第十五話 静まり返った村
カノンとラグから一定の距離をとりつつ、俺とルセはドーン村に入った。
入ってすぐ、俺は何とも言えない違和感を感じた。
やけに静まり返っているのだ。まだ昼間なのにーー。
『……ルセ、妙な緊張感を感じないか?』
村の様子を見ながら、俺はルセに尋ねた。
『はい。それに……子供や女性の姿も見えませんね』
ルセの言う通りだ。
子供や女性、老人の姿が見当たらない。表に出ているのは、成人した男性のみ。それが、俺が感じた違和感の正体だった。
村人たちは、外からやって来た俺たちを見ている。視線が合えば、途端に外す。だが視線を外せば、また見ている。監視されてるような……いや、間違いなく監視している。
薬師の訪問にしては多過ぎる護衛の数。
そして、静まり返った村ーー。
何かあるな。そう俺が確信した時だった。一人の四十代ぐらいの男性が、カノンたちの前に立ちはだかった。
「今回は何用で? 例のお話はお断りさせて頂きましたが、他に何か御用でも?」
その口調は丁寧だが、声の響きは明らかに険を含み、カノンたちを警戒していた。だが、その出で立ちは一介の村人ではなく、威風堂々としたものだった。
おそらく、彼が村長だ。
スザクの眷族が住む村を治めているのだ、眷族の中でも、位の高い立場にいる者だろう。威風堂々としているのも当然か。
カノンとラグの背後に立ちながら、俺はそんなことを考えていた。にしても、例のお話って何だ?
「……無理を言ってるのは分かっている。しかし、そこを何とか出来ないだろうか? 一株でいいんだ」
態度を崩さない村長に困惑しながらも、カノンは頼み込んでいる。
「一株でも、駄目なものは駄目だと、お答え致しましたが」
首を横に振る村長。
一株? 薬草か。そこまで欲しい薬草って何だ? ……もしかして?
『アキラ様!! もしかして、蘇生草では!?』
ルセが俺を見上げる。
『蘇生草? それって、もしかして、万能薬を作る原料か?』
『万能薬? 常世では、そう言うかもしれませんね。この世界では〈エリクサー〉って呼ばれてます』
万能薬。霊薬。エリクサー。
様々な名前で呼ばれているが、実は同じ薬だ。別名、〈不老不死の妙薬〉と呼ばれている。その原材料がこの村にあるのか。なら、頷ける。物々しい外の状況。そして、村の緊張感。
だが、疑問も残る。
どうして隠さなかった? エリクサーを作る原料が存在するなら、普通、表に出さないだろう。想像出来たはずだ。今起きている状況に陥ることはーー。なのに、何故表に出た?
『誰かが、持ち出したのでは?』
確かに、それが尤もな答えだろう。
全く、馬鹿なことを仕出かしたものだ。俺は心底呆れた。その時だ。
「薬師である、カノン様が頼んでるんだ。素直に渡せばいいんだよ!!」
その場を悪化させる声が村に響いた。ルークだった。
「止めないか!! ルーク。脅してどうする」
カノンとラグが慌てて止めに入った。だがそれが、却ってルークをヒートアップさせた。
「何、甘いことを言ってるんだよ!! 彼らはこの大陸に住む平民だよ。王命に従うのは当然じゃないか!! なのに、逆らってるんだよ。だからーー」
「だから、村の外に護衛という名の兵士を置いて、脅迫しているわけか?」
ルークの言葉を遮り、俺は静かな声で尋ねた。
その場にいる全員が、俺を凝視する。
「部外者は黙ってろ!!」
ルークは目を吊り上げ俺を睨むと、怒鳴り付けた。
「脅迫って……俺は……」
反対にカノンは、小さな力のない声で呟く。
「だったら、周りを見てみろ。不自然と思わないか? 今は昼間だぞ。それに、天気もいい。なのに、何でこんなに静かなんだ?」
俺にそう言われて、カノンは始めて気付いたようだ。段々、顔色が悪くなっていく。反対に、ラグの顔色は変わらない。気付いてたな。俺はそう思いながらも続ける。
「子供、女性、老人の姿が見えない。居るのは、男性だけ。明らかに、危険だから避難させたに決まってるだろ。つまり、それほどのプレッシャーを彼らに与えていた。それを脅迫って言わないで、何て言うんだ?」
俺の問いに、カノンとラグは無言で答える。肯定だと。しかし、ルークだけは違っていた。
ありがとうございますm(__)m