第八話 案内人のお仕事の一環です
「はい! 何でも訊いて下さい!!」
ルセが元気よく、尻尾を左右に振りながら訊いてくる。でも、目線はココアに釘付けだ。
あっ、涎垂れた。可愛い様に、笑みが溢れる。
「……とりあえず、飲んでからにしようか」
そう言うと、パァ~と明るくなるルセの表情に、俺はほんと癒される。
天気も良いし、風も心地良い。部屋も居心地がいい。平和をかみしめる。
こんな時、ふと……考える。
三年後に起きる〈大殺界〉のことを知る者は、この世界で極僅かだろうと。知っているのは、五聖獣の眷族くらいか……。このまま何も知らずに、三年が過ぎるといいのだが、俺は心からそう思った。
しんみりしている俺に、口の周りを焦げ茶色に染めたルセが訊いてきた。
「……アキラ様、お待たせしました。何からお話しましょうか?」と。
俺は話を聞かれたら不味いので、念のために遮音防壁を張っておく。意外に、ルセの声が大きいからな。
「う~ん。そうだな……この世界は、人族が一番多いのか?」
この世界に来て、三時間程だし、来たことのある町はグリーンメドウだけだが、行き交う種族は人ばかりだった。
それは、ギルド内でもだ。
体の一部が獣である獣人や、尖った耳を持つエルフ族、それに、背が低く手先の器用なドワーフ族と出会うこともなかった。そのことを、俺は不思議に感じていた。
「朱の大陸は人族が治めてますから、自然と人族が多くなりますよね。それに、ここは朱の大陸内でも最南端の町なので、殆どが人族ばかりですね。王都に行けば、他種族と接する機会も多くなりますよ」
「この大陸が人族なら、他の四大陸は他の種族が治めているのか?」
「はい。翠の大陸が獣人族。黒の大陸が鬼人族。蒼の大陸が竜人族。白の大陸が翼人族が治めています」
「翼人族?」
「背中に翼をもった種族ですよ。プライドがメチャクチャ高い種族なんです!」
若干、ルセの眉が寄る。
何か言われたことでもあるのか?
「他の種族はいないのか?」
エルフやドワーフ、妖精族とかは。
「いますよ。あくまで、少人数ですが。それぞれ、自分の好きな所で集落を築き、自由に生活してますよ。
中には、聖獣様たちの眷族になっている種族もいます。一番有名なのが、ビャッコ様の眷族で、〈緑の民〉と呼ばれているエルフたちですね」
「なるほど。で、種族間で争いや摩擦とかはないか?」
「目立ったものはありませんね。五大陸間は、比較的良好な関係を築いています。少数民族たちは、嫌なら、表に出て来ませんし。然程、問題にする必要はないと思います」
それは良かった。
比較的良好な関係を築いているのなら、他の大陸に移動する際も、気を使う必要がないし、面倒なトラブルに巻き込まれる可能性も低くなる。
「……分かった。次に教えてもらいたいのが、この世界のお金についてだ」
「お金についてですね。五大陸全て、皆、同じ硬貨を使用してます。硬貨の価値も統一されてますから、その点は楽ですね」
「硬貨だけか?」
「はい。そもそも、紙幣が存在しないんですよ」
紙幣がない!? それは珍しいな。
「この世界の硬貨は、全部で五種類。
銅貨、青銅貨、銀貨、金貨、白金貨です。
一番使用されてるのが、銅貨と青銅貨、それから銀貨ですね。次に金貨で、白金貨を持っているのは上流貴族と王族、商人の一部ぐらいですね。後は、商業ギルドも白金貨を持ってます!」
「商業ギルドって、商人たちが登録するギルドのことか?」
「はい。あっ、でも、ハンターたちも登録していると聞きますよ。色々特典があるとかで。でも、入るのはかなり難しいって聞きましたが……」
入るつもりですか? と、ルセの目が語っている。
「いや、入るつもりはないから。で、お金に話を戻すけど、銅貨何枚で、青銅貨一枚分になるんだ?」
「基本、十枚ですね。銅貨十枚で、青銅貨一枚。青銅貨十枚で、銀貨一枚。後は同じです。実際に使ってみて、覚えた方が早いですね」
確かに、ルセの言う通りだ。
にしても、ややこしくなくて、マジ助かる。
とりあえず、今訊くべきことはこんなところか……。後は、おいおいだな。それから、
「……大殺界のことは、直接五聖獣たちに訊けばいいしな」
当然、何かしらの策を考えているだろう。そうでなければ、困るけどな。
小さな声でブツブツと呟き、考え込む俺に、ルセが「アキラ様、何の職業にするか決めました?」と訊いてきた。
あっ、完全に忘れてた。
お待たせしました(〃⌒ー⌒〃)ゞ
所々、「新米神様ですが、魔法使いの修行のために異世界にやって来ました」とリンクしている場面があります。
同じ世界のお話なので。
両方楽しんで頂けると嬉しいです("⌒∇⌒")