オッサンは宿の食事を食べた
宿の主人の一声で第一回お辞儀大会が終わり、オッサンは無事に宿屋の中へ入ることが出来た。
そう、今までの会話は全て宿屋の玄関口で行われていた。ガッツ40歳、仕事はどうした?
その後、宿屋の娘ピノに案内されてオッサンは部屋へと入る。
日本で言うところの四畳半程の広さの部屋。扉から見て左の壁側にベッド、右側に簡単な書物等が出来そうな机と椅子が置いてあった。宿を利用する冒険者達がこの机を利用することがあるのかは謎であるが最低限の設備は揃えているのだろう。
そして奥には透明度の低い窓が設置されていた。
「こちらがお客様のお部屋になります」
幼女の少し舌っ足らずな説明を受けるオッサン。ここが日本であれば事案である。幸いオッサンは幼女たいして特殊な性癖は持ち合わせていないので何も起こらない。当然である。
ただ、幼女に対しては保護欲のようなものは感じている。それはいつか愛に変わるのか?いや変わらない。変わらないで欲しい。主旨が変わってしまうから。
幼女にお礼を言い、早速オッサンはベッドに横になった。
固い。
当然である。この世界は技術レベルが低いので当然の事ながらベッドのスプリングや低反発マットなんてあるわけがない。
ちなみに、こちらの宿では木製のベッドに乾燥した藁を敷き詰め、その上にシーツを被せてから更に藁を敷き、その上に厚手の敷ふとん兼用シーツを轢いているので、この世界の寝具事情から言うとかなりの高待遇である。
良質な睡眠は明日への活力と元冒険者の主人のこだわりの一つである。
固いと思っていたベッドだが知らず知らずのうちに披露していたのかオッサンは浅い眠りに誘われて行った。
コンコンコン……
控えめなノックが聞こえ、オッサンの浅い眠りはすぐに覚醒を迎える。
半透明の窓から差し込む光は夕暮れからさほど変わってないように思えるので五分程の仮眠だったのだろう。
オッサンはノックの音に返事を返しつつ扉を開けた。
扉の向こうにいたノックの主は先程の幼女であり、もうすぐ食事の提供が始まることを知らせに来てくれたらしい。よく出来た幼女である。
幼女に返事を返しつつオッサンは一階の食堂へと向かった。
すでに食堂には何組かグループ毎に固まりながら食事を取っていた。パーティメンバーであったり、知り合いであったりするのだろう。
当然オッサンには共に食事をしてくれる人なんていないのでトイレで静かに食事を楽しみたいという衝動を抑えつつ、食堂のカウンターで料理の載せられたトレーを受け取り、誰もいないテーブルへと腰掛けた。
トレーに載せられた料理達。
コッペパンのようなパン。焼きたてだ。しかもデカイ。
シチューのような若干トロみのある白いスープ。
何かの塊肉を豪快に焼いたステーキ。申し訳程度にサラダ。
ほか弁の付け合せサラダを下回る量だ。多分、冒険者達はサラダなんて食べないのだろう。
もちろんナイフとフォーク、スプーンも付いている。
オッサンはトレーに収められた料理の数々をみて感動していた。
(これは久しぶりのマトモな食事だ)
このオッサン、普段は何を食べているのか。
ただ、それに関してオッサンに非はない。オッサンは底辺の派遣社員。もちろん派遣社員が底辺ではなく、オッサンが底辺なだけである。
ゲームをしながらのチャットであればブラインドタッチが可能なのだが、仕事でパソコンの前に座ると指二本でタイプをし始めるのだ。
閑話休題
オッサンは両手を合わせて小声でいただきますの挨拶をしてから料理を口に運んだ。
そしてオッサンは涙を流した。
「旨い……」