第十一話 平和ボケ
この世界に来て、四日目。
約束した時間より早く、俺とルセは待ち合わせ場所にやって来た。
てっきり、俺が一番乗りだと思っていたが、待ち合わせ場所の村の出入口に、見知った人間が立っているのに気付く。
「おはようございます」
俺は二度目に会う大男に声を掛けた。
確か……ゼンと言ったか、大斧を背中に担いでいる大男は、鋭い目で俺とルセを見下ろす。
まるで値踏みするような視線に、俺は一瞬不愉快に感じたが、特に何も言わず、ゼンの視線を受け止める。ゼンはフッと笑うと、
「カンナから聞いている。期待のルーキーだってな。俺はゼンだ。宜しく頼む」
「俺はアキラ=カシキ。足下にいるのが、ルセ。短いけど、こちらこそ宜しく」
ゼンは尻尾を振っているルセに視線を移し、眉間に深い皺を寄せる。
もしかして、ばれたか?
一瞬勘ぐるが、ゼンは何も言ってこない。ただ、難しい顔をして、ルセを見下ろしている。
「ゼンは顔に似合わず動物好きだからね。これでも。内心、ルセちゃんに頬擦りしたいんだよ、ゼンは」
カンナの明るい声が響く。
「うっせぇ」
ボソッと小さな声で吐き出すと、ゼンは顔を背ける。否定はしない。それに、耳が真っ赤だ。
マジか!? 照れてるだけか!?
「そんな顔で、俺を見るな!!」
今にも俺を殺しそうな目で凄んでくる。別に、怖くないけど。
「ゼン。そんな目で、アキラ君を睨まない」
笑いながらカンナはゼンを注意したが、怖がらない俺を見て、少し驚いているようだった。
そして、俺とゼンを見てから、「それじゃ、行こうか?」と声を掛けると歩き出した。
「薬師との待ち合わせ場所は、ここから遠いのか?」
町を出た俺は、カンナに尋ねた。
「そんなに遠くないよ。歩いて二十分ぐらいかな。あの丘の上で待ち合わせているんだ」
そう言って、少し離れた場所に見える丘を指差す。
「中途半端な場所で待ち合わせるんだな?」
「そうかな? あそこが一番無難だと思うけど」
「無難? 目立つだろ。魔物の標的にならないか?」
「普通ならね。この前も言ったけど、薬師は国の保護下にあるから、移動は基本、転移魔法なんだよ。周りに何もない方が、何かあった時に安全だからね」
なるほど。なら、話は分かる。
転移魔法は便利な魔法だが、便利な分、魔力の消費も激しい。それに、術者が一度行った所しか飛ぶことが出来ない上、コントロールが難しい魔法だ。
慣れていない者が無理して飛ぶと、とんでもない所に出たりする。例えば、空中に出たり、建物の上にだ。
下手すれば、大怪我する可能性もあるし、落ちる場所が悪ければ、最悪命を落とすこともある。
少なくとも、周りに障害物がなければ、怪我をすることもないだろう。そういう意味でいうと、カンナが指差した丘は、彼女が言った通り無難な場所だった。
納得している俺に、カンナとゼンは何も言わず、じっと見詰めている。
「何だ?」
「……もしかして、アキラ君って、転移魔法を使えたりするのかな?」
「ああ。使えるが、それがどうかしたか?」
俺がそう答えると、はぁ~~とカンナが大きな溜め息をついた。ゼンは目を見開いている。
「さっきの説明で納得してるから、もしかしてって思ったけど……。そっかぁ~~、使えるんだ。……アキラ君、君は本当に警戒心が皆無だね。僕は心から心配するよ。
いい、アキラ君。
転移魔法は、魔力の消費が激しくて、コントロールが難しい魔法なんだよ。ということは、それを扱える者は、かなりの魔力を有するだけでなく、己の魔力をコントロール出来るってことだよ。
そこ、分かってる?
確かに、アキラ君の魔力は僕よりも遥かに高い。その上、コントロールが出来るとなれば、国が黙っていない。薬師と同様、保護下に置こうと躍起になるよ。絶対に!!
アキラ君、僕が何を言いたいか分かるよね」
そこまで言われて、分からなければ馬鹿だ。
「悪い。俺が考えなしだった。これからは気を付ける。カンナ、教えてくれてありがとう」
俺は怒っているカンナに礼を言う。
教えてもらわなければ分からなかったなんて、俺は、平和ボケし過ぎていたことに、改めて気付かされた。
「僕もゼンも、この事は忘れる」
まだ、カンナは怒っているようだ。でも、そう言ってもらえて俺は助かる。カンナとゼンに借りが出来たな。
「……助かる。カンナは良いギルマスだ」
「なっ!!」
俺がカンナを褒めると、瞬時にカンナは顔を赤らめる。
あたふたしているカンナを見て、俺は首を傾げた。そんなに変なこと言ったか?
「お喋りはそこまでにしろ! 来るぞ!」
ゼンの厳しい声が上から降ってくる。
その声と同時に、空間が歪み、黒いローブを羽織った人間が三人姿を現す。皆、ローブに付いているフードを頭から深く被り、顔がはっきり見えない。
ただ、体型と鼻から下しか見えない顔から、おおよその見当をつける。
一人は背が高く、がっしりとした体型の二十代後半の青年だ。もう一人は、十代後半ぐらいの細身の青年。最後の一人は、背は高いが、他の二人に比べて華やかな雰囲気を持つ、二十代半ばの青年のようだ。
観察していると、青年の一人が叫んだ。
「姉上!!」と。
その声と同時に、一番がっしりとしている青年がカンナに抱き付き、抱き締めていた。
「……久し振りだね、カノン」
戸惑い気味の小さな声が、青年の腕の中から聞こえてきた。
お待たせしました(〃⌒ー⌒〃)ゞ
次回をお楽しみに(*^▽^)/★*☆♪