!!)
しかし玉は何度も氷の壁を叩きつけ、やがて耐え切れなくなり砕かれてしまう。
「本来人間とは争ってはいけないのですが……痛い目を見せる必要がありそうですね」
「いつのまに!?」
少女が気が付くと、ペネムエはすでに目の前に来ていた。
だが少女の反応も早く、ブリューナクが振られるよりも先に、けん玉のハンマーを振り回した。
「おっと……超高速の腕輪で接近したのに反応してくるとは、中々の手練れですね」
だがペネムエは、後ろに跳ぶことで回避していた。
「あたりまえ……手の内は知らないから驚いたけど……
馬鹿3人に掴まった、お前は私の敵じゃない、私は馬鹿3人を合わせた10倍は強いから……」
ペネムエには少女の心の声が聞こえていたので、正体に目星は付いていたが、この言葉で確信に至る。
「わたくしが掴まった……という事は、あなたは北風エネルギーの人間ですね?」
「そう、私は『北風エネルギー・ウィザリアン対策課・実動部隊隊長・斎賀鈴』
任務は、この世界の敵、ウィザリアンの討伐」
「ウィザリアン、わたくし達のような魔力を持つ生命体を、そう呼んでるのでしたね。
ですが翔矢様は……人間です」
ペネムエは再び怒りに満ちた目で鈴を睨んだ。
「ウィザリアンに味方する人間も、この世界の敵。
まして彼は、『私と同じマモンキューブ』を手に入れた、弱かったけど」
心の声で鈴の思考がペネムエの頭の中にも伝わってくる。
白銀の騎士が翔矢に渡したキューブは今は赤いメリケンサックに変化し翔矢に力を与えている。
彼女の手に持っているけん玉は、どこかの遺跡で発見されたキューブが変化したようだ。
それよりも、そのキューブの名前がペネムエに取っては問題だった。
「マモン……キューブ?」
「ドクターが遺跡の文字を解読して名前は分かった。
私のは遺跡で発見された、マモンキューブ、それが変化して戦う力になった」
(マモン……ノーマジカルの遺跡に何故、大魔王マモンの力が?)
ペネムエは頭が混乱して動きが止まってしまった。
そのチャンスを、鈴は見逃さなかった。
「もらった……」
鈴が横にスイングしたけん玉のハンマーは、ペネムエの腹部に直撃する。
その瞬間、ペネムエは内臓にまで強い衝撃を受けた。
なんとか後ろに下がり距離を取ったペネムエは、それ以上の漣劇は受けなかった。
「やはりただのヘンテコハンマーではないのですね。
翔矢様のメリケンサックが【ファイター】を使えるようにする道具とするならば、そのヘンテコハンマーは【クラッシャー】を使えるようにする道具と言った所でしょうか?」
「そう、この力は全てを砕き破壊する力、私は、この力で世界を救う!!」
再びペネムエへと接近してきた鈴は、ハンマーを振り回し攻撃を仕掛けてくる。
すでに体勢を立て直していたペネムエは、ブンブンと振り回されるハンマーをヒョイヒョイと危なげなく交わして見せる。
「くっ……3馬鹿に捕まった銀髪相手なら楽勝だと思ってたけど、やっぱり不意打ちを仕掛けた時とは訳が違うか。
油断した……宮本翔矢くらい雑魚だと思ってたのに……」
鈴の口から翔矢の名前が出たことで、ペネムエの表情は険しく変わる。
「翔矢様が……弱かった……ですか?」
「うん、せっかくの力を逃げる事にしか使わない臆病者。
けん玉の玉を使えば、遠距離攻撃もできるから、逃げ切れる訳ないのに」
そこまで話した所で、鈴の頭を目掛けて、氷柱が勢いよく飛んできた。
「きゃっ」
鈴は咄嗟に、しゃがみ込み回避したが、今のが直撃していたらと思うと寒気が走る。
「翔矢様が、あなたなんかに負ける訳がありません。
御自分の身を護るためだけに、女性を攻撃することができなかったのでしょう……
それを見抜けなかったあなたに戦いの才能はありませんね」
ペネムエは、しゃがんだままの鈴を冷酷な目で見つめる。
「言わせておけば!!」
そんなペネムエを、怒りの目で睨み返す鈴は耐性を立て直すと、再びペネムエに襲い掛かる。
「はぁっ!!」
ペネムエは、ハンマーによる攻撃を再び氷の壁で防ぐが、あっけなく破壊されてしまった。
「私のクラッシュの力は全てを破壊する!! お前の氷なんか意味は無い!!」
手を休める事のない鈴の連撃が、ペネムエを捕らえるかに思えた。
「鉄じゃないんですから、氷が叩かれたら砕けるのは当たり前でしょう?」
「しまっ……」
鈴は周りに影が出来て暗くなっている事に気が付いた。
上を見ると、巨大な氷塊が自分の身に迫って来ていた。
先ほど砕いた氷の壁の上に氷塊が仕掛けてあったのだろうと、すぐに察した。
「こんなもの、また砕いてやる!!」
ハンマーを勢いよく振り回し、宣言通り氷塊を砕いて見せた。
しかし、巨大な氷塊を砕いたところで、細かい無数の氷塊が鈴の身を襲うだけだった。
「がはっ」
無数の氷塊を防ぐ術はなく、体に浅いながらも無数の傷を負ってしまう。
「わたくしも、これ以上、大切な人を傷つけられた怒りを抑えられそうにありません……
命が惜しければ、この場を立ち去りなさい!!」
ペネムエは、らしくもない大きな声を上げた。
「ちょっと痛かったけど……これくらいで勝ったと思わないで!!」
しかし、鈴はまだ戦うつもりでいた。
再びハンマーでペネムエに攻撃を仕掛けようとした、その時だった……
「きゃっ」
「なに?」
鈴の体に、赤いレーザーのようなものがグルグルと巻き付いたのだ。
2人とも何が何だか分からず、混乱している間に、鈴は吊り上げられるように、赤いレーザーに引っ張られ、ペネムエの前から姿を消した。
「今のは……? そうだ!! 翔矢様!!」
ペネムエは、気になりはしたもにの、翔矢の身を案じ、マジックラウドを飛ばした方へ駆けていった。
*****
「離せ!! まだ戦える!! 銀髪は私が倒す!!」
「まぁそうカッカするなって!!」
「ひゃっ……」
鈴の顔は赤くなる、尻を男に撫でられたのだ。
「ド変態!! 漣の弟とは思えないんだけど!!」
鈴を抱きかかえいたのは、翔矢の剣道部の先輩でもある渡辺健吾だった。
「このまま暴れられてたら話ができないからな、銀髪は後回しだ」
「なんで? あと少しで勝てたのに!!」
「東京で殺人事件が起こった、魔法を使ったな……」
「えっ……?」
この話を聞いた鈴は、暴れるのを止め大人しくなったのだった。
赤いレーザーに吊り上げられた鈴は、男に抱えられながらジタバタ暴れていた。
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