コンビニのフランケン
ふと、立ち寄ったコンビニで思いつきました。この話を読んでもらってヒヤッとしていただけたら幸いです。
怖かった、怖くなかった、面白かった、つまんなかった、などなど感想書いてもらえたら感無量です。
評価も頂けるとなお嬉しい!
「マジかよ・・・」
コンビニ勤務歴二年。平均週3出勤の俺は初めての状況に戸惑っている。
「もう一人が来ない・・・」
コンビニの夜勤は二人体制だ。しかし今このコンビニにはお客様が一人、俺が一人の二人しかいない。
「ワンオペかよ、」
現在0:15分、今日来るはずのもう一人は来る気配や遅れるといった電話もない。
しばらくしてコンビニにいたお客様が雑誌の立ち読みを終え店内を後にした。
これで本当にこのコンビニには俺一人だ。
いや、もう一人いるといってもいいかもしれない。そいつは最近入った新人で二十四時間勤務のすごい奴だ、身長約2m、ギョロッっとした大きな目、右手にはロウソクが三つ立てられるロウソクキャンドルを持っている。いつも入口から入って左手のトイレの入り口で立っていて前を通ったお客様に英語の様なよくわからない言葉を恐ろしい声で発してお客様を怖がらせるという困り者だ。おまけに目が光り口が大きく開き首が動く。
それを見た子供が泣いていた。
そいつは店長が直々に連れてきたやつで店員のほぼ皆がそいつの事を恐れている。
店長は
「口も動くんだよ!ほら!目も光る!怖いでしょ!?」
テンション高めでそいつの紹介をした。
今日は十月三十一日、ハロウィンだ。
そいつはこの日の為に連れてこられたフランケンシュタインだ、ご丁寧に大きな靴とタキシードでおめかししている。顔の造形もリアルでコンセントなんか無くても自由に店内を闊歩しそうな感じがする。
店長は凝り性でシーズンごとに店内のレイアウトを変える。今回のハロウィンはフランケンシュタインを連れてきたようだ。
店長の趣向はよく分からない。
「今日はお前と夜勤か、よろしくなフランケン。」
レジから頭だけ見えるフランケンシュタインに向かって話しかける。
”ほんとに怖いな、”
一人静かな店内、夏が過ぎたため夏の夜のように虫の鳴き声は聞こえてこない。
「Welcome to our castle for a wonderful party tonight.(今宵はようこそ我が城へ、素敵なパーティをお楽しみください。)」
「うおっ」
突然店内の角にいるフランケンシュタインが動き出し、話し始めた。
「お客様は・・・いないよな・・・?」
このフランケンシュタインは人が前を通ると音を感知して喋りだす仕組みらしい。しかし時々人が居なくても喋りだす事がある。
「驚かせないでくれ、フランケン。」
フランケンは首を動かし居ない客を怖がらせようとしている。
「さて、商品を陳列するか、」
コンビニでは深夜に昼間に納品された商品を陳列する仕事がありこれが結構めんどくさい。時間は掛かるし陳列する商品を探すのも大変だ。
「くそっなんで一人で夜勤しなきゃなんねぇんだ、」
陳列の仕事に時間を取られイライラしてくる。
ピロピロピロ~~~
「雑誌の納品で~す。ハンコお願いします。」
雑誌が納品されたらしく業者の人が店内入ってすぐの雑誌コーナーに雑誌を置いていく。
「うわっ怖いですね~フランケンシュタインですか?」
「本当ですよね~怖いからコンセント抜いて止めたいですよ。」
業者の人は店内に立っているフランケンシュタインを見て率直な感想を口からこぼした。
「では、雑誌の納品は以上になりま~す。」
「はい、ありがとうございます。」
”もう三時か、早いな、”
時計の針は綺麗に三時を指していた。
「雑誌をやれば後はやることないし早くやっちゃお~。」
雑誌の納品の後は大した仕事は無くいつも殆どの時間を監視カメラの映らない死角でスマートフォンをいじって時間を潰している。
”揺れている?地震か?”
雑誌を棚に置いている時に僅かだが身体は小さな揺れを感知した。
「Apparently it seems that customers who have not been invited get lost.(どうやら招かれざる客が迷い込んだようです。)」
俺の音でセンサーが反応したのか低い恐ろしい声でフランケンシュタインが喋りだした。
「はいはい、怖い怖い、」
英語なので何を言っているのか聞き取れなかったが気にしなかった。
「よしっ!終わった、スマホいじって今日の夜勤は終了~」
仕事を終えた俺は監視カメラの死角へと移動する。
「さて、まずはニュースでも見るかな、うわっ停電?」
その時店内の照明が一斉に落ちた。
店内は闇に包まれ店の外の電灯の明かりも消えていた。
「あ~あ、停電か、」
少しだけ冷凍食品が心配になったが大丈夫だろうと思い監視カメラの死角に戻った。
「Oh my, it's a lot of noisy party, ghosts are exciting.(おやおや、ずいぶん騒がしいパーティですね、幽霊達も大はしゃぎです。)」
またもフランケンシュタインが喋りだす。
「こいつお喋りだな。」
暗闇に包まれた店内でギョロッっとした目を光らせている。
「う~わ、こわっガチで怖い。」
そう言いながら手に持っているスマホで停電地域の情報を探す。
”この町全体停電かよ、これが本当のハロウィンナイトか?”
「Ghosts seem to want to play with you, how about playing?(幽霊たちはあなたと遊びたいようです、遊んであげてはいかがですか?)」
お喋りなフランケンシュタインは目を光らせ誰もいない店内で首を振る。
俺はフランケンシュタインの言葉を無視しスマホの明るい画面からニュースを見ていた。
「お!やっと復旧したか。長かったな~。」
店内にの照明に明かりが灯り店内全体を明るく照らす。
「今日の夕方には夕勤か~帰って寝て、起きてアニメ見てバイトか・・・雑誌でも読むか、」
雑誌コーナーで漫画を立ち読みしようと向かうとやはり音に反応してかフランケンシュタインのお喋りが始まった。
「Did you enjoy your party tonight? Let's see you next Halloween, good bye.(今宵のパーティは楽しめましたか?次のハロウィンでも会いましょう、ではさようなら。)」
「はいはい、グッバイ、グッバイ。」
聞き取れた最後の単語をそっくりそのままフランケンシュタインに適当に返した。
俺の一人ぼっちの夜勤はこうして終わりを迎えた。
―「おはようございます。」
夜勤明けの日に夕勤でコンビニの事務所に挨拶して入ると店長が少し落ち込んでいた。
「どうしたんですか?」
「フランケンが壊れちゃったんだよ~」
「へぇ~」
あいつ壊れちゃったのか、残念。そう思いながら勤退カードをスキャンしている俺を無視し店長が勝手に話し始める。
「一週間前に壊れちゃって業者に修理の依頼したら”そちらの商品の修理は受け付けてません”って言われちゃったんだよ~。」
「え?一週間前に壊れたんですか?」
なるほど、お客様が居ないのに勝手に話し始めたのは壊れていたからか、
何か見落としているような気持が解決してスッキリした。
「コンセント入れても動かなくなっちゃたけど店内に置いておくだけでも怖いからコンセント抜いておいたんだけどね~、やっぱりちゃんと動いて喋ってくれた方がいいじゃん?それに~~~~~~~」
”え?コンセントを抜いていた・・・?じゃあ、なんであいつ動いていたんだ?”
店長の言葉はもう俺の耳に入ってこなかった。
店内に置かれている壊れて動かなくなったフランケンシュタインが俺の事を見ているような気がした・・・