800年前:出会い
ーー約800年前、ヴィーレア王国某所。
「……ディガール様」
扉越しからかけられた声に本を読んでいた男が顔を上げる。
「何だ」
眼鏡を取って本を閉じると、ディガールと呼ばれた男が机の上で組んでいた足を降ろした。
「フィスターレ王国より使者が来られました」
「……へえ。珍しい。謁見の間へ通せ。今向かう」
「承知致しました」
従者の足音が遠ざかるのを聞きながら、ディガールがベッドにカードを撒き散らす。
「楽しい楽しいゲームの始まりだなァ?俺を楽しませてくれよ、勇者達よ」
1枚のカードを手に取り、ディガールは口角を上げた。
「ここまでは、予想通り。今この瞬間、既に俺の手の中だ」
ディガールの頭の中では既に何万通りもの作戦が立てられていた。
「くはっ!暫く退屈せずに済みそうだ……」
マントを翻し、暗い暗い廊下へと歩き出す。
「この霧を吸ったその時から君達は奴隷なんだが……。まあ暇つぶしに奴隷達の舞を見るのも一興だねェ。暫く、泳がせてみよっか」
ディガールがすっと目を細めて通路の横に目を向けると、柱の影から煙草を加えた男が出てきた。
「……俺は楽しけりゃ何でもいーよ」
煙草に火を付ける時にライターの火でぼんやりと輪郭が浮かび上がる。
「お前にも働いて貰うぞ」
「任せとけって相棒」
男はにっと笑うと、闇に紛れて消えた。
「相棒、ねェ。相変わらず面白い考え方をする男だ」
ディガールは少し不満そうにそう吐き捨てると、先程よりも早く歩き始めた。
早く、早く、早くーーー
この退屈な世界に、別れを。
「さァ勝ち残ってくれ、勇者達よ。この退屈な世界を、変えてみろ」