第十七話 彼らは森には入れない
「ーー王命だってある。カノン様は、王命に逆らうの?王に保護されているのに?」
そう言い放ったルークの顔は、醜悪な笑みを浮かべ、完全に自分に酔っているようだった。
カノンはそんなルークの顔を見て、辛そうに顔を歪めるが、反論する言葉が見付からないのか無言を通す。ラグは僅かに眉をしかめるだけだ。そしてカノンと同様に、その口元は固く結ばれたままだった。
当然と言えば、当然か。友情などの心情は別として、カノンもラグも王国の関係者だ。「王命に逆らうの?」と訊かれれば、普通躊躇するよな。それに、王命が存在する限り、村の外で待機している兵士たちは引かないだろう。
その王命が王から発せられたか、否かは気に掛かるが……
まぁそれは、後に分かることだ。今やるべきことは、ドーン村を守ることだ。
黙っている俺たちを、正しいから何も言えないのだと勘違いしたルークは、「暫く頭を冷やしなよ。一時間待つからさ」と言い残し、兵士たちの元に戻った。
「…………俺はどうしたらいいんだ」
ルークがいなくなった後、ポツリとカノンは小さな声で呟く。その呟きを耳にして、俺はチッと舌打ちする。
「お前のことなど、今はどうでもいい。問題は、村に残った村人の命だ」
俺の発したセリフに、カノンとラグは弾かれたように俺を見た。
「そのことなら、大丈夫です。我々は森に隠れますから」
俺たちのやり取りを黙って聞いていた村長は、そう答える。
「森に?」
「はい。森には、彼らは入って来れませんので」
村長は微かに微笑んで、俺とルセを見る。
その時だった。俺は空間の歪みを感じた。と同時に、甲高い声をした少女が、俺とカノンの名前を呼ぶ。
「カノン!! アキラ君!!」と。
カンナだった。慌てて、転移魔法で飛んで来たようだ。
こんな時に。いや、ちょうど良かったか……
カンナはカノンを叱り付けようとしたが、すぐに気付いたみたいだ。この村の緊迫した雰囲気にーー。
「何かあったの?」
カンナはカノンに訊かずに、俺に尋ねた。
「カンナ。来たばかりで悪いが、今すぐ、グリーンメドウにこいつらを連れて戻ってくれないか」
俺の頼みに、カンナは難しい顔をする。当たり前だ。何も聞かされないで、戻れと言っているのだから。
カノンとラグは俺の顔を凝視する。
「訳を聞いてもいい?」
俺は首を横に振る。
「悪いが時間がない。詳しいことは、戻ってからカノンとラグに聞いてくれ」
「…………分かった。君がそう言うなら仕方ない」
俺を見詰めていたカンナは、少し表情を和らげる。だが、
「駄目だ!! アキラ君一人が残るなんて!!」
「危険過ぎる。俺も残ろう」
カノンとラグが反対する。
「二人がいると邪魔だ。グリーンメドウで身を隠していろ」
冷たく言い放つ。
「……行くよ。カノン、ラグ」
俺たちのやり取りを黙って聞いていたカノンは、厳しい声で二人を促すが、二人は、「姉上!!」「カンナ殿!!」と反対する声を上げる。
そんな二人を無視すると、カンナは俺を見据えて言った。
「帰って来たら、ちゃんと理由を聞かせてもらうからね」と。
「ああ。分かった」
俺がそう答えると、カンナは苦笑する。
そして、三人の姿がドーン村から消えた。
「……眷族の里に身を隠すのか?」
三人を見送った後、ルセが村長に尋ねた。俺と喋っている時とは全く違う話し方だ。
おお!! あのルセに威厳がある。話し方一つで、イメージがガラリと変わるな。ペットのイメージが強かった俺は、その変わり様に驚く。
「はい。暫く、里帰りをしようかなっと。護りて様、精霊獣様もご一緒に。里までご案内致します」
護りて? 俺のことか?
村長が口にした単語が気になったが、それとは別に、やはり、俺とルセの正体に気付いていたようだ。
にっこりと微笑みながら、村長は案内役をかってでた。
大変、お待たせしましたm(__)m
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪