言われなきロリコン認定
タイトルはパクリ。ごめんなさい。
『ロリータ・コンプレックス-516年版- 著リーシャ・アデラトス』
突然だが、皆さんは『ロリコン』という言葉をご存知だろうか。
『ロリコン』、ロリータ・コンプレックス。少女、幼女、もっと具体的に言えば12歳までの女の子に対しての性的嗜好や恋愛感情、またそのような感情を持つ人の事を指す言葉である。中年の少女性愛者ハンバートが純粋な幼女ロリータにLOVEずっきゅんしてしまう純愛小説に由来し、幼い女の子を指す言葉として広く知られている(?)ロリータと、愛着という意味でのコンプレックス、この二つが融合して誕生したこの和製英語は、いまやインターネットだけでなく、一般社会を生きるパンピー達にも広く知られつつある。
一般的には危ない人扱いされるこの性癖を、社会がどう思っているかは今回は置いといて。いやぶっちゃけるとあまりいいイメージを持っているとは言い難いのだが、そこについての議論は今はしないでおくとして。この性癖は実は恋愛感情からではなく、実は親心に近い感情からくるものなのではないか、と私は思う。少なくとも最近までは、そう思っていた。
実際そうだろう。最近のネット上では覚束ないトークや音程の合わない歌、下手な絵、信じられないドジを披露する2次元の幼い女の子に対して、『パパになりたい』というような感情を抱くネット民も多くいると聞く。その親心が何かの手違いで恋愛感情に進化してしまい、ロリコンという性癖に繋がった。つまり、ロリコンは親心の進化系であり、決して本人も最初から幼女に対して不純な気持ちを持って接していた、またその行動を見ていたのではない。
つまり、ロリコンは決して疎まれるべき性癖ではなく、ただ誰もが持つ感性を少し拗らせてしまっただけ──なのだと、つい最近までは思っていた。そう、勇者アレスのことを知るまでは──
彼、勇者アレスはロリコンである。それも私がこれまでに述べてきた『親心的ロリコン』とは全く違った、そう、世間が想像しているようなロリコンの、まさにそれであったのである。彼のロリコンは、私達との魔王討伐の旅の時からその片鱗を見せてはいた。しかしその本性が完全にベールを脱いだのは魔王討伐のその後。彼は魔王討伐の旅の途中から密かに計画していた『ロリータ天国計画』の足がかりとして、まずは10歳の幼女を弟子にとり──挨拶と称して、まずは彼女に種付けを
バァン。そこまで読んだところで流石に耐えきれなくなって、本を床に叩きつける。アスターが怯えた顔でこちらを見ている。書店の客、従業員達も『何が起こった』というような面持ちでこちらの方を見つめている。
何故こうなってしまったのか。分からない。分からない。けど、けど、けどけどけどけど。決して認めたくはないし、誠に遺憾であるけれども。しかし、事実として。俺、勇者アレスは──世間では、ロリコンということになっている。
声にならない声が、俺の心の中に響いた。
★
「先生、私のせいで...すいません」
「いや、いいんだ。アスターは悪くないからな...」
とは言いつつも、頭を抱える俺。アスターの不安げな視線と優しい言葉が、さらに俺を苛ませる。本当に辛いのは、俺じゃなくアスターだろうになあ。自分の先生がロリコンだなんて噂が流れてたら、俺なら発狂してるぞ。
俺とアスターは、城下町を歩いている。オーレシア王国の本拠地、その周辺の一年中通して寒冷な気候と薄い水色で彩られたボディから、別名『氷の城』とも呼ばれているオーレシア城の、城下町。商業の中心地として栄えているこの地は人口も多く、常に人やモノの行き来が盛んに行われている。
しかし、今日の目的は商売ではない。夕飯の食材なら昨日市で買った。家具も大切に使っているから一つとして壊れていない。今日の目的は──
「お前だよっ!」
言って俺は、その民家のドアを勢いよく蹴飛ばす。1発でカッコよくぶち破っている予定だったが、最近のおうちのセキュリティーは意外と丈夫にできているらしい。
もう1発食らわせる。日本だったら騒音規制法に引っかかりそうなものっそい音が鳴る。しかしドアは壊れない。なんでこんなに丈夫なんだよ。昔なんか触ってなくても腐って朽ちて壊れた建物も多かったもんだが。
もう1発。再び物凄い音が鳴る。そしてようやくドアが壊れた。ふぅ。疲れた。ため息を吐く。
「さあアスター、行こう...か...」
言って後ろを振り返ると、そこには怯えた子犬のような目でこちらを見ているアスターが居た。
そうか。アスターから見ると、俺がいきなり立ち止まって一般の民家のドアを蹴破ったように見えてるのか。
しかしまあ、誤解を解くのは後でいい。優先すべきはあのクソ野郎の制裁の方だ。
涙目のアスターの手を引っ張りながら、蹴破られたドアだったものを通過し、クソ野郎の巣穴の中へと進撃する。
「...やあアレス、久々ですね。元気そうで何よりです〜」
笑顔で椅子に座り、紅茶をすする『伝説の僧侶』リーシャ、もとい『ロリータコンプレックス』の著者が、そこにいた。
ちょくちょく日本のネタが出て来たり、アレスが日本について触れたりしますが、アレスは生まれも育ちも異世界です。