第三十話 硫黄の臭いの正体
「くっさ~~!!」
あまりの臭さに、無意識に鼻に手をやる。そんな事をしても、全然緩和されないけどな。
にしても、マジ、臭い!!
卵が腐って煮詰めたような、キツイ硫黄の臭いが、部屋中に充満している。ギルドの臭さとは全く違う臭さだ。だが両方とも、確実に精神にダメージを与える事には成功している。
咄嗟に、俺は自分たちの周りに結界を張り、空気を浄化した。
はぁ~~これで、息が出来る。
「大丈夫か?」
抱っこしている巫女長を見下ろすと、息を止めていたのか、真っ赤な顔で涙目になっている。
シュリナは、鼻を庇っていた手をどけた。可愛い姿なのに眉間に皺を寄せ、軽く唸っている。ルセもだ。
まぁ、唸りたい気持ち分かるな。
「大丈夫」(巫女長)
「不快極まりない臭いだ」(シュリナ)
「本当に」(ルセ)
同感。
一応、結界を張ってるから、影響は受けないと思うが、
「体調に、少しでも変化があったら、遠慮なく言え」
念のために声を掛けとく。
でも、まぁ……おそらく、普通の人間じゃ、この臭いには気付かないだろうな。影響は受けるかもしれないが。
魔力を持つ人間にしか、気付かない臭い。
この世界の魔術師のレベルは分からないが、ルークぐらいの魔力だったら、この臭いには耐えられないだろうな。
部屋に充満している空気も、とても重い。淀んでいる。昼間の筈なのに、部屋の中がどことなく暗く感じるのはこのせいだ。
今、俺たちがいるのは王の私室。
加護を与えている王の私室とシュリナの棲む神殿は、実は転移魔法で繋がっている。それを使った。あくまで使えるのは、神殿側からだけで、王からは行けないらしい。
まぁ、それも当然か。
眷族でもないのに、気楽に神殿には入れないよな。
にしても、久し振りだな。ここまでのは、
「……淀みの元は、アレか?」
寝室の扉を開けると、キングサイズのベッドの上に、アレが静かに横たわっていた。ピクリとも動かない。魘されているのか、「ウ~~ウ~~」と、苦しそうな呻き声が聞こえてくる。
人型のアレ。
そうーーおそらく、アレが元王だな。
元王が横たわっている寝室は、一層、空気が淀んでいた。
いや、淀んでいるレベルじゃないな。
これは明らかに、瘴気レベルだ!!
チッ。傍迷惑な。
この俺でさえ、一歩足を踏み出すのに躊躇する程の瘴気が、寝室全体を覆っている。
ほんと、厄介だな。
俺は溜め息を吐くと、巫女長を下ろそうと腰を屈めた。中に入るのは、俺一人でいい。そう考えていたが、
「わたちもいく」
すぐ下から、小さな声がした。巫女長だ。
俺のローブの端を強く握り締めている。その手が小刻みに震えているのに、俺は気付いた。
「無理するな」
結界で覆っているとはいえ、ここにいる自体辛い筈だ。
俺は巫女長の頭をポンポンと叩きながら言うが、巫女長は首を横に振る。縦には振らなかった。
お子ちゃまでも、巫女長としての矜持は持っているんだな。
巫女長の態度に感動した。
「我も付き合うぞ」
「僕も」
シュリナもルセも、最後まで見届けるつもりだ。
「……分かった。だけど、俺の後ろにいるんだぞ」
そう注意すると、皆コクリと頷く。
俺はもう一度巫女長の頭を撫でると、寝室に足を踏み入れた。
ベッドに近付くにつれ、瘴気が濃くなっていく。
「…………完全に呪われてるな」
そう、卵が腐ったかのような、キツイ硫黄の臭い。
その正体は、〈呪い〉だ。
正確に言えば、呪いで生じた〈瘴気〉だ。
闇魔法を使い呪った魔力の波動が、魔力を有する者にとって、酷い悪臭に感じる事がある。
魔力の多さによって、その臭いは大きく左右される。
例え魔力がなくても、王の私室に足を踏み入れれば、それだけで瘴気に当たっただろう。軽くて体調不良、重くて発狂か。最悪、死だな。
「かいじょ、できるのですゅか?」
「聖魔法を使えば、解除出来る」
巫女長の質問にそう答えると、掛け布団を勢いよく剥いだ。
全身、包帯にぐるぐる巻きにされた人型が現れる。巻かれていないのは、鼻と口だけだ。
包帯は所々、血で染まっていた。薄汚れている。どうやら、取り替えられていないみたいだ。
まぁ、これだけの瘴気が漂ってたら、仕方ないか。自分の身が一番だしな。
よく見たら、蛆は湧いていないが、化膿しているみたいだ。このまま放置してたら、最悪、切断だな。
それにしても、マジで、ミイラみたいだな。
さて、どうしようか? ん?
ローブが引っ張られる。巫女長か。
俺は巫女長を安心させるために、頭に手を添え微笑む。
「解除出来るか?」
固い声で、シュリナが確認をとってくる。
「まぁ、これくらいなら……」
俺は右手を、横たわるミイラの上に翳した。ちょうど、へその上あたりだ。
その瞬間ーー。
白く光る魔方陣が現れ、ベッドをとり囲む。
その途端、ミイラの体が大きく跳ね上がった。リバウンドを繰り返す。二、三回繰り返すと、静かになった。
そして静かになると、その体から今度は、黒い靄のようなものが上がってくる。それは、意思がある触手のようなものに姿を変え、俺の右手に絡み付こうする。
だが、俺の右手に絡み付くことは出来なかった。絡み付く前に消滅するからだ。
近付けない触手は、徐々に追い詰められ、僅か数分で完全に消滅した。
「「見事なもの(です)だ……」」
「まぁな」
「…………おわったの?」
「ああ。呪いは解除出来た。まぁ、跳ね返しただけだが。……後は、回復魔法を掛けるだけか」
俺はそのまま、ミイラに回復魔法を掛けた。
あっ! ミイラが動き出した。
マジで、触りたくないんだけどな……。仕方ない。
俺は汚れた包帯を剥いでいく。
「大丈夫か? おっさん」
薄汚れたおっさんが、俺たちを睨む。が、直ぐに気付いた。
俺のローブを握っているお子ちゃまと、浮かんでいる赤竜の正体にーー。
「スザク様。巫女長様……」
慌ててベッドから飛び下り、床に膝を付こうとしたが、長い間寝ていたせいか、体が思うように動かないようだ。ベッドから落ちた。
痛そう。変な音がしたぞ。念のために、もう一度、回復魔法を掛けとくか。
状況が判断出来なくても、膝を付き頭を垂れ、礼の姿勢をとる。その元王に、シュリナは淡々と告げた。
「お前の加護を外した」と。
大変お待たせしましたm(__)m
さて、誰が呪いを掛けたのでしょうか?
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪




