第十四話 不穏な影とカルチャーショック
この世界に来て、五日目。
俺はグリーンメドウから、とても遠く離れた場所に立っていた。昨日、初めて出会った人たちと一緒に。
朝から気にはなっていた。
一言も喋らず、難しい顔をして、何かを考え込んでいるようだったから。
でもまぁ、深く関わるつもりもなかったし、ほっといたんだが、俺としたことが油断した。まさか、こいつが、あんな暴挙にでるなんて思いもしなかった。宿屋内で、いきなり腕を掴まれた瞬間飛んだのだ。
「おい!! どういうつもりだ!?」
俺はカノンに詰め寄る。
「……すまない。実は、聞いてたんだ。昨夜、君と姉上とね会話を……それで、俺も君と話してみたくなったんだ」
「それで、こんなことをしたのか!?」
聞かれていたのか。だとしてもな、全く……。俺はめんどくさそうに、溜め息を付いた。すると、
「お前!! カノン様にそんな態度をとっていいと思っているのか!!」
外野がキャンキャン吠え出した。吠えているのは、グリーンメドウにカノンと一緒に来ていたうちの一人、十代後半の青年だ。彼は魔術師らしい。
転移魔法が使えるようだから、そこそこの実力ってことか。俺には関係ないが。
「構わない。彼には普段通りで、気楽に話して欲しいんだ」
「しかし!」
「頼む。ルーク」
「……分かった」
カノンにそこまで言われ、ルークは渋々黙る。全然、納得していない。口は閉ざしても、俺を鋭い目で睨み付けてるしな。これ以上、俺とルセの側にいたら、同じことを言いそうになるのだろう。悔しそうに、ルークたちは俺たちから離れる。
「気分を悪くさせてすまない。あれで、ルークは悪いヤツじゃないんだ。誤解されそうだけど」
「別に構わない。怒ってもないから、安心しろ。で、話って何だ?」
「さすがに、ここでは話しづらいかな。別の場所でゆっくりと話したいんだ。それまでは、俺の仕事に付き添ってくれないか?」
はにかむ様に笑うカノンに、否と言いたいところだが、気に掛かることがあったので止めた。
「……分かった。今日一日付き合ってやる」
「ありがとう」
ニコッとカノンは笑う。やっぱり、血の繋がった姉弟だな。笑った感じがよく似ている。
にしても、この物々しい雰囲気は何だ?
殺気までとはいかないが……。護衛の数も気になる。こんな簡素な村に、カノンが薬師だからといって、これほどの護衛が、果たして必要なのか? そもそも、カノンたちは転移魔法での移動だろ。明らかに、護衛の数が多過ぎる。
護衛の他に、何か目的があるのかーー
ルセを見下ろすと、仕切りに耳を動かし、緊張しているようだった。
ルセから、カノンと一緒に行動している三人のうちの一人、華やかな容姿をした青年に視線を移すと、彼は俺の方を見てニヤリと笑った。
こいつ、何か知ってるのか?
「君、カンナ様にアキラ君って呼ばれてたよね。俺はラグラス=フォント。皆はラグって呼んでる。短い間だけど、宜しく」
目があった途端、ラグは自己紹介をしてきた。右手を差し出す。さっきの、くえない表情が嘘のように、誠実そうな、王子様風の雰囲気を醸し出す。
胡散臭っ!! 勿論、俺はその手を取らない。
もしかして、はぐらかされたか。
「あれっ? 騙されない。……君、面白いね」
何が面白いんだ?
王子様風の雰囲気は一変し、くえない表情でニヤニヤと笑う。
「この子は、姉上の大事な子だ。お前が食っていい相手とは違うぞ」
カノンが庇うように、俺の腕を掴み引き寄せる。
はぁ~~~~。お前たちは、何の話をしてるんだ!? 気安く触るんじゃねー!! それに食うって、誰を!? 俺をか!? 見ろ、鳥肌が立ってきたじゃねーか!! そもそも、
「俺は男だ!!」
「「だから?」」
カノンとラグは仲良くハモる。
「…………は?」
まさか、この世界はーーそっち方面OKなのか。チッ、厄介だな。
『……アキラ様、この世界の恋愛に性別は関係ないので。同性の婚姻も認められています』
毒付いている俺に、案内人(犬)のルセが、おずおずしながら告げた。とても言いにくそうに。
だからか……カンナがチセの宿屋を紹介したのは。
この時、俺は初対面のチセが言った、意味深なセリフの意味を知った。
お待たせしました(〃⌒ー⌒〃)ゞ
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
それでは、明日をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪