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過去巡礼-おじさんが過去と向き合う話-  作者: 山芋の短冊
序章
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序章

あの日に帰ってやり直したい。

人間なら1度は感じたことがある感情だ。日々刺激に満ちていた小学生時代、将来の自分に不安を持ちつつもくだらない事で友人と盛り上がった中高生時代、余った時間で好きな事に興じた大学生時代、希望に溢れた新人時代…憂鬱な現実から逃避するための妄想に過ぎないが、ひと時でも逃げる事で人は安らぎを得られるのだろう。致命的な失敗で失ってしまった大切なものを取り戻したい、後悔をぬぐいたい。そう思ってもそれは願わない非現実的な夢である。


2017年3月某日、都内のオフィスでパソコンに向かう1人の男がいる。男の名前は宮田仁34歳。眼鏡をかけ少し白髪混じりの頭を掻きむしりながら残業をこなす中年の男性だ。因みに独身かつ独り暮らしである。某電機メーカーで研究職をしているのだが、世界でも有数の大企業だったこの企業は買収した子会社が大赤字を出し今や将来の見通しも立たなくなってしまった。仁が行なっている研究は収益に直結しにくい研究であったため、その煽りを受けて続けられなくなってしまったのだった。


「あー、コーヒー飲みたい。タバコ吸いたい。休憩しよう」


仁以外誰もいないオフィスで独り言を呟いて席を立った。自販機で安い缶コーヒーを買い、喫煙所でタバコに火をつけた。今や喫煙者の肩身も狭くなり禁煙を考えているがやめられない。薄暗い喫煙室で今後の身の振り方を考えるも、仁は憂鬱になるだけであった。そして憂鬱になった気分を楽にするための妄想が始まった。あの時博士課程に進学して大学に残った方が良かったのだろうか。俺よりダメだった同期の篠原も地方の国立大学で講師をやっているんだから、俺も残っていれば…しかし、仁はその考えを否定した。篠原は仁よりは優秀ではなかったが根性はあった。また、住む地方をまるで気にせず適応する事にも長けていたし、何より大学が楽しそうだった。酒の席で任期付きのポジションを渡り歩いていた篠原の話を聞くたびに、博士課程に進学しなかった自身の選択に安堵しておいて今更虫のいい話である。


「俺に教員の適性はないしな」


そんなことを呟き、友人を見下した自分を嫌悪した。今高校生に戻って女子高生と付き合いたい。いや、中学生に…先程まで少しは真面目に人生の決断に悩んでいたはずが、思考がくだらなくなっていく。


「疲れてるな…もう帰ろう」


仁はオフィスのデスクに戻り帰り支度をして会社を出て、電車に乗って家路に着いた。時間は夜の10時。この時間電車はまだまだ混んでいたが、何とか座ることができた。このまま少し寝てしまおう。仁はそう思って目を瞑ってすぐに寝てしまった。残った仕事は明日やればいい、そう思っていた宮田仁に明日はこなかった。

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