第十六話 王命が存在している限り
俺が言い放った言葉に無言で答えるカノンとラグだが、ルークは違った。
彼は笑った。俺を心底馬鹿にするように。まるで、ゴミを見るかのような冷たい目をしながら、可笑しそうに笑う。
「脅迫? それが、どうかしたのかな? 平民が王や貴族の役に立つんだ。本来なら、ありがたくて涙を流すのが普通じゃない? わざわざ、この僕が、そんな貴重な機会を与えてあげてるんたから、感謝されてもいいと思うけど」
あまりの言いぐさに、俺はチッと舌打ちした。
これが、こいつの本心か。マジ、胸糞悪いぜ。貴族至上主義か!! どこが、悪い奴じゃないって、カノン、お前の目は節穴かよ!! 声に出さずに、毒づく。
「……ルーク」
信じられない言葉を聞いて、カノンは混乱しながらも、友の名前を呼ぶ。その声に、ルークはフワリと表情を柔らかくした。
「カノン。君は薬師だ。選ばれた人間なんだよ。そのことを、早く自覚しないと。君はエリクサーを生成して、薬師として歴史に名を残す。それが、昔からの君の夢だったじゃないか。こんな所で、立ち止まってはいられないんだよ。君はもっと高台を目指さないと。平民なんかに、気をとられている暇はないよ。大丈夫、僕が支えてあげる。だから、安心して」
カノンを見上げながら、優しい声で語り掛けるルーク。
まるで、カノンのためだと言っているようだ。少なくとも、ルークは本気でそう思っている。そのためには、村人たちの生活の場を乱すことも、命を奪うことも、たいした事ではないのだとーー。こいつに、何を言っても無駄だ。
「……ルーク、君は間違ってる」
カノンはルークから離れる。
「間違ってるって。どこが間違ってるの?」
「俺は薬師だ。薬師にとって、エリクサーを生成することは夢だ。一生涯の。でもそれは、誰かを不幸にしてまで、苦しめてまで叶えるものじゃない」
カノンの薬師としての信条を、ルークは一笑すると言った。
「そんなの、綺麗事でしょ」と。
「綺麗事でも、俺はそう思っている。人を救う薬師が、薬のために人を苦しめるなんて、本末転倒もいいところだ」
そうルークに告げると、カノンは黙って聞いていた村長の方を向き、深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。このお詫びは後ほど、きちんとした形でしたいと思っております」
「…………あーー」
要人であるカノンに頭を下げられた村長が、謝罪に対し答えようとした時だった。
「今更謝っても遅いよ!! もう、兵士は村の外にいるんだ。いつでも、突入出来るってこと忘れてない? それに僕のところには、リサだっているんだ。王命だってある。カノン様は、王命に逆らうの? 王に保護されているのに?」
ルークが声を荒げ、口を挟む。
リサ?
その名前が出てきた時、村長の顔が一瞬歪んだように見えた。だが、すぐに元の顔に戻る。
もしかしたら、リサって村長の関係者か?
『……アキラ様。もしかしたら、リサっていう娘が蘇生草を持ち出したのでは?』
ルセの目にも、村長の歪んだ表情が見えたのか、訊いてきた。
俺もその考えが頭を過る。
でもまぁ、今更ここまで来て、誰が持ち出したなど、特に今取り上げることじゃないだろう。それよりも、今一番大事なことは、如何にしてドーン村を守るかってことだ。
例え強くカノンが拒否し、護衛たちに命じても、彼らは決して引かないだろう。
王命が存在している限りーー。
しかし、その王命が本当に王から発せられた命令だったのか。俺の中でモヤモヤしたものが残った。
お待たせしました(〃⌒ー⌒〃)ゞ
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
次回ですが、12月18日(月)午前0時に更新予定です(゜∇^d)!!
明日は、「新米神様ですが、魔法使いの修行のために異世界にやって来ました」を更新します。