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第二十四話 故郷



 ここまで案内してくれた村長と別れ、俺とルセは長老と族長、そしてお子ちゃま巫女長と一緒に神殿に向かった。



 けっして広くはないが、綺麗に整備された石畳の道。派手さはないが、温かみのある家屋。所々に木が植えられ、大きな影を作っていた。



 ドーン村とよく似ている。そう思いながら歩いていると、木の下で、幼い子供と少し年長の子供が一緒に遊んでいるのに遭遇した。

 年長の子供の側に、黒い毛玉のような小さな獣が丸まって寝ている。年長の子供が俺たちに気付く。



「巫女長様、長老様、族長様、こんにちは。お客様ですか?」



 慌てて駆け寄ってくると、元気よく挨拶し、ペコッと頭を下げる。その両手には、大事そうに黒い獣を抱えていた。



「こんにちは。ショウ、ソニン。この方は護りて様ですよ。そして足下にいらっしゃるのが、精霊獣様です。ご挨拶を」



 長老はショウと呼んだ年長の少年の頭を撫で、黒い獣の背中もソッと優しく撫でた。獣は嬉しそうに「ク~ン」と鼻を鳴らした。

 ショウは長老に促され、勢いよく俺に向かって頭を下げる。



「こんにちは。護りて様、精霊獣様。ショウと言います。この子は弟のソニンです」



 ん? どういうことだ?

 不審に思いながらも、俺は「……こんにちは」と挨拶を返す。



「ちゃんと、お兄ちゃんをしているな」

 族長がショウを誉める。



「当たり前だよ。ソニンは僕の大事な弟なんだから」



 そう言いながら、腕に抱く小さな獣を見詰める。



 弟……?

 どう見ても、それは人間には見えないが。

 そもそも、野にいる普通の獣とも違う。どちらかといえば、魔獣に近い気がする。



「僕の弟可愛いでしょ!」



 ジッと観察している俺に、ショウはニコッと笑みを浮かべる。



「……ああ。すごく可愛い」

「ありがとう、護りて様!! 護りて様もすっごく可愛いね」



 護りてとはいえ、見知らぬ人間から弟を誉められて、心底ショウは嬉しそうだ。そして、無意識に地雷を踏んでくれた。が、子供相手に大人げないことはしない。大人なら、腹に一発入れてたけどな。



 平然を装いながら、俺はニコッと笑みを浮かべる。引きつってないよな。

 だが、ショウはビクッと体を強張らせ逃げ出してしまった。

 怖がらせてしまったか。悪いことしたな。



 さっきまでショウと一緒に子供たちは、木の影に隠れ、俺とルセを遠巻きで見ている。

 護りてであると、眷族の最高位の者たちが告げたことで、敵認定はされていないみたいだけど。

 笑い掛けると、すぐに木の影に隠れる。そして、また木の影から顔を出す。

 もしかして、俺、嫌われてる? ちょっとショックだ。



「それでは、行きましょうか」



 長老に促され、俺とルセはその場を離れる。途中、俺は長老と族長に話し掛けた。



「あの子には悪いことをした。怖がらせたみたいだ」

「ショウのことですか? それなら大丈夫です。怖がってはいませんから」

 


 長老は笑いながら答える。



「それなら、いいんだが」



 にしても、ショウは魔獣を弟と呼んでいた。長老も族長もだ。家族のように思っているからじゃなくて、まるで、本当の兄弟のような言い方だった。



 もしかして、本当の兄弟だったりして。ふと、頭を過る。まさかな……ありえない。苦笑しながら、ふと過った考えを否定した時だった。



 突然、体長三メートルはあるだろう魔獣が姿を現した。

 その背中に、人間の子供を一人乗せている。子供は嬉しそうにキャッキャッとはしゃいでいた。そして魔獣の隣には、微笑みを浮かべた女性がいる。

 魔獣の出現に一瞬緊張するが、あまりにも平和的な絵柄だったので、俺は緊張を解いた。魔獣と女性は俺たちに気付き、軽く会釈をすると、先の路地を曲がった。



 里の中心部に近付くにつれ、魔獣の姿を多く見掛ける。

 体長は様々だが、里の人間たちと共存しているようだった。あの魔獣も、スザクの眷族か。たから、共存出来てるのか。でも、魔獣にしては禍々しくない。



「護りて様。先程、路地を曲がった獣と女性ですが、彼らは夫婦です。背中ではしゃいでいた子供は、彼らの子供ですよ」



 えっ? 今何て言った? 子供!? 夫婦?



「……冗談じゃないよな」

「冗談ではありませんよ。本当に、彼らは夫婦です」



 訊き直す俺に、苦笑を浮かべながら族長が答える。



 夫婦って……どうやったら、魔獣との間に子供が出来るんだ?



「アキラ様。もしかして、彼らを魔獣と思っているのではありませんか?」

 ルセが俺を見上げ、尋ねてきた。



「違うのか?」



「はい。彼らは僕と似た存在ですね。精霊や霊獣よりも、妖精に近い存在です。魔獣ではありませんよ。よく似てますが、そこにいる長老たちと同じ種族です。彼らは先祖がえりした者なんですよ。……一応、人の姿はとれますが、長時間の変異は出来ません。人の姿でいるよりも、獣の姿を好んでいます。故に、森から出ることは出来ません」



 なるほど。道理で、禍々しくなかった筈だ。

 にしても……妖精に近い存在か。だったら、妖精猫ケットシーと同類? 自然と笑みが溢れる。まぁ、それはともかく、



「確かに、出られないな」



 完璧な変異が出来ないまま外に出るのは、自殺行為だ。

 普通の人間にとって、彼らは狂暴な魔獣にしか見えないだろう。俺でさえ、魔獣に見間違えた程だ。



 よく見ると、里には様々な異形の姿をした者が目立つ。



 獣の姿以外に、一つ目の者。三つ目がある者。体の一部に獣相が出ている者。本当、様々だ。おそらく、里に住まう者の大半が、体の一部に異形を引き継いでいる者なのだろう。



 彼らは、こことは違う他の地に住むことは決して出来ない。

 それこそ、完璧なまでに人間に変異しない限りーー。



 もしそれが出来たとしても、いつバレるか、常に周囲を気にし、ビクビクしながらの生活が待っている。ストレスから夜も眠れなくなるかもしれない。容易に想像出来た。そうした生活は、何よりも精神を疲弊させる。



 他者を寄せ付けない、常に緊張を強いた生活。

 神経をすり減らし、疲れ果てた者が戻って来れるのは、異形の者が住まうこの故郷だけだろう。

 もしくは、ドーン村か。



 そんなことを考えていると、沸々と怒りが湧いてきた。



 あの高慢ちきな馬鹿ルークのせいで、しばらくドーン村は誰も住めなくなった。故郷の一つを、彼らは失ったのだ。



 湧きあがる怒りで、拳を強く握り締めた時だった。

 俺の袖口をクイクイと引っ張る者がいた。お子ちゃま巫女長だ。

 巫女長は俺を見上げると、「……ありがとう」と小さな声で礼を言った。その顔は今にも泣きそうで、でも口元は笑みを浮かべていた。


 




 大変お待たせしましたm(__)m


 最後まで読んで頂き、本当にありがとうございますm(__)m


 

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