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 仮面を人前で外すことなど無いと思っていた。

 この生を終えるまで隠し通せると思っていた。


「この顔と髪こそ、わたくしが王族であるという証。幼い姫よりわたくしの方が女王に相応しい」


 歌うように王の間に声を響かせる。産まれてより努めて出さぬようにしていた声だが、幸いなことに枯れてはいなかったようだ。ただ、あまり長く喋ることや大声を出すことは難しそうだが。

 ゆっくりと隅々まで王の間を見渡す。驚いた様な間抜け顔、苦々しく顰められた顔、内心を悟らせない無表情。全てがこちらを見ている。

 舞台に立つ女優のように、微笑んでみせた。


「幼子に、(まつりごと)など出来るものか。この国はわたくしが支配する」


 真正面に立つのは齢九つの気高い王女。

 幼くとも王の威厳を纏う少女が誰よりも王に相応しいことは、相応しくあろうと努力していたことは、私自身がこの国で一番知っていた。

 だからこそ私は、ここに立つと決めた。


「わたくしが、神に認められた女王である」


 玉座に嵌め込まれた宝玉が、声に反応して輝き始める。かつてこの国の初代女王が神より賜ったとされるものだ。王の間で条件の合う者が王として宣誓し、神に女王と認められると輝くようになっている。

 条件とは、一に血の濃さ、二に年齢。今この国に残った王族で、私より血が濃い者は存在しない。


「まさか、王族がまだ居たとは⋯⋯」


 大臣の一人が絞り出すような声で呟く。この言葉が彼らの総意だろう。王族として周知されていた中に私は居ない。私の存在を知っていた者は故人を含めても十に満たない。彼らが知る生きている王族は、次期女王候補として育てられた王女と宦官の王子のみだった筈だ。

 けれど今、私は正式に女王となった。王女を、───忠誠を誓った主を差し置いて。

 見せつけるように殊更ゆっくりと玉座に腰を下ろす。彼らは私を女王と認めるしかない。宝玉が輝き、玉座が受け入れた人間を、彼らは女王に据えなければならない。


「女王陛下、万歳!」


 一人の騎士が跪いて唱えると、また一人二人とそれに続く。本来ならば皆が一斉に行うものだが、予め決められていた王女ではなく突然現れた女が女王となったのだ。神が認めたとはいえ納得は出来ないのだろう。

 時間を掛けて最後の二人、王子と王女が跪く。


「この国に、神の加護があらんことを」


 私のその言葉に一層強く宝玉が輝き、王の間全てに染み込むように広がってやがて穏やかに光は収束する。

 ───女王選定の儀の終わり───。

 代替わりの度、この儀式を終えなければ神は国に加護を与えてはくれない。たとえ納得はしていなくとも、神に認められた女王に従わなくては加護を失った国は滅びてしまう。

 誰もが下を向き、視線の圧が無くなったことに密かに溜息を吐く。


 これが自分で選んだ道だ。

 忠義を、忠誠を忘れたわけじゃない。それを貫く為に私は王女を裏切った。

 一生陰に生きるという誓いを破って、私は中継ぎ女王として頂点に立つ。

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