第四話 最強魔法使い、ギルドを訪れる
グリーンメドウは、ハンターの拠点地だとルセが言っていたから、てっきり騒がしい町だとばかり思っていた。
だが、意外や意外、喧騒とは無縁な長閑な町だった。農村地だと思ったぐらいだ。そのことを話すと、
『その感想、間違ってはいませんよ、アキラ様。つい最近まで、ここは農村でしたから。農村にギルドが出来て、次第に町になったんですよ』と、ルセは笑いながら言った。
『通りで、長閑だと思った』
『酪農も盛んですから、特に乳製品がお薦めです。野菜も美味しいですよ』
『ほ~、それは楽しみだな。腹が減ってきた。飯を食う前に、さっきの戦利品を換金しないとな』
『高値で売れるといいですね!』
だな。
拾った時に確認した限り、小ぶりだがキズも付いてなかった。そこそこの値で売れるだろう。いうか、売れて欲しい。先立つものが全くないんだからな。
まぁ一応、最悪な状態になった時のために、食料と飲み水と酒は、マジックバックに入れて持って来ているが、あくまでそれは保険だ。
最初から保険に頼るのは、さすがにアウトだろう。
因みに、俺が持っているマジックバックは優秀で、生物を入れても腐りはしない。
バックの中が亜空間に繋がっているからだ。といっても、さすがに生物は持って来てないが。
大丈夫だと分かっていても怖いだろ。食中毒とか。
そんなことを考えていると、ルセの声が頭に響いた。
『あの角を曲がった所です』
ギルドに近いからか、武器や防具を装備している人が多い。
ルセは大半がハンター関係者だと言っていたが、ここまでの道のりで行き交う人々を見て、町を形成しているのは、農業関係者だと感じた。
農業などの非戦闘員が六割ぐらいで、後の四割がハンターか兵士のようだ。服装と装備から、容易に判断出来る。纏っている雰囲気も違うしな。
中には、かなりの使い手もいるようだ。
そういえば、町の外で会った二人組も、なかなかの使い手だったな。
『……アキラ様』
『ん? 何?』
『驚かないで下さいね』
驚く? 何に?
ルセはそう言ってから、一軒の道具屋の前で立ち止まる。
道具屋は、やたらメルヘンチックな建物だった。
男なら絶対に入るの避けるよな、絶対……
まさかと思うが、ここか?
『到着しました』
やっぱり、ここで間違いなかった。
入るのか? この中に? マジで、勘弁してくれ。
躊躇している間も、自分よりガタイのいい屈強な男たちが平然と出入りしている。
勇気あるなぁ……っていうか、麻痺してるのか。
こんな所で立ち尽くしてても目立つだけだ。仕方ない。入るか。店内は至って普通かもしれないしな。
勇気をだして店内に入ると、そこは外観よりも、更に夢の世界だった。
置物の一つ一つが可愛いのだ。
動物をかたどったぬいぐるみや木彫りの人形。キノコの形をした小物入れなど。絶対に女の子が気に入るような品物ばかりが、所狭しと置かれていた。
こんな所にギルドがあるのか?
確かに、男たちは入って行ったが……
あまりにも場違いな光景に、ルセには悪いが半信半疑になってしまう。俺はその場で、人の流れを見ていた。
どうやら、道具屋の奥を借りて営業しているみたいだ。
とりあえず、行ってみるか。
俺は男たちの後をついて行く。狭そうなので、ルセを抱き上げた。フサフサした毛が肌を擽る。
このまま、腹に顔を埋めて、思いっきり匂いを堪能したいって思うのは、俺だけだろうか?
欲求をなんとか抑え込み、人が二人通れるか通れないかぐらいの狭い通路を、俺とルセは進む。
通路を抜けた先は、意外と広い空間だった。
「くっさ!!」
空間に出た瞬間、俺は思わず悲鳴を上げた。
臭い!! マジ、臭い!!
汗と埃と、男たちの体臭。そのトリプルが濃縮され、空間を満たしている。
剣道の防具の蒸れた臭い。それとも、長い間洗うことなく履いていた皮のブーツの臭いに近いか。
とにかく、ものすごく臭かった。
ルセはあまりの臭さに、鼻を押さえながら、くしゃみを繰り返している。
俺は自分の周りに、気付かれないように薄く結界を張った。そして、結界内を浄化する。
あーーこれで、息が出来る~~
『……ありがとうございます、アキラ様。死ぬかと思いました』
ルセは涙目だ。
『俺も思った』
『もしかして、これがハンターになるための試練では?』
『まさか!?』
それはないだろう。
係員を掴まえて訊いてみるか。
そう思った時だった。
「やっぱり、君、魔術師だったんだぁ~~」
俺のすぐ側から、語尾を伸ばした、甘ったるいが幼さが残る少女の声が、俺とルセを呼び止めた。
次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪