第一話 案内人は五聖獣のペットでした※
ーー界を渡る。
それは、別の世界、異世界へと移動することを称していう。
その能力を持つのは、〈魔法使い〉と呼ばれる者だけだ。
俺もその一人だった。
「…………君が案内人?」
馬鹿なことを訊いてしまった。
……俺、疲れてるのかな?
目の前にいる、コレが案内人の訳ないのに。ましてや、人の姿でさえしていない。
見渡す限り人の姿は一切なく、いるのは目の前のコレだけだ。
「よく、お越し頂きました。五聖獣様たちから、アキラ様の旅の補助をするよう仰せつかりました、ルセと申します。これから、宜しくお願い致します」
ルセは可愛く、ペコッと頭を下げる。
「……えっ!? マジで!!!!」
嘘だろ!!
ありえね~~~~!!
「あまり、大きな声を出さない方がいいですよ、アキラ様。街が近いとはいえ、この辺りは魔物がウヨウヨいますから」
案内人(?)は俺が驚いたことに、気分を害した様子はない。
「どうかしましたか? お疲れの様子でしたら、今から街に向かいましょう」
「ちょっと、待って!! 君が本当に案内人なのか?」
「僕ではたよりになりませんか?」
しょんぼりと頭を下げるルセに、俺は罪悪感を感じる。
しかし、俺は決して悪くない。
普通、驚くだろ!!
だって……目の前に、いや、足下にいるのは人ではなく、一匹の黒い豆柴だったのだから。
「……いや、ルセがどうのこうのとは違うんだ。ただ……犬なのに驚いただけで……」
「アキラ様、僕は犬ではありません。精霊犬です。まだ、子供ですが……」
精霊犬って、犬は犬だろ。
心の中で突っ込みをいれるが、口には出さない。
でもまぁ、ルセが嘘を言ってるようには見えないしな。五聖獣が派遣した案内人(?)には間違いなさそうだ。
だが、一応俺は念のために、ルセの【ステータス】を勝手に開き確認してみた。
個人情報? んなこと、関係ない。
俺がやっていることは、当たり前の確認作業だ。
知り合いもない世界で、自分の身を守るのは自分自身。
可愛い仕草の柴犬の言うことでも、簡単に信じたりはしない。これ、常識。
ルセ(83歳 性別/オス 出身地 不明)
レベル 15
HP 345
体力 350
魔力 320
魔耐 250
敏捷性 410
知力 225
運 183
【種族】 精霊犬(精霊と霊獣のハーフ)
【職業】 案内人(アキラ専用)
【称号】 五聖獣のペット。案内人。
【スキル】回復魔法(初級 4/10)
雷魔法 (初級 6/10)
驚いた。
意外に、高スペック!!
犬だからか、体力と敏捷性が突出してるよな。
【職業】は案内人だし。ていうか、五聖獣のペットって何だ?
よく分からんが、疑ったしな、俺はルセに謝罪する。
「……悪かった。プライドを傷付けてしまって。俺はアキラ=カシキ。宜しく頼むよ、ルセ」と。
「はい!! 宜しくお願い致します」
改めて、ルセはペコッと頭を下げた。
「……さっき、この辺りにも魔物が出るって言ってたよな」
「ええ。まだ結界の影響は然程出てませんが、五聖獣様たちの力が弱くて……。それに比例するように、魔物の力が強くなってきました」
バランスが崩れかけてるってことか……
五聖獣は通常、それぞれの世界に必ず存在する。
その役割は、簡単に言えば〈世界の管理〉だ。
例えば、体に細菌が入った時、白血球で細菌を攻撃するよう指令をだすだろ。それによって、細菌は破壊される。
しかし、指令をだす声が小さかったり、隅々まで届かなかった時は、当然、細菌を殺しきれない。細菌は栄養を得て、力を増す。
その細菌こそが、魔物なのだ。
つまり今この世界は、免疫がかなり低下した状態だということだ。
なるほど……
「……とりあえず、ここから一番近い町に向かおうか、ルセ」
話し掛けると、ルセは嬉しそうに尻尾をブンブン振っている。
「はい。それなら、北の方角四百メートル程先に、グリーンメドウという町があります」
あれが、そうか……
視線の先に、微かだが、塀らしきものが見える。
ルセの最初の案内、それは、グリーンメドウの町だった。
俺とルセはデコボコした、あまり整備されていない街道を並んで歩く。
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m