第十三話 声を出さずに君は泣く
深夜、皆が寝静まった頃。
貸し切りにした宿屋の最上階、一番豪華な部屋の前で、俺とルセは警護のために寝ずの番をしていた。
カンナが部屋全体に、侵入者避けの結界とトラップを張っているが、一応念のために、交代で俺たちも警護に付くことになった。ゼンは外を見張っている。カンナは仮眠中だ。
『それにしても、驚きました。まさか、あの薬師たちの目的地が〈ドーン村〉だったとは……』
壁に凭れて眠気と戦っている俺の足下にちょこんと座り、念話で話し掛けてきた。
『ドーン村って、薬草の生産地だってカンナが言ってたな』
『はい。朱の大陸の中で、上質な薬草が採れることで有名な村です。だから、薬師が訪れたいと思うのは分かるんですが。ただ……その村の住人は〈スザク様〉の眷族なんです』
スザク様? 五聖獣の朱雀かーー。
『つまり、次に行く場所が、ドーン村ってことか?』
『はい』
ルセが頷いた時だった。お客がやって来た。
「まだ、早いだろ」
交代の時間まで後数時間ある。
「眠れなくてね」
「……そうか」
「何も訊かないんだね?」
「訊きたいことがないからな」
俺がそう答えると、カンナは一瞬顔を歪めた。仄かに照らされた廊下に、その顔が映し出される。
「アキラ君は平気なの? 君もいつかは訪れるんだよ。もう、訪れてるかもしれないんだよ。君は……」
カンナは途中で言葉を濁す。
だが、俺はカンナが何を言おうとしていたのか、分かっていた。おそらく、「僕よりも才能があるんだから」と、言いたかったのだろう。
でもそれは同時に、自分が抱えている苦しみ以上の苦しみを、俺が背負うことになる。だから、カンナは言葉を濁した。
「望む、望まないなんて関係ない。力を得るということは、同時にその代償を背負うということだ」
「アキラ君は分かってない!!」
頭では理解出来る。でも、心が理解出来ない。苦しみに押し潰されそうになるんだよ!! いつも、俺の心を読んでいるカンナだが、俺はこの時、彼女の心が泣き叫んでいるのが、はっきりと聞こえた。
俺は震えるカンナの肩を引き寄せた。
カンナの体がビクッと揺れる。
「…………俺には、親兄弟はいないからな。そう意味での、カンナの苦しみは理解出来ない。だが、時の歯車に外れてしまった者の苦しみは理解出来る」
「…………」
「俺はカンナのことを忘れない。カンナも俺のことを覚えていてくれるだろ」
常世に着くまで、俺は色々な所をさ迷い旅を続けてきた。
同じ場所に長居はしなかった。出来なかったのだ。離れるのが辛くなるから。自分のことを忘れ、自分を置いて先へと進んで行く人の、後ろ姿を見たくはなかった。
俺が欲しかったのは、居場所と言葉。
忘れないーーと、いう言葉だ。
「…………ずるいよ。アキラ君は、本当にずるい。僕が一番欲しかった言葉をくれるんだから。君、本当に十七歳? もしかして、僕よりも年上? でも、ハンターカードは十七歳だし……僕は、十歳年下に慰められてるの?」
「たまには、いいんじゃないか」
「君って、本当に……(だから、僕は)」
そう呟くと、カンナは俺の胸に額を付け、声を出さずに泣き出した。
この時、俺たちは気付いていなかった。
俺たちの会話を、ドア越しに聞いている者がいたことを。
お待たせしました(〃⌒ー⌒〃)ゞ
約束通り、更新出来てよかったです。
次回、明日午前0時、更新予定です(゜∇^d)!!