第二話 豆柴さんと初戦闘
案内人、黒の豆柴こと精霊犬ルセと共に、グリーンメドウに向かう途中、ルセが早速仕事を始める。
「歩きながら、この世界のことを軽く説明致しますね。アキラ様。
……まず、この世界は、五つの大陸に分かれています。
中心に位置する〈白の大陸〉を取り囲むように、東に〈蒼の大陸〉、西に〈翠の大陸〉、そして今、僕たちがいる南の〈朱の大陸〉、最後が北の〈黒の大陸〉です。常世と似てますよね」
ルセの口から、常世という単語が出たことに少し驚く。
多少なり、常世のことを知っているようだ。まぁ、隣り合う世界だから、知識として知っているぐらいか。
少なくとも、精霊犬だな。あぁ、五聖獣のペットだったか。
「そうだな。よく似てるっていうか、まんま同じだな」
「そこまで似てるんですか?」
ルセはトコトコ歩きながら、俺を見上げる。
その仕草があまりにも可愛くて、悶絶しそうだ。
撫でまわしたい。
俺はネコ派じゃなくて、断然、犬派!! その中でも、日本犬が特にお気に入りだ。
「ああ」
自然と笑みがこぼれる。
「へ~~。お隣さんだからですか?」
「俺もはっきりとは言えないが、影響は受けてるだろうな」
そんな話をしている時だった。
俺とルセの足が、ほぼ同時に止まった。
「……取り囲まれてるな」
「はい」
「ルセは戦えるか?」
「僕はあまり戦いは……」
「出来ないと、苦手は違うからな。ルセ」
ルセはハッとし黙り込む。
ちょっと、きつく言い過ぎたか。
でも、間違ったことは言っていない。
これから先、戦闘を避けて旅をするのは到底不可能だ。絶対に。
最低限、自分の身は自分で守れ!
一緒に旅をする以上、そこんとこは覚悟してもらわないとな。って、何で来たばっかりの俺が思うんだ?
俺はそんなことを考えながら、一歩前に出る。
と同時に、背丈の高い草むらから魔獣が姿を現した。犬の容姿によく似ている。でかさは、断然、魔獣の方が大きいが。
「魔犬か……」
およそ四、五メートル先に二頭。後ろに三頭。体長は小さいので、セントバーナードぐらいか。
五頭とも、マズルに深い皺をよせ、低い声で唸っている。鋭く、太い牙から涎が滴り落ち、地面を濡らす。
喰う気満々だな、お前たち。
苦笑しながら、俺は【ステータス】画面を開く。
細かいのはどうでもいい。俺が見たいのは、【スキル】の項目。
「黒武が言ってた通り、ちゃんと移行されてるな。よしよし。……それじゃ、始めるか」
俺は右手を上に向かって伸ばした。右手の先、一メートルほど頭上に、薄い青色の魔方陣が現れる。
本能で恐怖を感じたのか、魔犬たちは躊躇した。
だがそれは、ほんの一瞬で、魔犬たちは一斉に地面を蹴り、俺とルセに向かって飛び掛かって来た。
同時に、輝きが増す魔方陣。
魔犬の牙が、俺とルセに迫ってくる。
ニヤリと俺は笑う。
無数の氷柱が、魔方陣から放たれた。
それは襲い掛かって来た魔犬の頭上から降り注ぎ、全て命中する。「ギャン!!」と悲鳴を上げ、魔犬たちはドサッ、ドサッと音をたて、地面に叩き付けられた。
それはまさに、アッという間の出来事だった。
一瞬で形勢が逆転した。
氷柱は五頭いた魔犬の体を貫き、幾つもの穴を開けた。魔犬たちはピクリとも動かない。
やがて、魔犬たちの体は青白い光りを放ち、徐々に薄くなっていく。そして、完全に消えた。
後に残ったのは、小さな魔石とドロップアイテム(牙と毛皮)だった。
俺は戸惑うことなく、それを全部拾い、マジックバックに入れた。
収入源ゲット!!
幸先いいかな。
「……凄い……さすがです!! アキラ様」
その強さに圧倒され、興奮したルセの尻尾が激しく左右に揺れる。さっきまで、股の間に尻尾を入れてプルプル震えていたのに。
マジ、可愛い。豆柴最高!!
「たいしたことじゃねーから。で、これ売れる?」
俺は拾った魔石を、ルセに見せながら問う。
「はい! 売れます。グリーンメドウにはギルドがあるので」
ギルド?
「それって、魔物狩りの?」
「そうです。この世界では、魔物たちを専門に狩る〈ハンター〉という職があります。まだ小規模ですが、〈ハンター〉たちの組合みたいなものが生まれつつあります。それが、ギルドですね。
アキラ様もハンター資格を取得しといた方がよいかと。一応、身分証にもなりますし」
身分証か……。あちこち旅をする予定だし、必要になるよな。だが、
「この世界の住人じゃなくても、取得出来るのか?」
「出来ます。たぶん……」
曖昧だな。まぁ、いいか。最悪取れなくても、どうにかなるだろう。
国境なんて、上空を飛べば、誰にも気付かれないしな。
次回をお楽しみ(*^▽^)/★*☆♪