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オッサンは採取依頼を完了させた

 冒険者ギルドを後にしたオッサン。

 とりあえず街の外に出て近くの森へと向かう。

 おおよその場所はマップを見れば表示された。

 太陽の位置は真上から少し傾き始めたので十四時くらいだろう。

 恐る恐るの早歩きで森へと向かった。



 採取自体は特に苦も無く行うことが出来た。

 学生時代に園芸部に所属して部長を務めていた実績は伊達ではなかった。

 但し、オッサンが部長をして、副部長も兼任して、書記や会計も兼任していた一人部活だったが……


 薬草とは薬になる草だ。読んで字のごとく。

 薬となる部分は葉が一般的だが、薬草の種類によっては茎や根も薬となる場合がある。

 これはゲームの採取レベルが関係するのだが、採取レベルが上がるとより薬効の高い薬草を採取することが出来る。

 採取した薬草は、葉と茎と根に分かれていたのでオッサンは薬草を土ごと採取し、魔法で生み出した水で洗い、根を傷付けないようにしてアイテムボックスに入れていった。



 土を弄るのは楽しい。

 花も草も生き物だ。こちらが毎日声をかけながら水を与えれば、その呼びかけに応えるように見事な花を咲かせてくれる。



 そんな事を考えながら作業に没頭しているといつの間にか太陽が沈みかけていた。

 辺りはオレンジ色に染まり始め、オッサンは街まで恐る恐る早歩きで帰っていった。



 登録証を提示するだけで入場税は免除された。

 税金関係はギルドの報酬から予め引かれているみたいだ。

 その日暮らしの冒険者なので最初から引いておかないと取りっぱぐれるらしい。



 数時間前に歩いた道を再び歩きオッサンはギルドの扉を開ける。



「あ、おかえりなさい」


 先ほどの受付嬢が出迎えてくれた。これは運命の出会いだろうか。違う彼女はまだ仕事中なだけだ。


「薬草の採取ですね。こちらのトレイにお願いします」


 受付嬢がトレイをカウンターに乗せる。

 オッサンは事前にアイテムボックスから移し替えていた袋から薬草を取り出していく。運動会で行われていた玉入れの結果発表のように。流石に数を数えることはしなかったが……


 ひとつ目の袋が空になった。そう、ひとつ目だ。

 オッサンはふたつ目の袋を取り出した。受付嬢の顔が引きつる。


 普段は人の顔色を伺いまくるオッサンだが、自分の仕事の成果を見てもらえる喜びでそんな事は気にしちゃいない。もしもオッサンに尻尾が付いていたなら全力で左右に振られていただろう。オッサンの尻尾って誰得なのか。


 救いだったのは時間的に受付カウンターに並ぶ冒険者がいなかったこと。

 左手の飲食スペースではすでにオッサンの事など誰も気に留めず酒を飲んで楽しげに騒いでいたこと。

 明らかな異常事態でも叫び声を上げなかった受付嬢のプロフェッショナルさであった。



 全ての薬草を出し終わったオッサンは強張った顔の受付嬢に気付き、恐る恐る告げる。



「……あ、あの、、、以上です」

「あなた異常ですね」


 今までと違う受付嬢の低い声にオッサンはビクリと震える。派遣時代に明らかに自分より年下の若造に怒られる状況に酷く似ている。

 自分の何が悪かったのか、自分に何か不手際があったのか、オッサンはチワワのように小刻みに震え始めた。


「まぁ、いいです。それでは提出いただいた薬草を鑑定してきますので少々お待ち下さい」


 そう告げて受付嬢はトレイを持ちカウンター奥のバックヤードへ消えていった。



 オッサンは考えた。

 ネット小説等である展開だと。これはテンプレだと。

 短時間での異常とも言える仕事の成果。これは百年に一人の逸材的なお褒めの言葉を頂けるかも知れない。

 ついでに受付嬢が自分に惚れて告白されるかも知れない。それで行く行くは結婚なんかして小さな庭付きの家を買う事になるかもしれない。あ、犬を飼おう。コロコロと丸くて小さな犬を……


 オッサンが童貞にありがちな明後日の妄想を膨らませている間に受付嬢は静かに戻りオッサンに数枚のコインが置かれたトレイを差し出す。


「おつかれさまでした。こちらが報酬になります」


 彼女はどこまでもプロフェッショナルであった。




「……あ、はい……そ、それだけですか?」

「他に何か……?」




「……い、いえ、何もありません」


 オッサンは思ってた以上に反応の薄い受付嬢にすっかり意気消沈しつつ、近所に宿泊施設がないかを訪ねてからギルドを後にした。

 その背中は小さく、くたびれていた。





 オッサンがギルドを出て行ったのを確認してから受付嬢は深く息を吐いた。

 あのオッサンは何者だろうか。あの短時間で採取できる量ではなかった。明らかに異常であった。

 事前に採取をしておいて一気に持ってきたとは考えにくい。提出された薬草は葉も茎もまだ若干の水分を含んでおり新鮮なものだった。

 薬草の根も一緒に採取してあったことから薬草学に精通しているのか、知識はあるみたいだった。

 それと仕事が非常に丁寧で丁重であった。冒険者になろうとする者達は粗暴なものが多く、仕事の丁寧さよりも荒くても数をこなそうとするものが多い。


 それらを考えるとオッサン自体が異常に思えた。

 

 自分もプロの受付嬢。先ほど一瞬だけペースを乱してしまったが、その後は冷静に対応できた。

 何故かオッサンはがっかりしていたが……ひょっとして褒めて欲しかったのだろうか?良い年したオッサンが?こんな小娘に?


 次に来た時は少しだけ優しく対応して上げましょう。

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