第十二話 双子の姉弟
隠していた顔が露になった。
カンナを抱き締めている青年は、やはり二十代後半に見える。人懐っこい笑顔が似合う青年だ。顔の作りもどことなく似ている。髪の色も、カンナと同じ銀色だ。目の色は違うが。
……歳の離れた兄妹や親子なら、この光景は、まだ普通かもしれない。
しかし、彼らは双子の姉弟だ。
カンナにとって、弟であるカノンは愛しい存在なのだと、俺の目には映った。たからこそ、抱き締められた腕を引き離すことが出来ないのだ。カノンを傷付けたくなくて。
そんなに苦しそうな表情を浮かべながらもーー。
「姉弟の再会はそのくらいにして、そろそろ町に戻りませんか? 魔物が出ると面倒なので」
俺は敢えて素っ気なく言った。興味がないとばかりに。
その方が、カンナは安心するだろうと思ったからだ。同情されて喜ぶ人間じゃない。短い付き合いだが、それは俺でも分かる。
「すまない! 姉上。嬉しくて、つい……」
カノンと呼ばれた青年は、渋々だが腕を解き、カンナを解放する。
解放されたカンナは、赤い顔でカノンから距離をとると、薬師御一行に軽く頭を下げ告げた。
「この者の言う通りです。今から、我々が町まで、皆様をご案内致します」と。
「姉上!!」
それが、国の要人を受け入れるギルマスとしての正しい対処の仕方。
だが、カノンは納得していない。カンナの腕を掴もうと腕を伸ばすが、カンナは避ける。
「それでは、ユリアス殿、案内宜しくお願いします」
上げた腕を下ろせないカノンに代わりに答えたのは、華やかな容姿をした青年だった。いつの間にか、フードを外している。
もう一人の青年もフードを外していた。しかし彼は、華やかな容姿をした青年とは違い、黙ったままカンナを睨み付けている。
カノンがカンナに関わるのを嫌がっているようだった。
おそらくそれは、カノン以外の全員が気付いているだろう。あまりにも幼稚で、あからさまだった。
それを見て、俺は眉をしかめる。
しかしカンナは、表情を変えることなく平然と対応している。カンナには背負うものがあるからだ。グリーンメドウのギルマスとして、そこに属するハンターたちを守る役目が。
「畏まりました」
もう一度軽く頭を下げると、カンナは先頭に立つ。
右横をゼンが。左横を華やかな容姿の青年が守り、俺は後方を任される。
妙な緊張感が漂う。
厄介なことにならなければいいが……。俺は内心、そんなことを考えながら、薬師御一行を町まで護衛した。幸いなことに、魔物は現れなかった。
護衛の間も、グリーンメドウに戻り宿屋に案内してからも、カンナは業務用の話をしただけで、カノンに視線を合わせようとはしなかった。
カノンは何度か口を開こうとするが、言葉にはならない。
時の歯車から外れてしまった者ーー。
望む、望まないを問わず、力を得た者の代償の形。
代償は、得た力と比例する。
カンナの魔力は俺には到底及ばないが、かなりの魔力を有している。
結果、彼女の肉体の時間は止まった。
本当は止まってはいないのだが、酷くゆったりとしたものになった。それは、普通の人間にとって、止まっているように見えるだろう。
時には、理解しがたい化け物のように映るかもしれない。
魔法が存在する世界において、排除の対象にはならないかもしれないが、それでも十分、奇異な存在だろう。
俺は深い溜め息をつく。
何となくだが、カンナが俺をこの護衛の任に誘った理由が分かった気がした。
カンナは俺を、自分と同種の人間だと思った。
事実、そうだが……
俺はもう一度、溜め息をつく。
今、俺の目の前には、同じ双子の姉弟でありながら、生きている時が違う二人がいる。残酷にもーー。
お待たせしました(〃⌒ー⌒〃)ゞ
最後まで読んで頂き、ありがとうございますm(__)m
次回は、12日(火)午前0時に更新します。
明日は、「新米神様ですが、魔法使いの修行のために異世界にやって来ました」を更新しますので、こちらも宜しく(゜∇^d)!!