宮田仁は黒かもしれない
ガイダンスが終わり下校の時間になるまで、仁は若葉のことを考えていた。
アレは謎を解く鍵だ。入れ替わった人間を調査すれば何かわかるのか?調べるためにはなんとかお近づきになりたいが難しい。
何せ今は中学生。女子生徒と仲良くしようものなら確実に横から邪魔が入る。
結衣の時はお互い事情を知っていたから、簡単だったが若葉も仁達と同じ状況である保証はなかった。
そんなことを考えながら若葉をの方を見ていると沙也加が言った。
「小林さん綺麗だよねーお人形さんみたいで女子からも人気だし、好きっていう男子がいるのわかるよ。宮田くんじゃ無理じゃない?」
「そういうのじゃないよ。」
そんな話をしていると治が話に入って来た。
「酒井さんに言いつけるぞ。」
「いや悪いことしたわけじゃないし」
沙也加が入学式前の出来事を思い出し
「酒井さんってB組のだよね?さっきスカートが似合ってるっていうのはそういうこと…浮気は良くないなぁ」
明らかに仁を責める目をする沙也加。その話に治が乗って来た。
「宮田、そんなこと言ったの!大胆だな」
「嫌がらせに仕返ししただけだよ」
反論するも沙也加は
「あれはそんな雰囲気ではなかったよ」
ノリノリである。
「二人はそう言う関係だったのか」
圭太も乗って来た。
「違う違う。宮藤さんも話を盛らないでよ」
他愛もない会話をしていると結衣が教室に入り仁の机まで近づいて来た。
「宮田、ちょっと話したいことがあるから一緒に帰ろう」
結衣は若葉の方をすっと見てそう言った。仁にはその意味がわかったが、他の3人は違った。
「浮気の制裁だねー」
「なんだなんだ、この前のBBQの時といい。俺の知ってる宮田じゃない」
「酒井、殴っていいぞ」
3人ともそれぞれ好き勝手言っている。
「ちょっと借りてくね」
仁が反論する前に結衣はそう言って仁を連れて教室を出た。
「あの綺麗な子は誰?」
校門を出て人気の少ない路地裏まで歩いてきた。
聞かれたくなかったのだろう。
「わからない。ただ、元の小林さんがいないことを考えると、あの子はなんらかの鍵だと思う。」
「だよね。美優ちゃんいなくなっちゃったんだ…」
小林美優は結衣の親友だったのだ。親友が死んでしまったような喪失感を結衣は感じていた。
「そっか。」
仁はそれ以上何も言えなかった。結衣は少し目に涙をためたが、すぐに拭った。
結衣は先日我儘に付き合わせた自覚がある分、これ以上仁に弱さを見せたくなかった。
「小林さんと仲良くなれないかな?」
結衣は、そう切り出した。仁も気持ちは同じである。しかし、接点が見つからない。
「俺も様子を探りたいから、彼女とは話がしたい。けどなぁ、接点がないんだよなぁ」
「そうなんだよね…ナンパとかできない?」
「無理だな。やったことない。」
実は予備校時代に挑戦して失敗したことはあったが黙っておいた。
仁はくだらないプライドを守ろうとする自分の小ささが少し嫌になった。
「そうだ、同じ部活に入るとかは?」
結衣は思いついたように仁に言った。
仁達が通う中学校は部活への加入が絶対である。何か一つは部活に入らなければならない。
興味がない奴はコンピュータ部などに入ってごまかしたりするのだった。
もし、若葉が真面目に部活をやれば少しは話す機会ができるはずだ。
「なるほど、部活か。でも、それなら違うクラスでもいいんじゃないか?」
「うーん、文化部だったらいいけど、運動部はちょっと…」
「わかった。文化部なら任せた。運動部で男女合同の部活だったら俺が入るでどうだ。合同じゃなかった場合はまた考えよう」
「了解。それで行こう」
そう言って調査を始めて2週間。桜は全て散り、新緑の季節が近づいていた。もうすぐ4月も終わりである。
今に至るも仁は若葉が何部に入るのかわからないのだ。
部活の話くらいするだろうと思っていたのだが、これが全くしない。
放課後にどこかで部活やってるだろうと見学して見ても一度も合わなかった。
そんなこんなで締め切りが近い入部届けを前に唸っていたのだ。
「そんなに唸らなくても適当に決めちゃえばいいのに」
横で見ていた沙也加が言った。
「いやー特にこれといって決めてがなくてさ。宮藤は何部に入るの?」
「私?私は水泳部だよーやっぱり水の中がいいよね」
「水泳部か…プールが使えない時はどうしてるの?」
「使えない時は、お休みだねーうちの水泳部はお気楽系だから。週に一回外のプールで泳いでるよ。」
「なるほどな」
「小林さんも水泳部でね、最近一緒に泳いでるんだ。小林さん速いんだよー短距離だと勝てないんだ。」
仁は驚いて沙也加を見た。
「あーこれ内緒だったんだっけ。忘れてー」
もう遅い。これはチャンスとばかりに水泳部に見学しに行くことに決めた。
「酒井さんにに言いつけるぞー」
言いつけるも何も結衣だって承知している。
「酒井は関係ないよ」
「浮気者だー女の敵め」
そんなことをいう沙也加を放っておいて放課後で騒がしい教室を後にした。
校門に差し掛かったところで、小林若葉が立っており目があった。
「お疲れ様」
仁はそう言って立ち去ろうとした。変に接点を作らなくてもこれから色々チャンスは来るのだ。
「お疲れ様。宮田くん、私に何か言いたいことがあるの?」
そう言われて仁は驚き、ひどく動揺した。若葉は明らかに疑いの目を仁に向けていた。
「いや、特にないけどどうして?」
仁はできかけた接点を壊さないように慎重に答えた。
「ないなら別にいいよ。よく見られている気がしたから聞いただけ」
仁は若葉の観察力に驚嘆した。接触には慎重を期す必要があると考えた仁は身構えた。
「あーみんなが集まってるからすごいなと思って見てたんだよ。悪かった。ごめん。」
「そっか。こっちこそ変なこと言ってごめん。それじゃね」
そういうと若葉は駅の方に帰っていった。仁は若葉の方を振り返らずに家路に着いた。
仁との距離を確認しながら、若葉はつぶやいた。
「宮田仁は黒かもしれない」